このごろ不思議と縁がある大井町

ぼくの暮らす二宮町の西北、小田原市の東北にあり、東名高速道路で言えば大井松田インターの南方に広がっている足柄上郡大井町。これまでぼくはこの大井町に、あまり馴染みがなかった。「いこいの村あしがら」という宿泊施設に併設された農産物直売所を時折利用するほかは、頻繁に通うようなレストランもないし、知り合いも住んでいない。大井町には、あまり縁のない人生を送ってきた。

しかし先月くらいから、風向きが変わったというか、そんな大井町との関係にささやかなる変化が生じてきた。これまでほとんど聞いたことのなかったオオイマチという言葉が、なぜか立て続けに耳に飛び込んできたのだ。

「オオイマチに国の重要文化財に指定された土偶があるんだって」と教えてくれた人がいた。「オオイマチにブルーベリー狩りのできる農園があるから行こうよ」と誘ってくれた人がいた。「オオイマチのひょうたん祭りって知ってる?」と聞いてきた人もいた。

「もしかして大井町ブーム到来か?」と不思議に思いつつ、もしかしたら大井町とぼくとの運命の糸が、今ようやく繋がろうとしているのかもしれない、なんてふうにも考えてみたり。

いずれにせよ、ふだんの生活圏である湘南番外地をはなれて、自分の世界が、ほかの人や場所との輪が、どんどん広がっていくのは面白い。よし、まずは大井町にある土偶とやらを見学に行ってみようか。

大井町は関東最古の稲作エリア?

早速、インターネットで調べてみると、国の重要文化財である土偶は、たしかに実在した。昭和9年(1934年)に大井町にある山田地区の中屋敷という遺跡から出土したもので、縄文時代後期から弥生時代中期にかけて作られたことがわかり、昭和36年(1961年)に国の重要文化財に指定されたそうだ。座像形のデザインのこの土偶は、体内にあたる部分が空洞になっていることから、土偶形容器と呼ばれているらしい。

この遺跡の重要性に目を向けた昭和女子大学の発掘チームが、1999年~2004年に合計6次におよぶ調査を行った結果、火によって炭化した米やアワ、キビ、トチの実などの穀物が見つかった。そして米を年代測定検査したところ、なんと驚くべきことに紀元前5~4世紀(日本では弥生時代前期)のものと判明したそうだ。

これは、弥生時代前期には九州や西日本だけで行われていたとされる稲作の定説を、根本から覆してしまうような大発見だった。つまり、関東地方にも約2500年前から稲作文化があった、という壮大なロマンを秘めた仮説が、山田地区の遺跡から誕生したわけだ。

そういった話を知るにつれて、ますます土偶を自分の目で見てみたくなった。しかし、大井町公民館にレプリカが展示されているが、ホンモノは中屋敷遺跡の地権者である小宮家が所蔵していて、常時公開されているわけではないという。残念。

土偶を所有する小宮家は、この山田地区でブルーベリー農園を経営しているそうだ。ちょうど先週末(7月28日)、そのブルーベリーガーデン 旭にて、夏祭りイベント「第3回山田村夏祭り」が開催されていたので、家族を連れて遊びに行ってみた。

祭りのシンボルは縄文スタイルの野焼き

夏祭りは、丘陵地に広がるブルーベリー農園内のカフェや広場、林の中などが舞台。もらったチラシには、「太古から人々が住みやすい環境として暮らしを営んできた山田地区のルーツを探る夏祭り」とある。駐車場に車を置いて、林の中を歩いていくと、会場の入り口には古代人の服装に変身するコーナーがあり、その目の前で野焼きが行われていた。

駐車場から林の中へ入っていくと、手作り感覚あふれる横断幕がお出迎え

野焼きとは、一般的な焼きもののような石造りの窯を使わずに土器を焼くこと。ここでは陶芸作家ちょろりさんの指導のもと、あらかじめ参加者が用意したおいた作品を、田んぼの土で作った円錐形の2つの窯に入れて蒸し焼きにしていた。ぼくが見たときは窯の中の温度が80度前後だったが、最終的には1,000度以上になるという。

観光地によくある顔ハメ看板の古代人バージョンも登場

古代人の服装で説明するちょろりさん。野焼きは朝6時から16時間以上も続けられた

ちなみにちょろりさんは、「第9回 はじめての田植えを体験する」でお世話になった永塚キャンデーズのメンバー。久しぶりに再会して気付いたのだが、もしかしたらあの田植えの時から、すでにぼくと大井町との距離は縮まっていたのかもしれない。

ちょろりさんとに窯の面倒を見ていた女性が「田んぼの土で作った釜だから、熱くなると中からミミズとかが出てくるんですよ。朝からもう何匹助けてあげたことか」と笑いながら言っていた。そんなのんびりとしたいい話を聞くと、窯の前から動かずに、じっと眺めていたくなってしまう。窯の内部でワラが燃えているそうで、土の表面の凹凸がじわじわ少しずつうごめき、まるで生き物のようだ。

石窯で焼いた天然酵母パン、本格的なインドカレー、とれたての無農薬野菜、珍しいアフリカ料理、梅干しやアクなしわらびといった山田地区の特産品など、屋台村を巡って、生産者や料理人と言葉を交わしながら、のんびりと食べ歩くのが楽しかった。カフェ前の広場では、大井町にゆかりのあるミュージシャンたちによるアフリカや沖縄などの民族音楽のライブも行われていた。

農園内の石窯で焼いた天然酵母パンと野菜料理のオープンサンドプレート

サモサやカレー、焼き鳥など食べ物屋台の界隈は大賑わい

たらいで冷やした無農薬栽培のきゅうりは自家製味噌につけていただく

そのステージのうしろに広がるのは、箱根連山や相模湾の織りなす絶景。「2500年前の人々も、この丘から山や海を見ていたのだろうか」などと遠い時代に思いを馳せつつ、ゆるくて心地よい時の流れに身をまかせる。5歳の娘も、この農園がすっかりお気に入りの場所になったらしく、近いうちにブルーベリーを摘みに来ることを約束させられた。

ブルーベリーの摘み取りは9月上旬まで。大人(小学生以上)500円、幼児(4歳以上)300円。園内では食べ放題、持ち帰りは100gで170円

さて、最後になってしまったが、「ひょうたん祭りって知ってる?」という質問に対して、この場で答えておこう。ぼくはまったく知らなかったので、調べてみたところ、正式名称は、大井よさこいひょうたん祭という。毎年8月第1土・日曜に開催され、第21回となる今年度は、8月4日が前夜祭、5日が本祭。メイン会場となる大井町役場駐車場と周辺道路が賑やかに飾り付けられ、1,000人以上の踊り手が、エネルギッシュなよさこい踊りを披露するそうだ。

なぜ大井町でひょうたんなのか、については、また別の機会に。