中国の奥深さ、そして大自然を堪能したいなら黄山へ

なんだかこの連載、タイと中国を行ったり来たりしているが、今回も中国である。今や中国経済の中心地である中国・上海には、ビジネスでも観光でも訪れる人が多い。格安航空券やツアーをうまく利用すれば、国内旅行よりも手軽かつ安価に済ますことができるのも人気の理由だろう。

現在中国の経済成長を目の当たりにできるのがここ。浦東地区の高層ビル街を臨む「外灘(バンド)」。いまいち中国の色彩感覚には馴染めないが、目の前に広がる夜景は素晴らしい

上海観光の定番が「豫園(よえん)」。昔のお金持ちが作った庭園らしい。美しい中国庭園を見ることができる。また、隣接する豫園商場で買い物したり、食事を楽しむのもグッド

上海一の繁華街「南京路」。外灘で夜景を見て、そのままふらふら南京路を歩けば、そこかしこに美味しい食堂が並んでいて、中国全土の料理が楽しめる。ただし、ここは観光客目当ての客引きが多いことでも有名。客引きについていくと、十中八九トラブルに巻き込まれるので注意

上海は戦前、フランスなどの租界地だった。そのフランス租界時代をイメージして作られた新しいスポットが「新天地」。よく見ると東京でも見かけるような店が並んでいるので、珍しさはあまりないが、ちょっとお茶したり食事したりするにはいいところ

一度上海を訪れるとわかるが、さすがに大都会。中国語の看板などに慣れてくると、東京と変わらないぐらい発展した都市だ。中国としては結構物価が高く、食事も決して安くない。危険を顧みずディープな世界にハマるなら別にして、出張中の気晴らしやちょっと観光を、と考えると見どころはそう多くない。そのせいか、日本からの上海行きの観光ツアーには、蘇州、無錫、杭州など郊外都市への観光がよく組み込まれている。こうした街の多くは宋、明などの時代の古い中国の町並みが残っており、充分に楽しむことができる。

上海から、できたばかりの新幹線に乗って1時間程で行ける杭州は、浙江省の省都で人口約700万人の大都市。上海に比べるとのどかな雰囲気だ。中国史に名を残す多くの文人、芸術家、政治家が愛した西湖のほとりは本当に美しい

西湖の湖面に建つ塔。この塔に見覚えのある方は、中国通かも。人民元をお持ちの方は、一元札の裏をご覧頂きたい。この塔が描かれている。なお、杭州の冬は写真のように常にモヤがかかっており、結構寒い。美しい西湖を散策したければ、春から初夏がオススメ(らしい)

だが、中国の奥深さ、そして大自然を堪能したいならば、もう1カ所行って欲しいところがある。それが、少々内陸に入った安徽省にある世界遺産「黄山(こうざん)」である。黄山は上海からほど近く"ほんの400kmほど"行ったところにある連山だ。日本で400kmはかなり遠いイメージだが、中国で400kmは結構近い。黄山は、まさに山水画の世界。中国で「黄山を見ると他の山は見えない」といわれるぐらい、風光明媚な美しい山々なのである。

上海から黄山近郊の街、黄山市までは飛行機が何便か飛んでいる。早朝の便で高山に向かい、翌日の夜遅い便で上海に戻れば、2日間で黄山を満喫できる。どうしても時間のない人は早朝便で黄山市に向かい、深夜便で上海に戻れれば日帰りも可能だ。実際、最近はそういった観光客も多いようだが、黄山ではどうしても一泊してもらいたい。その訳は追ってわかるだろう。そして、黄山市から黄山山麓までは1時間半ぐらいタクシーかバスを利用することになる(タクシーだと200元程度)。

黄山観光の拠点となるのが、安徽省南部の都市、黄山市。昔の地名だと「屯渓」だ。時間に余裕がある旅ならば、ここで一泊して古い町並みを楽しみ、翌日朝から黄山へ登るというのもいい

屯渓の老街は石畳が1kmほど続き、その両脇には宋、明代の古い建物が並ぶ。その多くは、土産店になっているが、お茶や硯、墨などが上海よりも安く手に入る。特にお茶。日本人にも飲みやすい黄山の緑茶に加えて、世界三大紅茶の1つと称される中国のキームン紅茶の産地は安徽省だ

さて、黄山である。前述のように上海から行く方法もあるが、僕は杭州から専用車を手配することにした。杭州は近年、日本からの直行便も出ており、杭州から黄山までは高速道路が整備されている。「杭州から黄山までの専用車+日本語ガイド(2日間)」をインターネットで調べると、おおむね2,500~3,000元程度(4~5万円程度)で手配できる。この金額は一人だとちょっと高価に感じるが、グループで行くなら上海から飛行機に乗るよりも安い。

というわけで、杭州のホテルを8時に出発し、黄山まで延々5時間ほど高速道路をひた走り、黄山の山麓に到着。黄山風景区は自然保護のため、車両の通行が制限されている。そのため、山麓のバスターミナルでバスに乗り換え、15分ほど乗り、ロープウェイ乗り場へと向かう。黄山とは1,700~1,800mの連山の総称だ。僕はロープウェイで山頂付近まで上ったが、慣れた人なら5、6時間かければ歩いて登ることもできるらしい。

一般車両が入れるのは、このバスターミナルまで。なお、バスターミナルには荷物の預かり所がある。もし大きな荷物を持ってきた人は、貴重品だけを身につけるようにして、残りの荷物はここで預けよう。黄山に大きな荷物を持って入らないほうがいい。その訳は追って

バスで15分ほど、雲谷ロープウェイの乗り場に到着。ここで黄山の入山料とロープウェイ代200元程度を支払う

2007年秋に新しくなったばかりのきれいなロープウェイで黄山山頂に向かう。雲の中をぐんぐん登っていく。この雲を抜けた先に、晴れた山頂が見えてくる……のだろうか

いよいよ山頂に到着! 寒い! 雲で遠くはほとんど見えない! でも、見えるところはスゴイ景観。歩いているうちに、雲が晴れればいいのだが

やはり黄山の景色はすばらしい。少なくとも日本では絶対にお目にかかれない。どうやら中国でも、ここでしかお目にかかれないらしい。しかし、ものすごい霧、というか、完全に雲の中にいるようだ。それでも、歩いているうちに雲が晴れないかと一縷の望みを託しながら、黄山を歩き始めた。

そびえ立つ岩に、黄山固有種の松が這いつくばるように生えている。山水画の名作の多くが、ここ黄山を描いたものというのも納得できる

黄山の魅力は3つの「奇」と言われる。1つは花崗岩の侵食でできた「岩」。1つはその奇岩の間に這いつくばるように生える「松」、そしてこの地方特有の寒暖差と標高差が生み出す「雲海」

山水画って墨で抽象画っぽく描いているのかと思っていたが、もしかして写実なのだろうか。と考えているうちに、雲は晴れるどころか、どんどん濃くなっているような

というわけで、黄山初日は雲に包まれ、時折雪が舞い、厳しい自然を目の当たりにする日になってしまった。ところで、黄山に荷物を持ってくるなと言った訳はお分かりだろう。黄山は切り立つ断崖のような山々を1つ1つ徒歩で登っては下り、下りては登るのである。しかも標高1,700mって結構空気が薄く、荷物なんか持っていると、すぐに歩けなくなってしまう……。

黄山ではこんな山道をひたすら歩いて上り下りする。こんな険しい山々、当然車は走れない。しかもこの日は足元が凍っていて滑る! 雪の降らない地方出身の僕にはそれだけでも堪える

黄山でよく見かけるのがこの荷物運びの人。荷物1個10元ほどでお願いすることができるそうだ。黄山の山頂に食料などを運ぶのも彼ら。片道5時間ほどかけて黄山山麓から毎日往復しているらしい

この日に予約していた黄山山頂の高級ホテル(という触れ込みの)「西海飯店」までは、ロープウェイ乗り場から約5km。とにかくここまで来たからには歩くしかないのである。ひたすら続く石段は、上りはぜいぜい息が切れるし、下りは膝がガクガクになるし、足元は凍っていて滑るしで、何かの罰ゲームでもやっているような気分。なぜこんな所まで来てしまったのだろう。真剣に後悔しながら、もくもくと雲の中を歩き続ける。

ますます霧が濃くなり、遠景はまったく見えないが、近くに生える松ならなんとか見える。写真は「10大松」と呼ばれる松の1つ「黒虎松」。黄山の岩や松にはさまざまな名前が付けられている

こちらは「探海松」。この向こうに見える山と一緒に写真を撮るのが美しいらしいのだが、ご覧の通り、松の向こうなんて何も見えない

根が龍の爪みたいだと名づけられた「龍爪松」。黄山の松は、岩の間で水を求めて根が張るため通常の松の3倍近い長さがあるそうだ。また、葉からも水分を吸収して、厳しい自然を生き抜いているらしい

「団結松」。10大松に入っている資料もあれば、入ってない資料もある。ちなみに、黄山で一般に言われている10大松と、世界遺産で指定されている10大松もいくつか異なっている。まあ、どっちにしても、晴れていればきれいなのだろう

ガイドさんに「ここからの眺望がきれいなんです」なんて説明されては、「見えればね……」と虚しく答えつつ、ようやく西海飯店に到着。まだ15時過ぎだったが、「今日はもうダメ」ってことでホテルにチェックイン。値段は一泊500元ちょっと。杭州あたりなら結構高級ホテルに泊まれる価格だが、設備その他はせいぜい二つ星半ってところ。まあ、この厳しい自然の中で、熱いシャワーが浴びられるんだから文句は言いません。食事だって「100元も払ってこんなもん」ではなく「食べられるだけありがたい」と考えましょう。「明日もこの天気だったら、とっとと下山しよう」とかなりネガティブな気分に浸りながら、疲れもあって21時には眠りについたのである。

今回はここまで。果たして念願の黄山は眺められるのだろうか……。次回は黄山2日目をお伝えする。