新幹線をお得に利用する方法などを紹介する当連載。今回は、JR各駅の「みどりの窓口」などで、通常のきっぷを購入する場合に押さえておきたいポイントを紹介しよう。
乗車券は距離が長くなればなるほどお得!
鉄道のきっぷは「旅客営業規則」にもとづいて発券される。旅客営業規則とは、鉄道事業者と乗客の間で結ばれる「約款」だ。皆さんが「みどりの窓口」で購入するような乗車券や新幹線の特急券も、もちろん「旅客営業規則」にもとづき発券される。この「旅客営業規則」には、乗客にとってうれしい割引やルールも定められている。
新幹線に乗るには、乗車券・特急券という2種類のきっぷが必要になる。まず、乗車券とは移動に対する対価だ。たとえば東京駅から新宿駅まで移動するには、券売機で200円のきっぷを購入するなどしなければならない。このとき購入するのが乗車券だ。そして乗車券の値段が運賃である。
特急券の値段である特急料金はスピードや設備に対する対価だ。東京駅から新大阪駅まで乗車券のみ購入し、在来線で移動することも可能だが、時間がかかりすぎる。そこで特急券を購入すれば、所要時間の短い新幹線に乗ることができる。
ここでまず、押さえておきたいポイントは「列車に乗車する距離」である。運賃は乗車駅から降車駅までの距離で定められている。この距離のことを「営業キロ」という。営業キロは時刻表で調べられるだけでなく、JR各社の公式サイトでも簡単に調べられるが、このひと手間でお得になることもある。なぜなら、運賃は乗車する距離が伸びるほど割安になるように、ルールが定められているからだ。これを「遠距離逓減制」という。
たとえば東京駅から新大阪駅までの区間で、いくつか訪問先があったとしよう。1カ所目は静岡、2カ所目は名古屋、3カ所目は大阪といったような出張の場合だ。このとき、東京~静岡間、静岡~名古屋間、名古屋~新大阪間と、そのつどバラバラに3枚の乗車券を購入すると、合計金額は1万50円になる。一方、東京駅から新大阪駅までの通しの運賃は8,750円。有効期間内で、乗車券の経路にある駅であれば途中下車が可能なので、3枚に分けて買う必要はない。なお、乗車券の有効期間も営業キロから計算することになる。東京~新大阪間の場合、片道乗車券なら4日間有効だ。
お得額が大きい! 往復割引や乗継割引
JRの乗車券には往復割引もある。往復とも同じルートで移動する場合に利用可能だ。
往復割引も片道あたりの営業キロによって割引になるかどうかが決まる。片道の営業キロが600.1km以上あれば、「ゆき」「かえり」の運賃がそれぞれ1割引となるのだ。
たとえば、東京~新大阪間の営業キロは552.6km(8,750円)。往復割引の基準を満たす距離には少し足りない。ところが東京~西明石間は612.3kmあり、往復割引が適用される。1割引された片道あたりの運賃は8,640円になる。
お得になるのは乗車券だけではない。スピードや設備に対する対価である特急券にも、移動距離が長い乗客にはうれしいポイントがある。新幹線と在来線特急列車を乗り継ぐ場合だ。特急券はそれぞれの列車ごとに必要となるが、2枚の特急券を同時に買うことで、在来線の特急料金が5割引となる。「乗継割引」と呼ばれる割引だ。
ただし、乗継割引が適用されるにはいくつかの条件がある。お得額が大きいため、知っておきたい。今回は東海道新幹線を例に紹介しよう。乗継割引が適用されるには、下記の条件を満たす必要がある。
- 東海道新幹線の新横浜~新大阪(大阪)間の各駅にて、新幹線の列車と在来線特急列車を乗り継ぐ場合。
- 新幹線から在来線へ乗り継ぐ場合は、その日のうちに。在来線から新幹線に乗り継ぐ場合は、在来線特急列車の乗車日翌日までに乗り継ぐ必要がある。
この条件を満たせば、在来線の特急料金は5割引となるのだ。
筆者の実家はJR阪和線日根野駅が最寄り駅。特急「くろしお」「はるか」が停車する。新大阪~日根野間は直通する特急列車で40分ほど。自由席特急料金は650円。普段であれば、特急列車はちょっと贅沢な気がして乗らないが、半額の320円(端数は切捨て)となれば特急列車にも気兼ねなく乗れるので、新幹線で実家に帰るときはよくお世話になる。疲れた体で快速列車に立って乗車することを考えると、特急列車の存在はありがたい。
今回は乗車券の距離(営業キロ)についてと、往復割引、乗継割引について紹介したが、これらを利用した金額と、前回までの記事で紹介した特別企画乗車券やフリープラン型のパッケージツアー、金券ショップでの新幹線回数券購入などの金額を比較してみると良い。よりお得に移動できるに違いない。
また、「旅客営業規則」を詳しく読むと、ここでは紹介しきれないほどの、お得になるルールがある。読者の皆さんもぜひ、割安に移動してほしいと思う。
筆者プロフィール: 古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)
小学生の頃、社会見学で近くにある車両基地へ行き、特急電車の運転台に上げてもらったことがきっかけで、根っからの鉄道好きとなる。学校卒業後は新幹線の車内販売員、JR西日本の駅員として働く。その経験から、きっぷのルールや窓口業務には精通している。現在はタレント活動のほか、公立高校などで講師も務めている。2015年には「東洋経済オンライン」でライター・デビューし、旅行サイト「ぐるたび」などでも執筆活動中。泉佐野市PR大使。
※写真はイメージであり、本文とは関係ありません。