史上最年少名人・七冠という偉業を達成し、無人の荒野を進むかのように歴史を塗り替え続けている藤井聡太竜王・名人。日本将棋連盟が刊行する『令和5年版 将棋年鑑 2023年』の巻頭特集ロングインタビューの取材に際して、藤井竜王・名人の回答からにじみ出た言外のニュアンスからインタビュアーが感じた藤井像に迫ろうという連載の第2回です。インタビュアーの主観が大いに混じっていますが、どうかお許しください。

  • 藤井竜王・名人の回答からにじみ出た言外のニュアンスからインタビュアーが感じた藤井像に迫ろうという連載の第2回です

まずは以下のやり取りをご覧ください。

潜在意識としての青

――続いての質問です。好きな色は何ですか?

藤井「特にどれが好きか意識してはないんですけど、自分の持っている和服の色が青系が多いので」

――はい、そういうイメージがあります。

藤井「なので、おそらく潜在意識としては青だと(笑)」

・・・なんという独特な答え方でしょうか。「好きな色は?」「青です」という単調な回答じゃない。自分の持っている和服の色から自らの潜在意識を類推していくスタイル。

以前のインタビューで好きな寿司ネタを聞いた時に、「自分は好きなものは最後に食べるタイプで、イクラとマグロを最後に頼むことが多いので、その辺りかと」という答え方をされたことがありましたが、それと似たような感じです。

このように、好みを聞かれた時に直感で答えるのではなく、自分の普段の行動から逆算して潜在意識を推測するのは、藤井先生独特の思考様式としてあるように思います。

會場手筋

続いてのテーマは「會場手筋」です。 會場手筋とは、担当編集者の會場が、インタビュー中に先に自分の考えをしゃべりすぎることによって、取材対象からそれ以上の言葉を引き出すという高等テクニック(?)のことです。 この将棋年鑑インタビューにおいて毎年のように使われる技術で、今回もその威力はいかんなく発揮されたのでした。

――プロ棋士の作品といえば、昨年は斎藤慎太郎先生の七種合煙『リレー』の発表もありました。

藤井「先日解いてみたのですが、思ったより難しくなくて良かったです」

――斎藤先生も七種合煙詰としては手順が易しくできたのも気に入っているとおっしゃっていたので、まさに意図通りですね。七種合でも明快に変化が割り切れているという。…いや、先生におっしゃっていただいたほうが良かったですね(笑)。失礼しました。

藤井「いえいえ。でも本当にそれぞれの合駒がスッキリ出てきて、七種合を出しているんですがそれがすごく無理がないというか。自然に合駒が出てきて気づいたら七種合になっているという感じで、さすがだなと思いました」

・・・まさに、會場手筋。

先に「七種合でも明快に変化が割り切れている」ということを言ってしまうことで、藤井先生はそれ以上の言葉を用意しなくてはいけなくなりました。 そして「自然に合駒が出てきて気づいたら七種合になっている」という詩的な表現を引き出すことに成功したのです。

會場、恐るべし。

ただこれは十中八九、偶然の産物で、単に會場が斎藤先生の作品の良さを語るのを止められなかっただけだと思われます(笑)。

まぁでも、マニア同士の会話ってこういうことなんですよね。 毎回思うんですけど、この詰将棋パートに関してはインタビューというより詰将棋好きな二人の会話、という感じがします。 その証拠に、會場の話はこのような出だしで始まっています。

――では、よろしくお願いします。詰将棋パートに関しては、年に一度詰将棋のことを聞いてくるオジサンだと思って気楽に答えてください。

藤井「ははは(笑)。よろしくお願いします」

もうこの時点で藤井先生が楽しそうなんですよね。

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