iStockalypseの潜入取材を開始してから、もう何時間経っただろうか。午前中から始まった撮影会は、昼食を挟んで午後になっても続いている。比類なきタフさを誇る私も、さすがに疲れてきた。しかし、ストックフォト長者となるためには、ここで諦めるわけにはいかない。というか、この撮影会には取材として参加しているので、途中で帰ったりしたら、私の才能を信じて取材をセッティングした関係各位に申し訳ない。などと義理堅く根性もある自分に感動しつつ潜入取材を続行することにした。
午後になると、フォトグラファーもモデルも現場に慣れて緊張が解けてきたせいか、各スタジオも和やかな雰囲気になってきた。ラブ&ピース、スマイル&シャイン、そんなムードが現場には満ちていた。この時間帯になると、フォトグラファーたちも、様々な写真を撮影していて、モデルのポーズや撮影場所に関しても、「やり尽くした/出尽くした」感があった。それでも、彼らはイマジネーションを働かせて個性的な写真を撮影しなければならない。「同じ場所」、「同じモデル」というシチュエーションでも、彼らは売るために「まったく違う個性的な写真」を撮らなければならないのだ。世界のトップフォトグラファーたちは、この同じシチュエーションでどのようにして個性を出していくのだろうか?
「また、モデルデビューしそうになった」(佐藤ポン語録より)
屋上で取材をしているとき、階下のスタジオから騒がしい声が聞こえてきた。何が行なわれているのか気になったので階段を下りてみると、フォトグラファーたちが子供のモデルといっしょに「ぬいぐるみ」と「風船」で遊んでいる。部屋の隅では別のフォトグラファーが顔を赤くしながら風船を膨らませ、部屋の中央に向けて風船をポンポンと投げている。どうやら、フォトグラファーたちが、今日一日撮影に協力してくれた子供たちと、遊んでいるようだ。
普段はクールな私が、今日ばかりは彼らにジョインして一緒に遊ぼうとしたとき、ひとりのフォトグラファーを見つけた。なんと、このフォトグラファーだけは、カメラを手に持っている。そう、このスタジオの主役は彼で、彼は風船で遊ぶ子供たちの写真を撮影中だったのだ。危ない。輪の中に入ってしまったら私もモデルデビューしてしまうところだった。モデルとしての活動に関しても興味や資質はあるのだが、やはりストックフォト長者となった後のプランにしたいと思い、ここは踏み止まった。
この撮影でフォトグラファーは、モデルに立ち位置やポーズの指示はほとんどしていないようだった。どうやら風船を投げ込む方向や位置によって、モデルを自在に操っているようなのだ。こうすることによって、「自然に遊ぶ子供たち」の写真が撮れるのだろう。さすが世界第一線で活躍するフォトグラファー、言葉を一切使わずにモデルを操作するとは、なかなかクレバーである。ちなみに私も、何もせず(原稿を書かず)に、編集者を動かす(怒らす)という同様のクレバーさを持ち合わせている。
次回も、iStockalypseで目撃した世界のフォトグラファーたちの様々なテクニックや工夫を紹介してききたい。