NTTドコモとBMWグループが2022年3月から、5GとコンシューマーeSIMに対応したコネクテッドカーサービスの提供を始めています。クルマが5Gサービスに対応すると何が便利になるのでしょう? BMWグループの拠点「BMW GROUP Tokyo Bay」を訪問して、両社によるコネクテッドカーサービスを体験してきました。

  • BMWジャパンのアップルトン・マーク氏(写真右)に、5Gに対応するBMWのコネクテッドカーについてその魅力を聞いてきました

  • 東京・お台場の「BMW GROUP Tokyo Bay」

今回の取材には、BMWジャパンのアップルトン・マーク氏、NTTドコモグループでコネクテッドカーサービスを担当するNTTコミュニケーションズ株式会社の玉井佑治氏と山下歩氏にご協力いただきました。

コネクテッドカーとの連携にも広がったドコモのワンナンバーサービス

NTTドコモのワンナンバーサービスは、スマホで契約中の料金プランに月額550円を追加することで、1つの電話番号を2台の端末で使えるサービス。1台のスマホ、1台のアクセサリ端末で同じ電話番号を共有しながら、音声通話・データ通信を利用できます。2017年から始まったワンナンバーサービスは、Apple Watchや「ワンナンバーフォン ON 01」(販売終了)に広がり、2022年3月からBMWのコネクテッドカーが加わりました。

両社は2018年12月から、自動車にコンシューマーeSIMの機能を搭載する協業をスタート。開発に約3年の時間を要した理由は、「スマートウォッチや通信端末と違って、自動車は家族とシェアすることも考えられます。将来はレンタカーやカーシェアに活用されることも視野に入れて、自動車でもシームレスにワンナンバーサービスが使える仕組みの整備に時間をかける必要があったから」(玉井氏)とのこと。

  • SAVタイプの「BMW iX」

IT通信サービスと自動車では、開発にかかる期間が大きく異なります。BMWグループによる新しいコネクテッドカーの誕生にタイミングを合わせながら、ワンナンバーサービスを対応させる最適なタイミングを見計らってきたそうです。

ワンナンバーサービスにいち早く対応したBMWのコネクテッドカーは、SAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)タイプの「BMW iX」と、クーペタイプの「BMW i4」です。これらはコンシューマーeSIMサービスを標準装備としています。

  • クーペタイプの「BMW i4」

加えて、2022年6月に登場したスポーティーなクーペタイプの新モデル「BMW 2シリーズ アクティブ ツアラー」にも、オプションとしてコンシューマーeSIMサービスを含むパッケージが用意されます。車両価格は上記のBMW iXやBMW i4と比べて低く、エントリーグレードのコネクテッドカーと言えるでしょう。

音声通話に5Gデータ通信、Wi-Fiスポット機能が利用できる

BMWの対応車両は5GモジュールとコンシューマーeSIMを内蔵しており、クルマ単体でモバイル通信が可能。ワンナンバーサービスによって、スマホで利用中の電話番号、料金プランをそのまま、クルマによる音声通話やデータ通信にも使えるようになります。従来のように、スマホをBluetoothで車載システムに接続して音声通話やデータ通信を行う仕組みとは、根本的に違います。

BMWの車両は5G Sub6の周波数帯を使った通信方式をサポートしていますが、アンテナ配置の最適化などを図ったことによって、「走行中も安定したスループットを実現する」(アップルトン氏)としています。

また、コンシューマーeSIMを活用して、クルマを車内向けWi-Fiスポットにもできます。1台のクルマに接続できる端末は最大10台。5G対応による安定した高速データ通信が期待できます。

  • BMWのコネクテッドカー。以前から独自に提供する「BMWコネクテッド・ドライブ」のサービスを利用するeSIMと、ドコモの5Gワンナンバーサービスを利用するためのコンシューマーeSIMを搭載する「DSDA(Dual-SIM-Dual-Active)」対応です

BMWグループでは、2013年から独自に「BMWコネクテッド・ドライブ」という名称のコネクテッドカー向けサービスを展開してきました。その内容は多岐にわたり、たとえばスマホアプリの「My BMW」を使って、調べた住所を車輌へ送信したり、エアコンをオンにして乗車前に車内を快適な温度にしたりといった遠隔操作ができます。BMWコネクテッド・ドライブは車両の購入後3年間は無料で使えるサービスとなり、以降は必要に応じて契約を更新するスタイルです(一部の機能は無制限に利用可能)。

  • モバイルアプリ「My BMW」から、コネクテッドカーの各機能を遠隔操作。パーソナルeSIMやデジタルキーの設定もできます

今回試乗したBMW iXは、シートとステアリングが自動で動いて、運転席へと楽に乗り込めるイージーエントリー機能を装備。ユーザーのBMW IDに好みのシートポジションを設定しておけば、運転席に座ったあとに自動で位置を調整してくれます。

余談ですが、My BMWアプリにBMWデジタル・キーを登録しておくと、iPhoneやApple Watchがクルマのデジタルキーになる機能もあります。コネクテッドカーの5G対応を含めて、最新のデジタルトレンドをいち早く採り入れる感度の高さも、BMWが多くのファンに支持される理由のひとつなのでしょう。

  • iPhoneやApple Watchが愛車BMWのデジタルキーになる機能。iXシリーズ、i4シリーズも対応しています

今回のコネクテッドカーサービスに対応するBMWの車両は、独自のBMWコネクテッド・ドライブに対応するためのeSIMと、ドコモの5Gワンナンバーサービス用のeSIM、合わせて「2つのeSIM」を内蔵しています。さらにDSDA(Dual-SIM-Dual-Active)に対応したことにより、2つのeSIMをアクティベートして、BMWコネクテッド・ドライブの通信と、ユーザー自身の音声通話やデータ通信を同時に利用できます。

BMWからパーソナルeSIMを設定してみる

BMWジャパンのアップルトン氏、NTTドコモグループの山下氏には、BMWの車両にワンナンバーサービスをセットアップする手順を実演してもらいました。設定はスマホやパソコンから行うこともできますが、今回はBMWコネクテッド・ドライブの通信につながっているBMW iX車載端末からのセットアップを紹介します。デモンストレーションではおもにiPhoneを使っていますが、Androidスマホの対応機種でも同じように設定できます。

  • BMW iXの運転席に座り、セットアップを体験

まず前提として、NTTドコモ、またはahamoの料金プランから申し込めるワンナンバーサービスを契約します。

続いてBMW IDとdアカウントを連携。あらかじめスマホのMy BMWアプリでBMW IDにログインしておくと、クルマ側が表示したQRコードをスマホで読み込むだけでBMW IDへのログインがスムーズに進みます。

  • クルマ側から「BMW ID」を選択。QRコードを表示してMy BMWアプリから読み込むと、すばやくBMW IDへログインできます

My BMWアプリ上で「パーソナルeSIM」の設定を選び、ユーザーのdアカウントにログインしてパーソナルeSIMをアクティベートします。あとはBluetooth経由でスマホからBMWの車両に電話帳をコピーすると、よく使う連絡先への音声通話やメッセージの送受信もクルマからできるようになります。

  • My BMWアプリから「パーソナルeSIM」の設定を選び、セットアップを進めていくと簡単に完了します

  • BMW IDを切り換えれば、乗車するドライバーごとの設定へと自動で切り替わります

今回試乗したBMW iXは音声通話の着信を安全に受けられるように、車内に配置したセンサーを用いてドライバーの手の動きによるジェスチャー操作、または音声操作に対応しています。ステアリングに配置した電話ボタンからの応答も可能です。

  • 通話着信にジェスチャー操作で応答・拒否を選択できます

BMW車両のメニューから「パーソナルホットスポット」を選択して表示されるQRコードを読み取ると、クルマを経由したテザリングによって、スマホやタブレットをインターネットにつないで動画視聴などが楽しめます。

  • パーソナルホットスポットの設定。1台のコネクテッドカーに最大10台のモバイルデバイスやパソコンなどを接続できます

NTTドコモのワンナンバーサービスは、今のところ1人のユーザーが使えるアクセサリ端末が1台に限られています。つまりBMWをアクセサリ端末に設定すると、Apple Watchではワンナンバーサービスが使えなくなる点は注意が必要です(Apple Watch単体でセルラー通信ができなくなる)。

BMWの対応車両も続々。将来はカーシェアサービスにも広がる期待感

2022年3月にサービスが開始されてから、NTTドコモには既存のBMWオーナーからや、これからコネクテッドカーの購入を検討している人たちから多く反響が寄せられているといいます。

BMWグループは2022年春に「BMW 7」シリーズの新モデルを発表。リアシート向けに8K対応の高精細な大画面ディスプレイを搭載し、B&Wのサウンドシステムによる没入感あふれるエンターテインメントが楽しめるという圧巻のプレミアム・コネクテッドカーです。BMWジャパンのアップルトン氏は「コネクテッドサービスが車内エンターテインメントにもたらす革新を多くのオーナーに楽しんでもらいたい」と期待を語っています。

  • 天井から31インチの8Kパノラマ仕様の「BMWシアター・スクリーン」が降りてくるBMW 7シリーズ。ワンナンバーサービスへの対応を予定しています

コンシューマーeSIMサービスのサービスは、レンタカーやカーシェアにも生かせそうです。NTTドコモでは、不特定多数のユーザーが1台のコネクテッドカーをシェアするようなサービスの場合、個人情報をよりセキュアに扱える仕組みづくりが当面の課題になるとしています。シェアカーの利用後、ユーザーのアカウント情報が完全に削除されるシステムの整備などが現在検討されているそうです。

シェアカー、レンタカーでコネクテッドカーの魅力を体験できれば、いずれ自分のクルマを選ぶときに、便利なコネクテッドサービスが使える「ちょっといいBMW」に乗りたくなるモチベーションも高まるのではないでしょうか。NTTドコモにとっても、ワンナンバーサービスによるコネクテッドカー体験が広がることが望ましいことは言うまでもありません。

NTTドコモとBMWグループによる5G対応のコネクテッドカーサービスには、ほかの通信キャリアや自動車メーカーも刺激を受けるでしょう。今後は「5Gにつながるクルマ」の健全な競争が活発化するよう、いちコンシューマーとしてとても楽しみです。