ネットもスマホもない昭和の時代、テレビ・映画は人々に大きな影響を与えたメディアでした。後に「名作」と呼ばれる作品が生れた昭和。今回は、没後30年を経た現在も多くのファンに愛される松田優作の代表的なドラマ「探偵物語」(日本テレビ)のロケ地を取り上げます。
名作のロケ地は、昭和、平成、令和を経て、どのように変わったのでしょうか?リアル世代も、そうではない世代も注目です!
独自の世界を描いた「探偵物語」
1979年9月18日から1980年4月1日まで、日本テレビ系列で全27話が放送された「探偵物語」。松田優作が演じる私立探偵の工藤俊作が、街の仲間たちの協力を得て、捜査の邪魔をする刑事たちを手玉に取りながら事件を解決していくドラマです。
饒舌でコミカルな演技と吹き替えなしのアクションシーンのギャップ、硬派かつ洗練された映像で、ハードボイルドのヒーロー像を一変しました。そんな探偵物語のロケ地は、どうなっているのでしょうか?
レトロな「工藤探偵事務所」はいま
探偵物語と聞けば、あのレトロな建物を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。工藤のオフィス兼住居である「工藤探偵事務所」が入居するビルの設定で使用されたのは、千代田区神田淡路町にあった「同和病院」です。
1929(昭和4)年に竣工し、戦前は東京医師会館、戦後は病院として活用されましたが、老朽化により1998年に惜しまれつつ解体されました。
当時の面影は皆無といえる同和病院跡ですが、その周辺にはドラマのオープニング映像に登場する風景が残されています。「吉野家」淡路町店もそのひとつ。空撮の映像に映り込んだ吉野家の看板を覚えている方も多いのでは?
イイヅカの骨董屋は店舗跡のみ健在
表向きは骨董屋、しかし裏では工藤に拳銃を渡す街の仲間イイヅカ(清水宏)。映画マニアで鑑賞した作品の批評を工藤にするが、自分がチェックしていない作品について工藤から突っ込まれると落ち込む。
そんなイイヅカの骨董屋として使われた建物は調布市内に健在です。この店舗跡には、数年前まで骨董店「多奈加」がありました。ロケは、その多奈加を貸し切って行われていたようです。
「イイヅカ! いるか! イイヅカ!」と言いながら店に入って来る工藤ちゃんの声が聞こえてくるようです。
明治神宮球場の回廊は「脅迫者」で登場
次に向かったのは新宿区の「明治神宮球場」。ここでは第15話「脅迫者」のロケが行われました。
工藤ちゃんが捜査を依頼したバタやん(内田良平)と待ち合わせた神宮球場の回廊。上から工藤めがけて木材が降ってくるなど、コミカルかつ印象的なシーンが撮影されました。
「小劇場 渋谷ジァン・ジァン」跡と電話ボックス
渋谷の公園通りも「探偵物語」のロケ地の宝庫です。第14話「復讐のメロディ」で、そぼ降る雨の中、工藤ちゃんが依頼人の大杉亜木子(范文雀)と出会う「小劇場 渋谷ジァン・ジァン」前の路と電話ボックスもそのひとつ。
淡谷のり子、美輪明宏、井上陽水、ユーミンなど、数々のアーティストが出演した渋谷ジァン・ジァンは2000年に閉鎖し、電話ボックスも撤去されましたが、当時とほぼ変わらないデザインのものが区役所寄りに残っています。
公園通りの配電盤はエンディングに登場
エンディング映像で工藤がもたれかかるパルコ沿いの配電盤は、当時と同じ場所にあります。その頃の公園通りのシンボルだった背景の壁画は無くなりましたが配電盤は健在。SHOGUNの「LONELY MAN」と公園通りの風景がマッチし、エンディングをカッコよく締めていました。
最終回の謎めいたシーン、工藤は生きているのか?
ドラマの最終回、第27話「ダウンタウン・ブルース」。骨董屋のイイヅカを始めとする街の仲間を何者かに殺された工藤は、その復讐を果たした後、見知らぬ男にナイフで刺されます。その後の生死は不明のまま。刺された場所は、かつて神宮前にあったカフェ「原宿ZEST」でした。
刺されたはずの工藤が小雨降る原宿を歩きながら、傘を放り投げるエンディングが忘れられない方も多いのでは? ラストに流れるダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「身も心も」が強烈な印象を残す最終回でした。
昔ながらの風景が次々と消えていく都内では、撮影当時の面影を残している場所も年々少なくなっています。
それと同時に作品に出演した個性豊かな俳優たちも次々と世を去っていきます。しかし、作品の中では、あの頃の街も俳優も変わることなく輝いています。昭和のドラマをもう一度見返して、古き良き時代と懐かしい風景に想いを馳せてみる、そんなひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。