自分から率先して考え、発言し、行動する社員を俗に意識高い系社員といいます。その逆に、言われたことしかしない、「意識低い系」社員も存在します。

この連載では、相手基準に立ち、そうした新人・若手たちを、どうしたら効率的に戦力化できるのか? という具体的な育て方スキルを紹介していきます。

  • 「言われたことしかしない」社員に悩んだことはありますか?

「言われたこと」だけする後輩

「教育係のAさんに『社会人だったら◎◎が普通だろ?』みたいなことばかり言われるので、ほんと話をするのが苦痛です」

メーカーで営業している新人のBさんは、こんなことを私に愚痴ってきました。ちなみにAさんは仕事ぶりが優秀と評判で、大きな成果を出している人。

Aさんにも話を聞くと、

「Bさんは、『言われたことしかやらない』んですよ。あれでは仕事でなく作業ですね」。

さらに掘り下げていくと、こんなことが出てきました。

「入社早々にオンラインでの仕事だから、戸惑いがあるのは分かります。ただ、仕事の指示を出されたら、自分でいろいろと考えて質問するなり、工夫するなりするのが普通だと思いませんか? Bさんは『言われた指示に従っていればよい』という姿勢が露骨。成長意欲が低過ぎます」。

かなりBさんに対して不満を持っているように感じられました。いかがでしょう、あなたも同じような悩みを持っていませんか?

自分にとっての「普通」は、誰にとっても「普通」ではない

私もメンバーをマネジメントする立場ですから、気持ちの面ではAさんの心情がよく分かります。ただ、心理学を学び、社員の採用・育成の専門家の私には、「普通」という発言が気になりました。

自ら主体的に考え、工夫する能力を「自己調整学習力」といいます。この能力は先天的に備わっているものではなく、後天的に身に付くものであるという点が特徴です。

学生時代、Aさんは本気で大会で上位入賞を目指す体育会野球部に所属し、多くの先輩・コーチから、人間としてもたくさんのことを学んだと言います。おそらくこの経験を通して、徐々に「自己調整学習力」が身に付けたのでしょう。すばらしい経験ですね。

しかし、Bさんは「本気で何かに取り組んだ経験」は無く、アルバイトも「時間に縛られるのがイヤ」という理由で、指示に従うだけで難易度も高くない作業中心の単発仕事しか経験していない人でした。

つまり、みんながみんな、自己調整学習力が身に付くような経験をしているとは限らないわけで、身についていることが「普通」ではないのです。

特にA先輩のように上昇志向が強く、プレーヤーとして優秀な人が後輩育成をする立場になった際に留意してほしいことがあります。

ご自身の気質です。「執着気質」というタイプの気質が強く出ている人は、上昇志向が強く、完璧主義なところが見られ、仕事で結果を出し、社内評価も高い場合が多いのです。一方で、自分にも他人にも厳しく、自分基準の「こうあるべき」を他人に強く押し付けてしまいがちな傾向も見られます。

Aさんは、まさにこの傾向が当たっているタイプでした。

指導される側からすると、「こうあるべき」しか言われない指導は、何をどうしたらよいか分からない上に、常にマウンティングされた状態です。これではBさんが、「苦痛だ」と言うのも無理ありません。

育成は効率的に行うもの

後輩を仕事ができる人に育てる、これは言い換えると「効率的に相手をより戦力化すること」だと私は定義しています。

「自分のやり方で指導します。教わる側は、それに従うのが当たり前。できない・理解できないのは、あなたの問題」という教育観を「意図的教育観」といいます。言い換えると「相手(育成者)基準」のスタンスです。

執着気質が強く出ているタイプの人は、このスタンスに立ちがち。相手が仕事に対するモチベーションが高く、自己調整力が高い人であれば、現場に放り込み、「見て覚えろ」「自分についてこい」「こうあるべきだ」といった指導スタイルで育成しても仕事能力は伸びていくでしょう。

しかし、主体的に考え、工夫する能力が低い相手に、このような指導をしてもストレスがかかるだけで、行動は変わりません。人間には、能力格差、意欲格差が明確に存在します。

意図的教育観では、「あなたに合ったアプローチで教えます。できない・理解できないのは、(私の)教え方に問題があるので、教え方を調整します」という教育観の「成功的教育観」、言い換えると「相手基準」のスタンスになります。人に仕事を教える際には、この「相手基準」に立った教え方が必要で、相手の目線にレベルを落とすスタンスの方が効果的なのです。

Bさんは「仕事の指示を出されたら、自分でいろいろと考えて質問するなり、工夫する」ことのイメージできていませんでした。イメージできない人に、「社会人だったら◎◎が普通だろ?」といった概念論を伝えても、「効率的に相手をより戦力化すること」にはつながりません。

「仕事の指示がきたら、ただ言われたことを処理するだけでなく、自分でいろいろと考えて工夫するクセをつけよう。それは、~という理由で必要なんだ。例えばこの業務の場合であれば具体的に~~といった進め方が考えられないかな? こういったスタンスで仕事に向きあっていこう」など、遠回りに思えるかもしれませんが、具体的に指導した結果、効率的に育つのではないでしょうか。