仕事旅行社という企業を聞いたことはありますか? 世の中にある様々な仕事を紹介し、有償で1日就業体験できる機会を提供する事業会社です。本連載では、同社代表を務める田中翼氏が大人が職業体験に出かける魅力や、体験先の中でも一風変わった仕事をチョイスしてその魅力を紹介します。
仕事旅行社、代表の田中です。「マイナビニュース」で新しく連載を始めることにしました。僕らが提供するサービスは、よく「キッ●ニア」の大人版と例えられますが、お客さんがお金を払って、別の仕事を体験するというもの。
ちなみに、どこかの施設ではなく、実際の職場を訪れて仕事を体験するのが特徴です。現在、150職種くらいの仕事体験を提供しています。
旅行といえど、学びがメイン
参加するお客さんは主に会社員で、20代から40代くらいまでが一番のボリュームゾーン。旅行とうたえど、学びを意識した方がほとんどです。新たな仕事術を手に入れたい、プロの仕事観に学びたい、将来の参考にしたいと言ったかなり真面目なモチベーションでみなさん旅に出ます。
最近では、他の仕事を体験することで自らの仕事観を振り返る(リフレクション)のツールになると、働き方改革の流れを受けて法人研修や福利厚生の一環としての利用が急増しています。
その中で、僕らの仕事はお客さんが体験しに出かける職業先を開拓し、企画をまとめること。そのため、日々様々な仕事をしている方のオフィスや仕事場を訪問しています。立ち上げ後、7年たちましたが、いまだに「世の中にはこんな仕事をしている方もいたんだ!」と驚きの毎日です。つまり僕自身が今も職業体験を続けており、そこで得た刺激が働く大きなモチベーションになっているのです。
そこでこの連載では、僕が日々の仕事の中で訪れた仕事場とそこで働く魅力的な人の横顔を、記事の形でみなさんにシェアしたいと思っています。
長丁場の連載ですから、まずは自己紹介も兼ねて、職業体験を提供する「仕事旅行」という不思議なサービスがなぜ生まれたのかを振り返ることから始めます。
仕事旅行が生まれたきっかけ
まず初めに、仕事旅行社を起業したのは32歳のときでした。いわゆる世間的には厳しいとされる30歳以上、未経験、転職(起業)でのスタートです。
ちなみに、前職は金融業。誤解無きよう補足しておくと、銀行や証券で、分析とか、経営に役に立ちそうな知識が身につくような仕事をしていたわけではありません。いわゆる営業だったり、資料作成だったりと人を相手にすることの多い仕事でした。つまり、前職の経験は役に立たないところからのスタートでした。
では、なぜ「大人向けの職業体験」に着目したのか? 2006年にオープンしたキッ●ニアはすでに話題になってはいましたが、7年前は今と異なり、「仕事」や「働く」ことに軸足を置いた大人向けの体験サービスはほぼなかったのではないかと思います。
仕事旅行の着想は、とあるベンチャーを訪問したことがきっかけでした。当時は真夏だったので、気温は30度を越えていたと思います。それでも、人様の会社にお邪魔するんだからとスーツに手土産を持参してドアをノックしました。
すると出迎えてくれたのは、短パンにポロシャツを着た、陽気なお兄さん……ではなく、代表取締役でした。オフィスを見回すと、マウンテンバイクが数台オフィス内に置かれている。バックミュージックにFMラジオが流れ、鼻歌を歌いながらPCを叩いている社員がいる。
とりあえず座るように促され、席に座ると御茶菓子がわりに、ポップコーンが出てきます。ちなみにポップコーンはオフィス内にあるポップコーンマシーン(ディズニーランドにあるような大きいやつ)で作っています。さらに名刺交換をしていくと、とある方の肩書きが「CPO」となっていました。「P」とは何の略かと尋ねると、大真面目に「Popcorn」だと言い切る。そんな変わった会社だったのです。
おかたい金融の仕事をしていた僕にとって、毎日スーツを着て、PCの前で黙って仕事をするのが当たり前。それが仕事のあるべき姿と思っていました。自由な空気というのだろうか? そこで働く人たちが心底楽しそうに仕事をしている風景はまさに初めて海外に行ったときに感じたよなカルチャーショックでした。しかも話を聞くと、その会社の事業は着実に成長していると言います。「どういうことなんだろう?」と。
「仕事とは楽しくない」は嘘だった!
世の中には「仕事とは楽しくない」もの「お金を稼ぐために仕方なくやるもの」という固定概念のようなものがあります。僕自身、そう考えていました。しかし、この会社を訪問することで、それまでの常識はどこかに吹っ飛んでしまいました。
僕と同じような体験をすることで、刺激を受けたり、視野が広くなったり、仕事に対する意識が変わったりする人がいるのではないだろうか。少なくとも「仕事を楽しんでいいんだ」と思える人が増えるのでは? 僕以外の人にも、こんな発見をしてほしい。きっと世の中に大きなニーズがあると考え、サービスを立ち上げました。
お金を払って、仕事を体験する!? ナンセンス! という声ももちろんあるとは思います。なんだか人の仕事をみるって楽しそうじゃありませんか? 第2回以降は、僕が体験して来た職場の中でも、インパクトの強かった職場をいくつかご紹介していきます。
田中 翼
国際基督教大学を卒業後、運用会社に勤務。趣味で様々な業界への会社訪問を繰り返す中、その魅力の虜に。同体験を他人にも勧めたいと、仕事旅行社を設立。1万人以上に仕事体験を提供。