定番のDAWソフト、Cakewalk SONAR X2を使って音楽制作を始めるための基礎知識や音楽制作のヒントを解説していく本連載。 SONAR X2には、強力な編集機能や即戦力のプラグイン群など、本格的な音楽制作に必要な要素が凝縮されていますが、今回はボーカル楽曲を作るうえで、最も威力を発揮してくれる「V-Vocal」に注目してみましょう。
ボーカル楽曲の主役はいうまでもなくボーカルですから、ボーカルの良し悪しは楽曲の完成度に大きく影響します。例えばどんなにいいメロディーや歌詞、カッコいいバック・トラック(カラオケ)を作っても、肝心のボーカルの音程がハズれていたり、歌詞が聞き取れなければ魅力も半減してしまいますよね? V-Vocalを使えば"惜しい"ボーカルは完璧に、元からいいボーカルならさらに完成度を高めることができるのです。
V-Vocalでピッチを修正しよう!
ボーカルをレコーディングする際、うまく歌えるまで何度でも録音するのが理想ですが、テイクを重ねていくうちに、ボーカリストのコンディションが変化して声質が変わったり、またスタジオの時間や予算的な理由やスタジオから帰ってから問題に気付いた……など、いろいろな制約が付きものです。
そこで、現在の音楽制作ではボーカルの補正や足りない部分を補うための「ボーカル編集」と呼ばれる作業が行われています。今やレコーディングしたボーカル・テイクを無加工で使うというケースはまれといってもよく、ボーカリストの実力によって程度の差はありますが、より完成度の高いボーカル・テイクを作るために、何かしらの修正が行われているのが一般的です。V-Vocalは、そんなボーカル編集を統合的に行うことができる機能です。
ボーカル編集で最もイメージしやすいのが、音程を修正する「ピッチ補正」です。人間ですから、どうしても楽器のような完璧な音程で歌うのは難しいもの。V-Vocalを使えば、ズレてしまった音程を簡単に修正することができます。
オーディオ・クリップをV-Vocalで読み込むと、自動的にボーカルのピッチ(音程)を検出し、黄色いラインで表示してくれます。画面の縦方向は音程、横方向は時間を表しており、マウスで黄色いラインを上下にドラックするだけで、正しい音程に修正することができます。ちょうど、ピアノロールでMIDIデータの音程を変更しているのと同じ感覚で操作することができます。では、実際の作業の様子を動画で見てみましょう。
ピッチを修正する手順
【1】ボーカルのクリップを選択し、「V-Vocal」メニュー→「V-Vocalクリップの作成」を選択。
【2】検出されたピッチをマウスで上下に移動し、正しい音程に修正する。
V-Vocalでさまざまな補正に挑戦しよう!
V-Vocalで修正できるのは、ピッチだけではありません。正しいタイミングに修正できる「TIME」、声質を調整できる「FORMANT」、音量を上下させる「DYNAMICS」モードを使い分けることで、完璧なボーカル・テイクを生み出すことができます。それぞれの使い方を簡単に紹介しましょう。
◆TIME
ボーカル修正というとピッチ補正に目が行きがちですが、ある意味でピッチより重要なのが"リズム"の要素です。TIMEモードでは、ボーカルのタイミング調整の際、波形を見ながら視覚的に修正していくことができます。
タイミングを修正する手順
【1】V-Vocalの画面左下から「TIME」を選択する。
【2】波形を見ながらタイミングを修正したい場所を探し、波形の始まる部分でダブルクリックして緑の線を追加する。
【3】同様にタイミングを変更したい波形の終わり部分にラインを追加する。
【4】ラインをマウスでつかみ、左右にドラックする。
◆FORMANT
フォルマントとは、声質を決めるパラメーターのことです。V-Vocalではフォルマントを変化させることで、ボーカルのキャラクターを微調整することができます。
フォルマントを修正する手順
【1】V-Vocalの画面左下から「FORMANT」を選択する。
【2】波形内の赤いラインを上下に操作することで、フォルマントが変化します。上方向で明るい、下方向で暗いキャラクターになります。
【3】特定の範囲だけを編集したい場合は、波形を見ながらマウスで範囲選択してから、ラインを上下します。
◆DYNAMICS
メロディーや歌詞によっては発音のしやすさが変わり、それが音量の差になります。つまり発音しやすい箇所では大きく、反対に発音しにくいフレーズは音量も小さくなりがち。音量差が激しいと聞きにくくなりますし、音の小さい部分では歌詞が聞き取りにくくなってしまいます。そこで、音量差を均一にして聞きやすく仕上げることができるのがDYNAMICSモードです。
ダイナミクスを修正する手順
【1】V-Vocalの画面左下から「DYNAMICS」を選択する。
【2】波形内のオレンジのラインを上下に操作することで音量が上下します。操作に応じて波形の大きさ(振れ幅)が変わるので、視覚的に音量感を確認することができます。
【3】特定の範囲だけを編集したい場合は、波形を見ながらマウスで範囲を選択してから、ラインを上下します。
簡単にボーカル・トラックの諸問題を解決することのできるV-Vocalは、ボーカル楽曲制作に欠かすことのできない機能です。また、メイン・ボーカルからコーラス・パートのハモりを作ったりなど、アイディアしだいでいろいろな活用法を秘めています。細かい作業ですが、手間を掛けただけの効果は期待できるので、ぜひこだわってみてくださいね。