文京区は東京23区の中でも千代田区、港区に次いで銭湯の少ない区である。「谷根千」と呼ばれる東京下町の風情を残す地域を含みながら、意外と思われるかもしれないが、東京都浴場組合に加盟した銭湯は6軒しかない。だが、今回はその6軒には含まれない文京区の銭湯を紹介しようと思う。

「君の湯」へは、東京メトロ丸ノ内線「新大塚駅」から徒歩5分

都内の銭湯ファンでも知らない!?

名前は「君の湯」、東京メトロ丸ノ内線「新大塚駅」から徒歩5分のところにあるお風呂屋さんである。ほとんど豊島区に近いあたり、春日通りから一本南の道路沿いにある。

君の湯も10年くらい前までは組合に加盟する銭湯だったらしいが、その後、脱退したようだ。東京に限って言えば、スーパー銭湯やサウナを除く99%の銭湯が組合加盟なので、珍しい業態と言える。加えて、組合がつくるマップやサイトにもちろん掲載はされないので、都内の銭湯ファンでも知らない人もいるかもしれない。

だが、組合に入っていないからといって利用者側にすれば何ら不都合はない。多くの東京銭湯よりも安い420円で入浴できるので、むしろオトクな銭湯なのだ。

コインランドリー併設、千鳥破風の屋根をもった外観。下足場を抜けて、右手にフロント。正面にはソファやテレビ、ドリンクケースなどのあるロビーがある。男湯は右、女湯は左へ進む。ロッカーは左右両側に2面と、背側に縦長のロッカーがある。中央には畳張りの腰掛けと、雑誌の棚。見上げれば折上格天井。ASANO製のはかりもある。清掃の行き届いたキレイな脱衣所だ。訪問は平日の15時過ぎ、相客は15人ほどいた。大盛況だ。

富士山にゴルフ、風車、海岸も

男湯のイメージ(S=シャワー)

浴室は典型的な東京銭湯のスタイル。手前にカラン、奥に浅風呂と深風呂(座ジェットバス)がある。正面には富士山のペンキ絵。中島絵師による作で、ゴルフ場とプレーヤーも一緒に描かれているところがユニークな作品だ。

境目には風車や海岸、ヨットを描いたモザイクタイル画。桶は黄色の無地桶と一部ケロリン桶。カラン、鏡前のスペースが広くとられており、湯道具が置きやすい工夫がなされている。湯は適温で、右端の薬湯(ラベンダー湯)だけ、ややぬるめ。狭いのに3人がつかっていた。

誤解をおそれずに言えば君の湯は普通の銭湯だが、それだけで十分だ。キレイなお風呂と脱衣所があって、いいお湯でリラックスする。これ以上、銭湯に必要なものはない。明るい内からにぎわう浴室が、それを裏付けている。

※イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。