史上最年少名人・七冠という偉業を達成し、無人の荒野を進むかのように歴史を塗り替え続けている藤井聡太竜王・名人。日本将棋連盟が刊行する『令和5年版 将棋年鑑 2023年』の巻頭特集ロングインタビューの取材に際して、藤井竜王・名人の回答からにじみ出た言外のニュアンスからインタビュアーが感じた藤井像に迫ろうという連載の第3回です。インタビュアーの主観が大いに混じっていますが、どうかお許しください。
見れないテレビ
1番バッターは「見れないテレビ」です。これはタイトル戦振り返りの竜王戦のお話で現れました。『将棋世界』で挑戦者の広瀬章人八段が1日目の夜にテレビでバレーボールの試合を見た、ということを書かれていました。そこで藤井先生も2日制のタイトル戦の1日目の夜にテレビを見たりするのかな?と尋ねてみました。
――広瀬先生の自戦記に1日目の夜はやることがなくてテレビでバレーボールと見ていたと書かれていました。藤井先生も1日目の夜にテレビを見ることはありますか?
藤井「あります」
――あるんですか! そうなんですね。
藤井「まぁ番組次第なんですけど(笑)」
なんと、藤井先生もテレビを見るとのこと。ひたすら局面のことを考えているのかなと思っていたのですが、そうでもないのですね。「番組次第」と言われたからにはどんな番組か聞くしかありません。
――どういう番組を見るんでしょう?
藤井「これまではニュースを見ることが多かったんですけど、王将戦のときはテレビで王将戦が取り上げられていたのでその手が使えなくなりました」
――なるほど(笑)。
藤井「なので王将戦の時は違う番組を見ていました。もちろん、必ず見るということではなくて、見ない時もありますし、場合によってという感じです」
――テレビのニュースで将棋が出るなんて数年前では考えられなかったですね。
藤井「そうですね。大変ありがたいことではあるんですけど、ただ、その時はしびれました(笑)」
藤井先生が見ているのはニュースでした。でも王将戦の時はその手が使えなくてしびれたと。 実際、藤井先生が王将戦のニュースを見たからといって、対局のヒントになるような情報は流れてこないと思うのですが、万が一ということもありますからね。