これまでアイウェア(メガネ)タイプのウェアラブルデバイスといえば、VR/ARのエンターテインメントコンテンツを楽しむための製品が中心でした。国内スタートアップ企業のViXion(ヴィクシオン)が、人間の「視るチカラ」を拡張する新しい“オートフォーカスアイウェア”「ViXion01(ヴィクシオンゼロワン)」を、クラウドファンディングサイトからローンチします。
今回はViXionを訪ねて、販売企画・推進に携わる経営企画部長の岑弘一郎氏と、開発部門の責任者である取締役 開発部長の内海俊晴氏にViXion01が生まれた背景を詳しく聞きました。
「見え方」の困り事を解決するために開発された「オートフォーカスアイウェア」
ViXion01は、メガネと同じように装着して使うスタンドアロンのウェアラブルデバイス。未来的な外観はデザインオフィス nendoのチーフデザイナー、佐藤オオキ氏が手がけています。
国内のクラウドファンディングサイトは、「Kibidango」と「GREEN FUNDING」からプロジェクトが起ち上がり、どちらのサイトも既に目標金額に到達しています。価格は70,800円(送料込・税込)。支援は2023年9月30日まで受け付けています。
ViXion株式会社は、2021年に国内の大手光学レンズメーカーであるHOYAからスピンアウトしました。ViXion01の開発を指揮する内海氏も、もともとはHOYAの社内で半導体の製造に欠かせない部材開発に携わっていたエキスパートです。
「私がHOYAに在籍していたころは、夜盲症(やもうしょう)という暗い場所や夜間に目が見えにくくなる病気で困っている方々を支援するプロジェクトに携わっていました。HOYAからは暗所視支援メガネのMW10という商品も発売しています。そしてより一般にも広く、視力のことでお困りの方々に向けたものづくりをするため創業した会社がViXionであり、初めての商品がViXion01です」(内海氏)
シンプルな初期設定。フォーカス合わせもスムーズ
都内にあるViXionのオフィスを訪ねて、ViXion01を体験しました。コンセプトを「オートフォーカスアイウェア」としているViXion01は、手元から遠くまで見たいものに視線を向けるだけで、ユーザーの「見え方」を自動でサポートします。
最初は初期設定。本体の電源を入れて鼻パッドや左側のテンプル(つる)を曲げながら、装着バランスを調整します。レンズは指で左右にスライドさせて、瞳孔間距離(黒目の中心位置調整)を変更できます。レンズの口径がやや小さく、視野が若干狭いため、クリアな見え方を確保するためにも位置調整はしっかり行います。
さらに本体下側のダイヤルを回して、右目から視度を調整します。左右の視力が異なる場合、本体上部の「左ボタン」を押しながら同じダイヤルを回すと左目だけ視度調整できます。筆者は左右の目で視力が違うため、この機能を設けたViXion01の配慮に感服しました。
以上、初期設定を済ませるとデバイスに状態が保存されます。次回以降、設定を繰り返す必要はありません。なお毎回の初期設定という手間はかかりますが、家族や特殊な作業に携わるオフィスのチームなど、複数人で1台のViXion01をシェアすることも可能です。
装着して手元を見ると、すぐにピントが合いました。続けて室内の遠くに視線を向けると滑らかにピント調整が行われて、視界がクリアになります。小刻みな視線移動を伴う作業には向いていないかもしれませんが、一般的な使い方には十分と感じるオートフォーカス性能でした。
ViXion01は医療用機器ではないため、メーカーは本機を「メガネ」とは呼ばず、さらに視力補正に使うデバイスという表現をしていません。筆者が試した印象をお伝えすると、ViXion01は1枚のレンズだけで近くも遠くも見える「遠近両用メガネ」によく似ていると思います(繰り返しますがViXion01は「メガネ」ではありません)。ただ、遠近両用メガネの累進レンズは部位によって見え方が変わり、境界線の間で視線を移動すると歪みが気になることがあります。ViXion01はレンズの口径こそ小さいものの、視野に不自然な歪みがありません。
ViXionの独自技術とは?
独自のオートフォーカスについて、仕組みを内海氏に聞きました。
「ViXion01は装着したユーザーの手元5センチの距離から、遠くは無限遠まで瞬時に焦点を合わせます。詳しい仕組みは非公開ですが、光学と電子の技術を掛け合わせながらレンズの形を変えています。幅広い方々の見え方に合わせてオートフォーカスを行うアルゴリズムも、当社独自の技術として投入しています」(内海氏)
視線を向けた対象との距離は、ViXion01を装着したとき額(ひたい)近辺に位置する測距センサーで計測します。センサーが計測できる最長距離は非公開ですが、1~2メートル前後(中距離)のフォーカス合わせもすばやく正確でした。
機械的にレンズを動かして焦点を合わせる機構を載せると、本体は大型化してしまいます。ViXion01はメカニカルな稼働部を持たないため、約55gという軽量化を達成しています。「掛け心地が快適に感じられるアイウェアの重さは45g前後が目安といわれているので、軽量化は特に意識したポイント」と岑氏が語ります。メカニカルなフォーカス機構ではないことから、ピント合わせが音もなくスムーズなところもメリットです
今回は明るい室内で試しましたが、センサーは周囲の明るさに関係なく距離を測れるので、暗い場所や夜間でもオートフォーカスの精度は変わらないそうです。本体のシェード部分はサングラスのようにも見えますが、レンズのある中心部分は色を抜いているため視界は無色透明です。
ViXion01はメガネと併用しながら必要なときに使うデバイス
筆者はふだんメガネを着けて生活していますが、鼻パッドの調整がきくViXion01はメガネのフィット感に近く、長時間身に着けていても疲れにくいデザインという印象です。
充電式のバッテリーは約2.5時間のチャージで満充電になり、そこから最大約10時間の連続使用が可能です。バッテリーの残量は本体のランプが点灯する色によって見分けが付きます。
バッテリーのスタミナが最大約10時間だと毎日の充電が必要です。この点については「商品のコンセプトに合わせた仕様」(岑氏)とのこと。
「ViXion01はユーザーが一日中装着しながら使うデバイスというよりも、むしろ何か作業に携わっている間に限った使い方を想定しています。メガネとViXion01を併用してもらうことで、見え方に関する困り事の解決に役立ててもらうイメージです。例えば電子工作や刺繍など、細かいものを見ながら行う特定の生活シーンで実力を発揮できると考えています。発表後から実施している実機体験会では、来場者の皆様からオフィスでのPC作業にも使いたいという声も多くいただいています」(岑氏)
スマホ連携も計画中。ViXionシリーズの今後
ViXion01の本体はIPX3相当の防滴対応です。屋外で使うとき少し雨に濡れる程度であれば、後から水滴を拭きとればすぐに故障する心配はないと思います。
一方、レンズの口径が小さめであることから、ピントが合った状態で見える視野には限界もあります。ゆえにViXionでは、ViXion01を身に着けて自動車・自転車などに乗ることは禁止しています。
ViXion01のスペックをよく見ると、Bluetoothによるワイヤレス通信機能も搭載しています。ViXion01は単体で使えるデバイスですが、内海氏は「具体的な内容はまだですが、将来的にはアプリでスマホと連動するような使い方も検討中」であると話していました。
アイウェアタイプのウェアラブルデバイスは、先進のテクノロジーを駆使して人の「見るチカラ」を拡張することも、本来その進化が目指すべき方向のひとつであると筆者は考えます。アラフィフを迎えた筆者はこのごろまた視力の衰えを感じつつあるので、ViXionのようなスタートアップの挑戦に注目してしまいます。最初のプロダクトであるViXion01の発売も楽しみですが、その先には「02」以降のモデルが続いて、ViXionシリーズが展開される将来にも期待しています。
(編注:ViXion01とスマホ連携に関して、以下の動画が公開されています。)