複合文化施設「うだつ上がる」は2020年の5月に徳島県脇町にオープンしたばかりのスポットながら、従来では考えられないような運営方法が話題となっています。前編では施設が誕生した経緯やそこに込められた思いを紹介しましたが、今回は施設の今後の展望やお勧めポイントをご紹介します。

うだつ上がるは今後どう変わる?

カフェに古着屋、雑貨など、さまざまな業態のお店が展開し始めているうだつ上がる。7月には土曜日の夜限定でバーの営業も始まりました。この動きに発案者で、運営も行う高橋利明さんはとても良い循環につながる期待をしているそう。

  • 世界中から厳選したクラフトビールが並ぶカウンター

「うだつの町並みって夜は本当に人がいなくなるんですよね。なんといっても開いているお店がないので(笑)。でも、行灯風の街灯が灯っている町並みは、昼とは違った良さがあって、それを見ながらバーに来てもらえるようになっていけば、さらにこの町も活気が出てくると思うんです」

確かに旅先で夜に楽しめる場所があるかどうかはかなり重要。泊まりで訪れても周りに何もなければ、寝るだけの場所になってしまいます。うだつの町並みにはゲストハウスや宿もあり、さらに新しい旅館がオープンする予定も。

宿泊場所と夜の楽しみ、その二つが良い相互作用を生み出せば、より魅力ある町に発展していくでしょう。

「これからの展望としては、ここで行っている新しい取り組みやワクワク感がどんどん外の世界にも波及していったらいいな、と思っています。今はこの場所での『うだつ上がる循環』を構築しているところですが、そのサイクルが大きくなって、町全体、徳島県全体、さらには県外まで大きくなっていけば面白いでしょうね。例えば、ここで開いたお店が別の空き家を借りて独立するなんて流れも楽しみです」。

  • 個性的な本が並ぶ「Phil books」

地域活性が目的ではない

これからはうだつ上がるだけに留まらない大きなエリアでの活躍を期待させてくれる話を聞くこともできました。ただ、高橋さんは地域活性化といった目的ありきで、何かをしようと考えているのではないとのこと。

「地域活性化や地域創生が重要なんて言われますけど、僕はそういうものを意識していません。そんな風に考えても、大仰過ぎてピンとこないというか……。それより、もっと自分の目に見える範囲でやれることがあるわけです。

例えば、人によって興味や持つスキルはそれぞれ違いますよね。その持っているものを生かして、本屋だったりカフェであったり、おのおのがビジネスを始める。そして、それぞれが成長していくことに加えて、場合によってはビジネスや人間同士の交点が生まれてくると思うんです。

そういう形で人と人、ビジネスとビジネスがつながり、さらに可能性が広がる。その結果、地域の活性化につながるかもしれません。『まず地域のことから』ではなく、むしろ順序が逆なんです」。

  • 今後の展望を語る高橋さん

筆者にも、それが現実のものとなってきていることが、ヒシヒシと感じられます。今はまだ一つの建物の中の動きかもしれませんが、今後は外の世界にもつながっていくように思えるのは、高橋さんの強い意志や、施設の運営に関する説明がすごく腹落ちするのが理由です。

うだつ上がるのお勧めポイント

改めて、高橋さんこの場所のお勧めポイントを聞いたところ、このお店のこれ、といったものよりも施設全体のコンセプトや、営業の仕方といったところに注目してほしいそうです。

  • オープンな雰囲気の店内

実際、訪問した筆者が最も面白く感じたのは、その斬新な営業方法でした。前編でも少しご紹介しましたが、古着屋と本屋の店主はこの場所に常駐しているわけではなく、普段は別の仕事をしています。好きなことではあるものの本格的なビジネスをするには時間やノウハウが足りない、といった場合でもこの場所でならハードルが低いところから始めることができるのです。

複業やダブルワークといった言葉も一般化してきましたが、やはり都心部で働く一部の人だけが行っている「特別なこと」という印象で、地方だとその傾向はより強くなります。もちろん脇町も同じような状況ですが、ここではそれをお試しで始めることが可能になっているのです。

  • 古着の向こうにバーカウンター

また、それぞれの店の境がはっきりしていないというのも、うだつ上がるの魅力の一つだと高橋さんは語ります。ある程度の区切りはもちろんありますが、バーカウンターでお酒を楽しみながら、陳列された古着を楽しむといった具合に、お店同士の距離が近く、境界線を感じさせないので、別々のお店とは思えないほど。

  • 仕切りがないのも魅力の一つ

それは、バーカウンターの隣にある高橋さんの設計事務所も同様で、小上がりにはなっているものの、遮るものもなく高橋さんやスタッフの方が作業しているところが見えています。

つまり、お店を訪問すれば、自然と高橋さんとの距離も近くなります。高橋さんは建築家ではあるものの、豊かな暮らしの提案という形でお客さんと関わっていきたいという思いも持っているのです。

  • 高橋さんの営む雑貨店では、さまざまな商品の取り扱いがあります

「家を一から建てるだけでなく、自分好みのソファや食器などを生活に取り入れるだけでも暮らしの豊かさは変わってきます。建築家という存在が必須ではないのです。僕に相談すると、建築の話はもちろんしますが、扱っている雑貨であったり、今度オープンする家具屋さんの家具であったり、いろんな形での提案ができるわけです」。

言うなれば、暮らしのトータルコーディネートをしてもらえる場所だということ。これも高橋さんの人柄と、経験や実績がもたらすのでしょう。実際にそういった相談を受けることもあるそうで、「ここはビジネスの場ではありますが、地元の人たちの寄り合いの場所でもあるし、すでに相談所みたいにもなっているんですよ(笑)」と語ります。

  • 雑貨は全て高橋さん自身が選んだもの

一般的に建築家というと家を建てる時くらいしか関わりがないものでしたが、高橋さんにかかれば、そんな常識もなくなってしまうようです。こうした人との関わり方は、斬新な仕組みと言わざるを得ません。

  • 2階には日本の伝統的な町家で使われていた虫籠窓が残っています

中にいると、ついつい忘れそうになりますが、そもそもこの建築は築150年の古民家。そんな長い歴史を感じられる象徴的なものとして、2階にある虫籠窓(むしこまど)もお勧めのポイントです。150年も前に作られた窓越しに景色を見ることなんて、なかなか体験できるものではありませんよね。伝統と先進的な取り組み、その両方の魅力をここで感じてみてはいかがでしょうか。


脇町は徳島の観光スポットとしては知名度がある方ですが、まだ観光地としての課題も多く大人気とは言い難い場所。ですが、かつては藍染めで栄えたうだつの上がる脇町の町並み、その活気が、うだつ上がるの発展と呼応して少しずつ戻ってくる。そんな時は実はすぐそこまで来ているかもしれません。