二度楽しめるタケノコ狩り

日本の竹は、少なくとも70種類以上あると言われているが、里山の竹林に生い茂る太くて立派な竹は、ほとんどが孟宗竹(もうそうちく)。孟宗竹は日本最大の竹であり、条件が良ければ高さ25m以上に達することもある。毎年3月から4月にかけて市場に出回るタケノコは、この孟宗竹の地下茎からニョキニョキと発芽したものだ。

ちなみに、孟宗竹のタケノコは、日に当たる時間が増えるほどアクが強くなってしまうので、地面から少しだけ頭を出したところを見つけ出し、スコップや鍬で掘り起こすのがコツ。

「タケノコの姿が見えるようではもう遅い、これから出てきそうな地面のかすかなひび割れを探すべし」「掘ったらすぐに茹でるのが肝心なので、お湯を沸かしてから掘るくらいの気構えで挑むべし」「掘ったらすぐに新聞紙などで覆って光や風にあてずに台所へ運び込むべし」などなど、ぼくのまわりにいるタケノコ掘り好きな人たちは、それぞれ独自のこだわりを持っている。

そんな孟宗竹につづいて、4~5月には淡竹(はちく)のタケノコが旬を迎える。この界隈の山にも生えているらしいが、我が家には縁がないらしく、これまで見たことも口にしたこともない。今年こそ淡竹の林を探してみようと必ず一度は思うのに、ふと気付いた時には、もう5月が終わっている。いつもその繰り返しだ。

さて、普通ならば、春が過ぎればタケノコも終了となるが、このあたりの里山では、さらに"6月のタケノコ"まで楽しめてしまう。タケノコの季節の最後に登場する大トリ、それが真竹(マダケ)だ。

まさしく雨後のタケノコ

真竹は孟宗竹に比べると細く、高さは大きくてもせいぜい15mほど。孟宗竹は節のラインが一重で、色はくすんだ感じの緑だが、真竹は節が二重になっていて、いかにも竹らしい鮮やかな深緑色をしている。孟宗竹よりも弾力性に富み、扇子や弓、耳かき、竹刀などの材料として広く利用されている。

真竹のタケノコは孟宗竹のタケノコよりもほっそりスマート

昔からおにぎりなどを持ち運ぶ時に使ってきた竹の皮も、孟宗竹だけではなく、この真竹のもの。真竹の皮の表面には、孟宗竹のように細かな産毛のような毛が付いていないので、食べ物を包むのに向いているという。

そういえば皮つながりで思い出したが、子供のころ、梅干しをタケノコの皮に包んで、おやつ代わりにしゃぶっていた記憶がある。たしか、タケノコの皮の真ん中に梅干しを置いて、皮を折りたたんだような…。それをチュウチュウ吸っていると、やがて皮の繊維ごしに、梅干しの酸っぱい風味が滲み出てくる。それが孟宗竹だったか真竹だったか定かではないが、毎年タケノコの季節になると、これを食べるのが、とても楽しみだった。

さて、真竹のタケノコは6月、つまり梅雨の時期にグングン成長する。6月14日に関東地方の梅雨入りが発表されたので、それに背中を押されるように町の郊外にある山へ行ってみると、竹林には地面から20~50cmほど突き出したタケノコがちらほら。

ここは誰の土地でもないので、好きなだけ収穫できるが、それはすなわちライバルが多いということであり、つまりは早いもの勝ちだ。もっと山奥に、自分だけが知っている竹林を見つけておきたい。これもタケノコシーズンになると、いつも思うことだが。

真竹のタケノコは、地上の見えているところだけをポキポキ折りながら収穫する。細長い先端あたりは、ほとんど皮ばかりで中身がないので、あまりやわらかそうな部分にこだわって折ると、意外に食べるところが少なくなってしまう。この日は、わずか10分程度で5本も採れた。土を掘り起こすためのスコップも体力も必要ないのだから、孟宗竹のタケノコ掘りが体育会系ならば、こちらは文化系といったところだろう。

知り合いの農家からいただいた今シーズンの初物である枝豆と

アク少なく歯ごたえ抜群

真竹は全国各地で採れるが、足が早いからか、細くて食べられる部分が少ないからか、東京や大阪などの都市部では、ほとんど流通していない。番外地エリアではこの季節、農産物直売所にもたくさんの真竹が並ぶ。4、5本で300円前後なので、山まで採りに行くのが面倒な人は、こうした直売所で仕入れてくる。

農産物直売所では、地元農家の野菜に混じって売られている

孟宗竹のタケノコは、ヌカや米のとぎ汁、唐辛子、重曹などのいずれかを加えて茹でて、まずはアクを抜いてから調理をするが、「真竹はアク抜き不要」というのが古くからの定説。地元のおばあさんたちは「こんなにラクでおいしいタケノコはないよ」と言っている。

それでも我が家では、軽くアク抜き作業をしてから調理することにしている。マダケには「苦竹」という別名があるそうだが、食べたときに舌がちょっと痺れるアクらしき苦味が、やっぱり気になるからだ。

今回は、ヌカで下茹でした真竹を、しばらく水にさらしてから、山で一緒に採ってきた野ブキと共に炒め煮にした。タケノコだけの場合は、鰹節と醤油で味付けした土佐煮風にしたり、皮ごとホイルに包んで蒸し焼きにしたり。香りや甘味はほんのり薄く、どちらかというと歯ごたえを堪能するタケノコだと思うので、カレーやチャーハンの具として使うこともしばしば。地元では天ぷらにして食べる人が多いようだ。

ナスやトマトと一緒に夏野菜カレーに加えてみたり

同じ山で採ってきた野ブキとの炒め煮。真竹自体の風味が薄いので、味付けは濃いめに