この日訪れたのは、新宿区にある「若葉湯」である。JR中央線「四ツ谷」駅から歩いて10分。若葉という名の町にあり、新宿通りから一本入ったこのあたりは寺院が多く、閑静な住宅街になっている。

「若葉湯」へは、JR中央線「四ツ谷」駅より徒歩10分

東京銭湯の魅力のひとつは「都会の中の銭湯」を楽しめること。四ツ谷には若葉湯の他に「塩湯」という銭湯があり、数は少ないながらも一風変わった銭湯体験が味わえる。次回以降、機会があればこちらも紹介したい。

ひなびたベンチも歴史を語る

油井式の煙突と、白くスクエアなフォルム。自販機前のひなびたベンチも渋い。大胆に屋号が染め抜かれた紺色ののれんをくぐり、男は右、女は左に分かれて下足場で靴を入れる。鍵はさくら錠の板鍵だ。すると、すぐ脇に玄関の方を向いて女将が座っている。半番台式とでも言おうか。ドリンクケースもこちらにある。こちらで湯銭を払い、ロッカーの鍵を受け取る。

脱衣所へ進む。平日の15時過ぎ、相客は3人。昔から若葉で暮らす人が毎日来ているというところだろう。ロッカーは壁側に。体重計はkeihoku製とTANAKA製の2台ある。境目壁の上にはブラウン管のテレビが置かれていて、大相撲が流れていた。

大きな水槽がふたつ。片側はカラだったが、もうひとつでは大きな金魚が泳いでいた。何年か前、初めてこちらに来た時に、「金魚あげます」の張り紙があったことを思い出した。だからなのだろう。今ではその金魚はいなくなってしまった。

ゆっくりと流れる時間を楽しむ

男湯のイメージ(S=シャワー)

浴室に入る。まず目に入るのは正面のモザイクタイル画。中世ヨーロッパ風の兵士が戦っている(?)様子がデフォルメされて描かれており、まるで絵本のワンシーンのようなノスタルジーを感じる。奥には深風呂と浅風呂。手前にカランのある、東京銭湯の基本形だ。

湯は井戸水を使っているとのことで、体感で43度くらい。じんわり染み入る熱さになっている。カラン列にはそれぞれにボディソープとリンスインシャンプーの備え付けあり。ただ静かに身体を洗い、湯につかる。決して特徴の多い銭湯ではないが、ゆっくりと流れる時間の中で、都心にいることを忘れさせてくれる。

帰り際、女将さんはうたた寝中。起こさないようにロッカーの鍵を返却する。余談だが、同町内にある「わかば」というたいやき屋は、行列ができる大人気店。銭湯とあわせてどうぞ。

※イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。