無農薬大豆はアクや茹で汁までおいしい!?
1月27日、楽しみにしていた「味噌作りの会」の2日目がやってきた。先週、米から作った麹を冷蔵庫から取り出し、車で約30分のところにある大井町のブルーベリーガーデン旭へ向かった。
集合時間の10時に会場へ到着。すでにほぼ満杯の駐車場には、東京をはじめ県外ナンバーの車もちらほら目に付いた。先週は1日5回に分けて麹作りをしたので、これほど集中することはなかったが、今週は参加者50名がそれぞれ家族や知り合いを連れてきているため、おそらく100名以上はいるのではないだろうか。ちょっとしたお祭りのような雰囲気だ。
この会をとりまとめる中原茂樹さんによる挨拶の後、全員が名前と参加回数をテープに書いて、胸に貼った。「味噌作りの会」は今回で6年目なので、初年度から参加している人のテープは「味噌好男 6」といった具合。人数が多いので、参加回数「3」から「6」の人たちが、ぼくのような初心者「1」や「2」に味噌作りを教えてくれるそうだ。
前日に大豆を洗って、水に浸けておいてくれた人たち。当日の朝からカマドや大釜をセッティングしてくれた人たち。そうした有志の方々の下準備のおかげで、ぼくらがカマドをのぞきに行った時には、すでに大釜の中で大豆がグツグツ煮られていた。大豆は適度にやわらかくなるまでに4~5時間かかるので、集合時間前から煮はじめていないと間に合わない。
今回、6つの大釜で煮る大豆は約150kg。ちなみに中原さんら「あしがら農の会」の一部メンバーによる2007年度の大豆栽培は豊作で、11月下旬に収穫した大豆の量は約165kgにも達したという。その大豆の大半が、この味噌作りに使われることになる。
カマドに薪をくべて、大釜に木のふたをしてグツグツと煮る。最初のうちだけこまめにアクをとる。誰かが「このアクおいしい! 」と言い出し、釜のまわりにいた人たちでアクを試食。アクだけに食感はクリーミー、エグみが少なく、しっかり骨太な大豆の風味がしたので驚いた。その後、別の誰かが「煮汁もおいしい! 」と口にすると、今度は大鍋の中の煮汁を飲む人が続出。そんな舞台裏での出来事も楽しかった。
昼食はみんなで持ち寄った味噌料理に舌鼓
大豆が煮上がるのは、集合タイムから2~3時間後の12~13時ごろ。この空いた時間を利用して毎回行われるのが、手前味噌自慢と味噌料理試食会だ。
手前味噌自慢は、これまでに参加した人たちに過去の手前味噌を持ってきてもらうというもの。この日、小皿にとって置かれたのは、27種類の手前味噌。ぼくのような初心者にとっては、これほどわかりやすいサンプルはないので、「2005年仕込み」「麦麹を使用」などと書かれた手前味噌をひとつずつナメては、「なるほどこういう味なのか」と学習する。
味噌料理試食会の方は、参加者たちがそれぞれ味噌を使った料理を持ち寄り、昼食がてらみんなで食べよう、という企画だ。参加者は50名、つまり単純に数えても50品はあるということで、テーブル代わりの巨大なウッドデッキにその料理がずらりと並べられた。
それぞれの料理を見せながら、作った人が簡単にレシピを説明する。「それはどのくらい煮ればいいんですか? 」などと主婦らしい質問が飛び交うことも。その後、皿と箸を持ってウッドデッキのまわりに集まり、時計まわりに進みながら料理をとっていった。味噌入り蒸しパン、味噌とトマトのペンネ、味噌風味のきのこドリア、卵黄の味噌漬け、大根の味噌炒め、味噌ふりかけ、柚子味噌餅など、味噌料理の本が1冊できてしまいそうなラインナップだった。
樽詰めのコツは味噌から空気を抜くこと
さて、ぼくらは腹一杯となり、大豆はじっくり煮えてやわらかくなった午後。いよいよ、本格的な仕込み作業がはじまる。
まずは、大釜からざるで大豆をすくい、大きな木のたらいまで運んでいく。大豆がたらいに入れられる度に、まわりを取り囲んだ参加者たちが握りしめた棒を一斉に動かして、大豆をつぶす。まさに人力フードプロセッサーだ。ぼくも何度かこの作業に参加したが、「手が疲れてきたら腰を動かすとラクみたいですよ」とか「この作業にぴったりのリズムの歌はなんだろうね」とか、見知らぬ人たちとしゃべりながら同じ作業に打ち込むひとときは、とても楽しかった。
そうして程よくつぶれた大豆はビニール袋に入れられて、ひとり約6kgずつ分配される。ほかの材料は塩1.1kg、麹3kgだから、すべてを合わせた味噌の重量は約10kgということになる。ここから後は、参加者それぞれの作業。ぼくらはまわりの人たちにアドバイスを受けながら、大豆をビニール袋に入れたまま麹を3回に分けて加え、よく混ぜ合わせた。そして家から持ってきたプラスチックの樽(20リットル用)に、別のビニール袋を入れて、その底に塩を敷いた。
大豆を大きめのおにぎりくらいのサイズに丸めて、ハンバーグを作る時のように両手で挟んでパンパンと叩き、中の空気をできるだけ追い出す。そして、その塊を桶の隅に投げつける。これも空気を抜くためなので、「ビシャッ! ベチャッ! 」と思い切り叩きつけてかまわないという。
円を描くように味噌の塊を並べていき、桶の底がすべて味噌で埋まったら、空気が入らないように表面を平らにならした後で、塩を打つ。そして、再び味噌の塊を投げつけ、また表面をならしてから塩を……という作業を繰り返す。空気混入絶対厳禁なので、豪快なように見えて、実は繊細な作業だ。最後に味噌の中央を山のように少し高くしてから、表面をすべて塩で覆い、ビニールの口を閉じれば仕込み完了。指についた大豆を嗅いでみると、麹と塩が混じっただけなのに、すでに味噌らしき匂いがしていた。手前味噌、マイ味噌、我が家の味噌……そんな言葉が脳裏に浮かんでは消え、ニヤけてしまう。
そう、この何ともいえないうれしさは、マイ味噌を仕込むことができたから。しかも麹作りから体験できたから。そして、味噌の原料となる米も大豆も足柄エリアで手塩をかけて無農薬栽培された貴重なものだとわかっているから。もちろん自分の味噌も、先ほど食べたほかの方々の手前味噌のようなおいしい味噌になってくれるかもしれない、というビギナーズラック狙いの期待感もある。
この手前味噌が食べられるようになるのは、梅雨明け以降とか。市販品のように添加物がいろいろと入っていないから、カビるのが当然らしい。「白いカビはそこだけ、緑のカビはまわりも一緒に取り除いておけば大丈夫よ」と味噌作りの会の参加回数「5」のおばあさんが教えてくれた。経験を積んだ人の言葉は、いつだってカッコいい。ぼくもあと3年経ったら、少しは味噌作りを語れるような「4」オヤジになっているのだろうか。