台風に、雷雨。続く残暑。厳しい天候のせいか自分の才の無さか、ベランダで育てていたミニトマトはカラカラに枯れてしまった。最近は自宅近辺どころか3駅四方までの立ち食いそば店は行き尽くしてしまった。そのため、この取材はいつも少しだけ遠出だ。今回は有楽町。訪れたのは「都そば」である。
東京に住んでもう20年になるが、根っからの方向音痴なので、有楽町と銀座や新橋などの位置関係が未だに曖昧だ。追い打ちをかけるのが碁盤の目状の街並み。もうお手上げである。さて、有楽町はビックカメラと東京国際フォーラムの印象しかなかったが、調べてみれば帝国劇場というスポットもあった。学生時代、演劇制作に勤しんだこともあったが、裏方の仕事が好きだっただけでほとんど芝居を観に行く習慣を持たなかったため、一度も入ったことはない。大通りには突如として華やかな大判ポスターが目立つ。今回の「都そば」は、この帝劇ビルの地下2階、帝劇サブモールのテナントのひとつである。
帝劇ビルの地下にある立ち食いそば
午前10時、ほかの店舗はまだ準備中の中、早朝から開店し既に温まっている当店。戸はなく、短いのれんで仕切られているのみである。手前に立ち食いカウンター、奥に着席用テーブルが数脚置かれている。先客が1~2名いたものの、店内は静かで作業音のみが響いている。と思うやいなや、厨房から「なんになさいますか?」の声。おばさまが2名体制で切り盛りされているようだ。壁上に並んだ短冊から思案。きつね、わかめ、コロッケ、ざるなど、種類は多くないものの、カレーや丼物、ラーメンもあり、小瓶だがビールも置いてあった。観劇前に腹の虫が騒がないよう、少し入れていこうか。そういう使い方もあるのかもしれない。この店のウリはもうひとつ。ツユが関東風と関西風から選ぶことができる。頼んだのは「かき揚げ天そば(関西風)」(420円)。関西風ならうどんやろ、という声もあるかもしれないが、ここはそばでいく。代金引換式。「お釣りが細かくなってごめんねえ」と優しいタメ口。
さっぱりな関西風ツユが沁みる一杯
……と注文した5秒後。トレイには既に「かき揚げ天そば」が置かれていた。麺が茹で置きにしてもさすがに早すぎて、水を汲む暇もなかった。かき揚げはエビベースで、香りも味も申し分ない。細かく刻まれたネギは多め。関西風のツユはさっぱりしており、お吸い物のようにゴクゴクいける。高級な食材ではなかろうが、そば、天ぷら、ネギ、それぞれの味が際立つ役割もあると思う。麺は、茹で置いて若干伸びたのか、はたまた元々のボリュームか、量は十分。ごちそうさまでした。
無機質で生活感のないこの街並みが実はあまり好きになれなかったのだが、安くてうまいそばを出す気取らないおばさまが、帝劇の地下にいる。そう思えば、ここ丸の内の見方も少し変わった気がする。