ブラジル原産の不思議なフルーツ
食欲の秋、体重がますます増えてしまうキケンな季節は今まさに真っ盛り。いつも利用している二宮町や中井町、大井町などの農産物直売所へ行けば、「キヌヒカリ(神奈川県の奨励米)」をはじめとする地元産の新米が並び、落花生やサツマイモ、ズイキ、ムカゴ、カキ、早生ミカンなどがずらり顔を揃えている。最近では、夏野菜のズッキーニをビニールハウスで秋に栽培する農家も出てきて、ズッキーニのパスタやカポナータが大好きな我が家としてはうれしい限り。
そんな農産物の中に、ひっそりと隠れている珍しいフルーツが、緑色の小さな果実フェイジョア。原産地はブラジルやウルグアイ、パラグアイなど南米大陸の南部エリア。現在ではニュージーランドやオーストラリア、米カリフォルニアなどで広く栽培され、日本でも栽培農家がじわじわ増えているが、まだまだ市場に出回るほどの生産量ではないようだ。
神奈川県西部では、主に大井町(足柄上郡)で数年前から作られていて、10月下旬から11月上旬にかけての一時期、こうした直売所に出荷される。食べ方は至ってシンプル。包丁で半分にカットしてから小さなスプーンで中身をすくい出すだけだ。
フェイジョアは別名パイナップルグァバというらしいが、その南国チックな香りと酸味、ねっとりした甘さは、たしかにパイナップルやグアバのようでもあり、何となくバナナやパッションフルーツのようでもあり、少しジャリジャリした食感は洋なしにも似ている。何とも不思議な味わいなので、もしどこかで見かけることがあったら、ぜひお試しあれ。
キンモクセイが咲くころにとれるきのこ
もうひとつ、直売所で入手できる秋の恵みをご紹介。秦野市の田原ふるさと公園にある直売所では、丹沢で採れる足長きのこ(地元での通称)が手に入る。とは言っても、天然モノなので入荷するかどうかはわからず、すべては買い手の"きのこ運"次第だ。
秦野のきのこ採り名人によると「キンモクセイの花が咲くと、足長きのこが採れはじめる」という自然界の法則があるという。より正確に言えば「キンモクセイの花が咲いた後、雨がたっぷり降った日の翌日から採れはじめる」。
だから、足長きのこが毎年たくさん出てくる場所を知っている名人は、キンモクセイが咲いた後、ひたすら雨を待つ。しかし、逆に雨が降り過ぎてもいけないそうで、3日降り続けると足長きのこは腐ってしまうという。何ともデリケートなきのこなのだ。
足長きのこを調理する際には、必ずナスと一緒に炒めるのが地元流。最も一般的な食べ方は、なすと炒めた足長きのこを具にした温かい汁そばだ。きのこの香りを楽しむには、このそばがベストとか。今シーズンの足長きのこは、すでに10月中旬から採れているが、このところ雨が少ないので、11月に入ってもしばらくは採れ続けるかもしれない。
食べはじめると止まらなくなるクルミ
さて、せっかくの実りの季節なので、買ってばかりではなく、自分の力でもなにか調達したくなった。今年は栗か? それとも銀杏か? いろいろ考えた末に狙いを定めたのは、いつも歩いている散策コース沿いにあるオニクルミの木。川縁に生えた大きな木には、夏の終わりごろからクルミの丸い実がびっしりついている。収穫期はこの実の熟す10月から11月にかけてだ。
オニクルミの木は、たいてい川に面した斜面などにあり、川の上空を覆うように枝を広げている。おそらく川に落ちた実がドンブラコと下流の川辺に流れついて発芽し、それを繰り返して増えていくための知恵なのだろう。それゆえ、オニクルミを採るのはなかなか至難の業だ。高枝切りばさみもないので、斜面から精一杯手を伸ばして、採れるものはすべて採りまくった。ときどきバランスを崩して、自分がドンブラコしてしまいそうになりながら。
オニクルミ採りはすでに体験済みなので、持ち帰ってからの作業は慣れたもの。皮をきれいに取り除いてから殻を乾かす。それをフライパンで軽く炒ると、殻に数ミリの隙間ができるので、そこにマイナスドライバーを差し込む。すると殻はくす玉のごとくふたつに割れて、クルミの実が出てくる。それをそのままつまむと松の実にも通じる香ばしい濃厚な風味に、うっとり。割ったそばから娘が食べてしまうので、何だかせわしないけど楽しい。バジルと合わせてジェノベーゼ風にして、パスタと絡めたりリゾットに加えたりしてもおいしそうだ。
その数日後。山の達人Kさんが、深い山中で採ってきたという貴重なさるなしと山ぼうしをお裾分けしてくれた。どちらも食べるのははじめて。緑色のさるなしは、皮をむくとさらに美しい緑色をしていて、佇まいも味もキウイみたいだと思っていたら、本当にキウイの原種と言われているらしい。一方、見た目はベリーかサクランボのような山ぼうしは、イチジクにも似た甘い実が詰まっていた。
どちらも滋味にあふれ、心にじんわり染みるようなおいしさ。来年こそは秋の山を歩き、もっとディープなスローライフを体験しなければ、としみじみ思った。