総理を5期も務めた政治家はいまだ吉田茂のみ

現在、大磯町のあちこちに貼られている観光ポスターのキャッチコピーは「8人の総理が愛した町」。このポスターには、自宅や別荘を所有するなど大磯にゆかりのある歴代総理大臣8人の似顔絵が描かれている。

その8人とは、次のような面々だ。伊藤博文(初代、5代、7代、10代総理=以下略)、山縣有朋(3代、9代)、大隈重信(8代、17代)、西園寺公望(12代、14代)、寺内正毅(18代)、原敬(19代)、加藤高明(24代)、吉田茂(45代、48~51代)。

地元の絵師河口邦山さんが描いた総理8人のイラストは、地元企業の手ぬぐいにも登場

そうそうたる顔ぶれだが、この中で最も「大磯で暮らした政治家」を象徴する存在が吉田茂だろう。吉田茂は明治11年(1878年)、東京生まれ。明治39年(1906年)に外務省に入り、終戦直後の昭和20年(1945年)に外務大臣、翌年から計5期(約6年2カ月)総理大臣を務めた。

大磯の屋敷は、もともと養父の吉田健三によって明治17年(1884年)に建てられた別荘だったが、吉田茂は大磯が気に入って移り住み、外務大臣時代から昭和42年(1967年)に亡くなるまで、多くの時間をこの屋敷で過ごした。外国からのゲストを招くために増改築した際には、日本を代表する建築家の吉田五十八が設計し、京都の宮大工が工事を手がけたことから、"吉田御殿"とも呼ばれたそうだ。

屋敷のある場所は大磯中心部よりも西寄り、県立大磯城山公園の国道1号を挟んだ向かい側。国道側から裏の海岸付近までつづく敷地の面積は約1万坪、屋敷だけでも約300坪におよぶ。そんな森林公園のごときスケールの庭園には、日米講和条約の締結を記念して建立された「内門(兜門)」、心という文字をかたどった「心字池」、竹林、しだれ桜などが点在している。

庭園の一郭に佇む「七賢堂」は、もともと伊藤博文が暮らし、日本国憲法を起草した大磯の滄浪閣にあった建物。当初は明治維新の元勲である岩倉具視、木戸孝允、三条実美、大久保利通をまつった四賢堂だったが、吉田茂が自分の屋敷に移築した際に伊藤博文を加えて五賢堂とし、後に西園寺公望と吉田茂が加わって、七賢堂になったという。

待望の庭園見学チャンスが到来

この大磯の歴史遺産とも言うべき吉田茂邸は、昭和44年(1969年)から西武鉄道が所有してきたため、観光ツアーなどの利用客を除いては、ほとんど一般公開されることはなかった。唯一、海側の高台に立つ吉田茂の銅像だけが見学を許されていた。

右手にステッキ、左手に葉巻を持った吉田茂の銅像は、はるか遠いサンフランシスコを見つめているとか

しかし数年前から旧吉田茂邸の譲渡話が持ち上がり、大磯町が買い取るらしい、いや、国の迎賓館になる可能性もあるらしい、などと情報が錯綜。結局は2006年に国と県、町が旧吉田茂邸の土地を買い取り、同邸の目の前にある県立大磯城山公園を保有する神奈川県が、城山公園と旧吉田茂邸を合わせてひとつの県立都市公園として整備することになった。今後は吉田茂記念館となるのかどうかわからないが、建物の維持管理の部分を大磯町が担当する予定だという。

その大磯町は旧吉田茂邸の将来に向けた意見収集の意味も含めて、2006年2月10日および4月14~16日に、申し込み制の庭園見学会を行った。実は4月の見学会に我が家も申し込んでみたのだが落選。この時は3日間で3,000人という募集に対して、県内外から約6倍の数の応募があったそうだ。

おそらくまた公開されるだろう、と2007年もひそかに期待していたのだが、その後は何の音沙汰もなし。春が終わり夏も終わり、もうダメかとあきらめていたところ、ようやく庭園見学会の申し込みがはじまるというニュースが飛び込んできた。しかも、うれしいことに2006年よりも大きな規模で開催されるという。さっそく往復はがきを買ってきたのは、言うまでもない。

個性的な有料プログラムも楽しそう

申し込み方法の詳細が掲載されている大磯町観光協会ウェブサイトをのぞいてみた。庭園見学会は、大きくふたつに分かれているようだ。

まずひとつは、大磯町が主催する無料見学会。公開期間は2007年10月3日~12月2日の指定された公開日(上記ウェブサイト参照)。公開時間は1日4回(10時、11時、13時、14時)、各回の定員は50人程度とし、1日200人以内とする。申し込みは、はがき(消印有効)にて見学希望日の10日前まで受け付ける。

もうひとつは、大磯町観光協会が旧吉田茂邸庭園の文化的活用の試みとして、「ちょっと前の日本の暮らし」を体験する「邸園文化交流園 大磯Part1」。こちらは2007年10月6日~12月2日の金~日、祝日を中心に行われる(開催日は上記ウェブサイト参照)。例えば、自然素材料理研究家による「ちょっと前の日本のご飯(10月14日、参加費3,000円)」、写真家を講師に招いた「邸園写真講座(11月3日、参加費1,500円)」といった面白そうなプログラムがつづく。もちろん、どのプログラムも庭園見学付きだ。

いずれも参加希望者多数の場合は先着順となる。とくに「ちょっと前の日本の暮らし」のプログラムの大半は参加人数が50名以下と限られているので、申し込みは早めに済ませるようにしよう。

我が家はとりあえず、一般の無料見学会に申し込んだ。今度こそ、どうか参加できますように。