プロのマジシャンが経営している銭湯がある、ということは都内の銭湯に少し詳しい人なら皆知っているだろう。今回の銭湯は、中野区の「昭和浴場」である。場所は中野区だが、最寄りは東京メトロ丸ノ内線「東高円寺」駅になる。歩いて6分くらい。中野区と杉並区のちょうど区境に位置しており、ほとんど高円寺の銭湯と言っても過言ではない。
「30円商品券」といううれしい仕掛け
近隣は単身者用のアパートやマンションが多い住宅地になっており、「マジック温泉」と書かれた煙突が目印になる。松竹錠の下足箱を通り、ロビーへ。右手にフロントと脱衣所入口がある。男湯は左、女湯は右。
ちょうどこの時フロントにはその人、タジマジックさんが座っていた。普段はもちろん番頭さんとして働いているが、本業(?)は世界でも評価の高いマジシャンで、数多くの賞を受けたり、テレビなどのメディアにも多数出演されたりしている。
ロビーにはテレビ、ソファ、ドリンクケースやアイスケース、マッサージチェアなどと並んで、そのトロフィーも飾られているのが印象的だ。ちなみにお願いすれば、こちらロビーのテーブルで実際にマジックを見せてもらえるのだが、スケジュール等もあるので念のため事前に電話連絡を。
お風呂の話に戻ろう。もうひとつのユニークなポイントが「30円商品券」だ。フロントで入浴料を支払うと、パウチされたこのカードをもらえる。これは次回以降に使える券となっていて、入浴料やサウナ代はもちろん、ドリンクやフロントで販売している駄菓子などにも使える。さらに入浴の度にもらえるので、入浴料に使えば永遠に30円引きで入れるというオトクなサービスになっている。
脱衣所はロッカーが2面。外観を見れば今でも立派な屋根が残っているように、天井は高く折上格天井になっている。中央に腰掛けと扇風機。境目側に洗面台。デジタル体重計。背側は小さな休憩スペースになっていて、こちらに自販機とマンガ本が並んだ棚がある。平日の16時頃、すでに相客は10人近くいた。
こだわりはケロリン桶にも鏡にも
湯船は4種類。それぞれ温度を変えている。水風呂は天然の井戸水を使用しており、キーンと冷たい。この井戸水は飲むこともできる衛生的な水で、ペットボトルでも持ち帰りができる。ボディソープ、リンスインシャンプーの備えあり。ケロリン桶はケロロ軍曹バージョンの珍しいもので、鏡の形がハート型になっているのも面白い。正面には富士山のモザイクタイル画。境目にもアルプス湖畔の風景を描いたタイル絵がある。
余談だが、昭和浴場は筆者が独身時代に最もよく通った銭湯だ。深夜1時30分までと元々営業時間が長いが、金曜日はなんと深夜3時まで営業しており、どんなタイミングでも疲れた身体を癒やしてくれた。
今回久々に再訪することになり、佇まいから湯の香りまで変わっておらず、贔屓目なしに魅力的なお風呂だと改めて気付かされた。近くの人はもちろん、電車を乗り継いでも行く価値のある銭湯だ。
※イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません
筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)
1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。