富士通ゼネラルがエアコンメーカーとして培ってきた知見を活かして、首に装着して体を冷やすウェアラブルスタイルのエアコン「Comodo gear(コモドギア)」を商品化しました。申し込みのあった企業に対して、有償で貸し出すレンタルサービスを2020年夏から開始しています。
今回は富士通ゼネラルを訪問して、コモドギアを担当する尾形志郎氏、佐藤龍之介氏に開発秘話を語っていただきながら、新製品の冷感効果を試してきました。
コモドギアはどうやって体を冷やすのか
コモドギアは頸部(=首)を冷やすネックバンド部と、バッテリーパックを積んだラジエーターによるセパレート構成の製品です。ネックバンドとラジエーターの間は固定式のケーブルでつながっています。
「頸動脈を狙って冷やしながら、体の芯を効率的に冷やすことで本格的な冷却効果が得られます」(佐藤氏)
ネックバンドの内側左右と後方に搭載するサーモモジュールというデバイスに電気を送ると、中に組み込まれているペルチェ素子という電子部品が動き出します。ペルチェ素子は、片面の熱を、もう片面に移動させる働きがあります。つまり、首に接する面の熱を、ネックバンド外側に逃がすことによって、冷感効果を実現する仕組みです。
ネックバンドとラジエーターをつなぐケーブルは、ラジエーター(バッテリーパック)からネックバンドへと電源を供給するほか、ケーブル内には純水が循環しています。この純粋がネックバンドのサーモモジュールに発生した熱を冷やし、純水がラジエーターに戻って冷やされるわけです。ラジエーターの熱を冷ますために、空冷ファンも内蔵しています。こうした構造によって、頸部を冷やすエアコン効果がヘタらずに長く続くのです。
ラジエーターに装着するバッテリーパックは交換式。3時間でフル充電にしてから、約2~4時間連続して使えるそうです。
ネックバンド部は約170gと軽く、シリコン製のバンドを直接首の肌に当てながら使います。バッテリーを内蔵するラジエーター部は約670gと、手に持つとまあまあ重さを感じますが、クリップで腰のベルトに装着するとさほど重く感じません。
ラジエーターパックのボタンで電源のオンオフを切り替えて、冷却効果の強弱をダイヤルで4段階から選びます。冷たさの緩急を自動調整してくれるAUTOモードもあります。
「めっちゃ気持ちイイ!」と声を上げていた
今回は取材班もコモドギアを体験してきました。新型コロナウイルス感染症への対策のため、しっかりと衛生管理された富士通ゼネラルのオフィス内で体験しています。室内にいてもじんわりと汗ばんでくる暑い日だったので、コモドギアの実力を存分に知ることができました。
結論を言ってしまうと、しっかりと冷却効果を実感! とても気持ちいいです。コモドギアを身に着けた途端、マイナビニュース・デジタルの林編集長も思わず「めっちゃ気持ちイイですね!」と声を上げていました。
肌に本体が直接触れるので、筆者は急にひんやりしないかビクビクしながら電源をオンにしましたが、心配無用でした。首によく冷えた「ぬるくならない濡れタオル」をずっと当てているような感覚です。ラジエーター側のダイヤルで心地よく感じる温度にアップダウンもできるのも安心です。長く使っていても冷たさでツラくなることはないでしょう。ネックバンド側は水冷方式で冷却効果を保つ仕組みなので、耳元でファン音がうるさく鳴り続けることはありません。
ネックバンド部がとても軽く、首にさっと身に着けられ、シャツの襟元に引っかけるのも簡単です。防滴・防汗性能の検証は行っていないそうですが、佐藤氏は「体に優しく、温度で溶けないシリコンゴムを素材としているため耐久性は心配ありません」と話しています。
あえて気になった点を指摘すると、ラジエーターを腰に付けてから約1mのケーブルを背中にうまく引き回すのにコツがいること。ただ、これも数回着脱を経験すればすぐに慣れます。
サブスクリプション型のレンタルサービスからスタート。一般販売は?
コモドギアは発表直後から、現場作業員を多く抱える建設業界、屋外設備のメンテナンス業務を請け負う企業などから、ひっきりなしに問い合わせがあるそうです。尾形氏は、変わったところでは競馬場のスターター人員や、たばこの販促スタッフなど夏の炎天下で働く人の暑熱対策として、コモドギアを導入したいという声を受けていると話します。
出荷は2020年の夏から開始され、当初は国内に拠点を置く企業から申し込みを受け付け。機材は「約1カ月間で5,000円/1台」というレンタル価格で、富士通ゼネラルから直接貸し出されます。貸し出し機材の台数は鋭意拡大中とのこと。
尾形氏は「当初はサブスクリプション型のレンタルサービスから始めましたが、今後は売り切り型のビジネスモデルも視野に入れて検討しています。現在は企業のお客さまのみを対象としていますが、個人のお客さまのご要望にも応えられる良い方法を探りたい」と語っています。
サイズ調整やラジエーターの小型化も課題
今回はコモドギアを身に着けて快適なフィット感を得られましたが、ネックバンドはサイズ調整できない構造なので、今後は女性や子どもにも身に着けやすいように「フィット調整」の機構を持たせるべきかもしれません。尾形氏は、ネックバンド部に多段階のアジャスタブル機構を設けるか、または本体サイズを選べる仕様にするなど、いろいろと検討を進めていきたいと話していました。
ラジエーターは小型なほど身に着けやすくなってありがたいはずですが、尾形氏は「バッテリーセルを小さくしたり、セル周辺の機構を見直せば現在の半分ぐらいのサイズにできそう」だとしています。
また、コモドギアを身に着けて、手が離せない作業に携わる現場作業員の方々からは「ハンズフリー」で使いたいという要望もきっと出てくるでしょう。佐藤氏はスマホアプリや音声で動かすことも技術検証はクリアできていると話しています。次世代モデルの開発も進んでいるそうなので、期待して待ちましょう。
コモドギアが一般コンシューマーも購入できるようになると、一体いくらぐらいの価格設定になるのでしょうか。尾形氏は「目安は4~5万円くらいではないか」と話していますが、同時にレンタル利用も推奨したいと述べています。その理由は「レンタルのほうが使わない時期に置き場所を取らないし、当社でコンディションを調整したベストな機材を毎シーズン使っていただきたいという思いがあるから」だとします。
発想がとてもスマートなコモドギア。世界進出も果たしてほしい
本連載のタイトルは「つながるスマート家電」ですが、コモドギアはインターネット接続を必要としないスタンドアロンタイプの業務用家電です。筆者はコモドギアの独創的なアイデアがとてもスマートだと感じて、富士通ゼネラルに取材しました。
家電はインターネットにつながって、AIのサポートを受けながら動けるからスマートなのではないと考えます。年を追って過酷さを増す日本の夏を安全に乗り切るため、家電に最先端のテクノロジーを注ぎ込んで、シンプルながら高い効果を得ることができれば、その結果として付いてくる体験はとてもスマートなものではないでしょうか。
実際には今後、富士通ゼネラルが展開するビジネスモデルだったり、コモドギアが売り切り販売もされることになれば、価格設定も一般の評価を受けることになります。しかし、暑さ対策という多くの人々の困りごとを解決してくれそうな「ウェアラブルエアコン」が、ユーザーの声を聞きながら地に足を着けた進化を遂げていけば、立派なスマート家電に成長できそうな期待が持てました。同じく夏の暑さ対策を必要とする海外の国や地域に暮らす人々にも、ぜひコモドギアが使える日が訪れてほしいと願っています。