テレビや新聞で報じられていたように、台風9号による大波とうねりのために、大磯町~小田原市を結ぶ総延長距離約20.5kmの西湘バイパスは、大磯西インターと二宮インターの間で道路が崩落し、現在通行止めとなっている。今回は、ややコラムの趣きとは異なるが、国道1号線とともに湘南番外地エリアに欠かせない存在である生活道路の一日も早い復旧を祈りつつ、その崩落現場をレポートする。
いつもの台風だと思っていたのに
9月6日に時速15~20kmで少しずつ神奈川へ近づいてきた台風9号は、日付が変わった7日の午前2時前ごろ、小田原に上陸。神奈川に上陸することは珍しいことではあったが、ぼくは平常どおり仕事を続けていた。大雨と大波で家の雨戸は激しくガタガタ揺れていた。でも、台風の夜なんていつもそんな感じだったし、どうせ朝までには何事もなく通り過ぎて終わるだろう、と思っていた。
7日の朝、ぼくが目覚めると、台風はもう北へ去っていた。この日もずっと、家にこもって原稿を書いていた。午後になって、うちよりも500mほど東側に住んでいるご近所の方が、所用で訪ねてきた際に、「おたくの下の西湘バイパスは大丈夫ですか?うちの下は、ガードレールがなくなってしまってビックリしました」と不思議なことを口にした。
ぼくは意味がよくわからないまま、その方と一緒にうちの下の西湘バイパスをのぞいてみた。中央分離帯の上には、いつもと同じように、ガードレールがのびていた。その方は、もう一度言った。「あら、こちらはちゃんとガードレールがあるのねえ」。
今思えば、ぼくはその時、もっと詳しく聞くべきだった。「どこにあるガードレールが、どういうふうになくなってしまったんですか?」と。しかし、その時は仕事に追われていたので、そんな余裕はなかった。
「西湘バイパス崩れちゃいましたね」というコメントを、ぼくのブログにある人が書き込んだのは、その夜21時ごろのこと。「崩れる」という言葉と、昼間の「ガードレールがなくなった」という言葉が、ふいに頭の中でひとつになった。そういえば、昼ごろからヘリコプターが何機も飛んでいたっけ。知らないところで、何かが確実に起きている気配がした。
22時からのニュース番組をつけてみると、台風被害の一場面として、西湘バイパスの空撮映像が流れた。海に面した壁が完全に崩れていた。下りの1車線が完全に消失しているところもあれば、道路の下に詰まっていた土が流出してしまったのか、路面が凸凹に陥没しているところもあった。あまりに現実味のない光景だったので、それを事実として受け入れるまでに時間がかかった。
不思議なのはこんなに近くに住んでいるのに、崩れる音なんて聞こえなかったことだ。いや、何らかの音はしたはずだが、波や雨の音が邪魔をして届かなかったのかもしれない。そして、もうひとつ頭に浮かんだのは「あの程度の波でどうして?」という思いだった。
6日からずっと、たしかに海は荒れていた。西湘バイパスが6日から全面的に通行止めになるほど、場所によっては(例えば国府津あたり)波が道路の上まで押し寄せていたらしいが、こと二宮~大磯区間に関する限り、そこまでの大波は来ていなかったはずだ。少なくとも、ぼくの見ていた範囲では波が西湘バイパスの壁にあたって、激しい飛沫をあげるような風景には出合わなかった。
だからこそ、そんなレベルの波でどうして壁が崩れてしまうのか、シロウトにはまったくわからない。しかし、防災ドクターと呼ばれる専門家は今回の崩落を、異常波浪(長周期波)が原因だと分析しているそうだ。おそらく通常の波の周期より2~3倍にあたる長周期で、かつ波高の高い波が押し寄せ、建造物とぶつかったために平常時の4倍相当以上の衝撃が及んだのではないか、と。
二宮の海水浴場周辺も悲惨な状況
最初に崩落が発見されたのは7日の朝6時、パトロール中の国土交通省職員が見つけたそうだ。ぼくがようやく崩落現場を見に行くことができたのは、8日になってから。いつも海へ降りるときに利用している道をひとつひとつ訪ねてみたが、どこもロープやフェンスで通行止めになっていた。こうした閉鎖ポイントが、二宮から大磯西部にかけて6カ所ほどできているので、地元住民も現在、浜辺へ降りることはできない。
西湘バイパスは、大磯町~小田原市を結ぶ総延長距離約20.5kmの道路だ。今回の災害は、二宮インターを境にして、東側(大磯方面)が約1km、西側(小田原側)が2カ所の計250mに渡って壊れてしまった。上り2車線はすべて無事だが、下り2車線はところどころ崩落して1車線になっている。2車線が残っているエリアでも、海側のガードレールや照明灯は、かなり壊れているようだ。
二宮から大磯まで災害現場を見てきたが、道路の崩落を除けば、ダメージが最も大きかったのは二宮の海水浴場周辺だろう。ここはかつて二宮の漁業の中心地として栄えた場所で、現在でも漁船が一隻だけ置かれていたが、その界隈のコンクリート斜面は波によって完膚なきまでに破壊され、ビーチを埋め尽くしていた砂は海中へ運び去られてしまった。西湘バイパスの橋脚やコンクリートの地盤がむきだしになり、もはや海水浴場は完全に消え失せ、遺跡のような風景しか残っていない。
完全復旧の日は、きっと誰にも見えていない
8日夜から、野球場で使われるような照明灯をつけて、24時間体制で修復工事が始まっている。下り車線の中央分離帯に沿った部分のアスファルトをはがし、そこに鋼矢板と呼ばれる鉄板を打ち込むことで、さらなる崩落を防ぐ応急処置がとられているようだ。
9月13日現在、通行止めになっているのは、上りが大磯西インターから橘インター、下りが国府津インターから大磯西インターまでの区間。地元では「1、2週間でとりあえず走れるようになるらしい」という説と「1年くらいかかるらしい」という説が飛び交っている。これには、二宮インターの東側が国土交通省関東地方整備局横浜国道事務所(以下、横浜国道事務所)、西側が中日本高速道路に、管轄組織が分かれている上に、それぞれの被害状況も異なるため、複雑な事情が絡んでいるようだ。
9日に工事の挨拶にきてくださった横浜国道事務所の方は、「被害を受けなかった上りの2車線を使って、1車線ずつの交互通行にする方向で考えています」と、とりあえず9月末までに通行できるようにする計画を明らかにしつつ、その一方では「ただ、完全に元通りになるには1年以上かかるでしょう」と慎重な態度を崩さなかった。
通勤や配達の地元ドライバー、箱根や伊豆へ向かう観光客……これまで西湘バイパスを走っていた車は1日3万台に達するという。通行止め後はそのうちの何割かが国道1号線に流れ込み、すでにあちこちで行楽シーズンの休日のような渋滞が起きている。
横浜国道事務所と中日本高速道路はこの渋滞を解消するために、10日14時から応急復旧工事が完了するまでの間、小田原~厚木間を走る小田原厚木道路の通行料(全線通行の場合は700円)を無料にすることを発表した。西湘バイパスのユーザーが、内陸部の小田原厚木道路をどれくらい利用するのかはわからないが、こうした迅速な対応は大変素晴らしいと思う。
今はただ、夜を徹して行われている応急処置が終わらないうちに、新たな台風がやってこないことを祈るしかない。