クメール遺跡が残るロッブリーの街
アユタヤからさらに車で2時間ほどの田舎に、ロッブリーという街がある。ここは非常に小さな街だが、クメール(現カンボジア)遺跡が数多く残る、遺跡好きにはちょっと見逃せない街なのである。タイにはクメール遺跡の残るところがいくつかある。だが、ロッブリーならバンコク、アユタヤから日帰りで行ける点でもポイントは高い。
ロッブリーへは、バンコク、アユタヤから列車、バスなどで行くことができる。どちらを利用しても、2時間ちょっとは覚悟しておいたほうがいい。また、以前ご紹介したスコータイ遺跡の近隣、ピッサヌロークから列車でロッブリーに向かうこともできる。ただし、時間には無頓着なタイである。バスや列車が時間通りに運行するとは限らないので、時間の制約がある人にはまずオススメできない。
そこで、僕は以前にもお世話になったことがあるフリーのガイドさんにロッブリーまでの案内をお願いした。彼は以前、旅行会社の日本語ガイドを務めていたが、今はワゴン1台で独立し個人ガイドをやっている。旅行会社に所属していないので、海外ツアーでありがちな土産物屋さん攻撃もなく、地元の穴場を教えてくれるので、タイに行くたびにガイドをお願いしている。タイに限らず、旅先で出会った優秀なガイドさんは連絡先を聴いておこう。再訪する時には、観光だけでなくホテルや交通手段の手配など、いろんな面で個人旅行のサポートをお願いできるからだ。
さて、ロッブリーである。日帰りで行けるとはいえ、片道2、3時間はかかるので、早朝にバンコクを出発。とにかくタイの田舎道を車で突っ走って行く。3時間ぐらい走って、小さな街に到着。どうやらロッブリーの駅前らしい。よく見ると、なんと駅から200mほどのところに遺跡が立っている。
朽ち果てた遺跡だが、こんな景色を見ていると、日本から遠く離れた異国であることを実感する。ところで、影になったところに小さな生き物がいることがわかるだろうか。実は、猿である |
ロッブリーは、なぜか猿の街としても有名。プラ・プラーン・サム・ヨートの塔内も外にも猿がいっぱい。おかげで近隣の家の窓はすべて鉄格子がしてある。猿のいたずらから逃れるためらしい |
ロッブリーの街を探索だ。もっともロッブリーは端から端まで30分もあれば歩けるほど小さな田舎街。その街のいたるところに遺跡が点在している。
そんなロッブリーの中でもひと際目を引くのが、ナライ・ラチャニウェート宮殿である。ここは、1600年代、アユタヤ王朝のナライ王が住んだとされる居住地。ナライ王はフランスとの国交を開こうとしたことで、アユタヤ王朝でも特にその名を知られている。日本でいう江戸時代にフランス・ルイ14世と親交があったというのだから、その先進性には驚く。ロッブリーはナライ王の避暑地として栄え、晩年にはナライ王が年間のほとんどをここで過ごしたという。つまりロッブリーは、ナライ王時代、アユタヤに次ぐ第2の首都ともいえる街なのである。
チャオプラヤ・プラヤー・ウィチャエンの家は、ナライ王朝時代に外国の使節向けに建てられ、フランス大使などの居住地となった。その後、東インド会社の使用人からナライ王の顧問へと上り詰めたギリシャ人、コンスタンチン・プファウルコン、タイ名チャオプラヤ・ウィチャエンの居住地となったそうだ |
このように、ロッブリーはアユタヤ王朝以前にはクメール文化の影響を強く受け、アユタヤ王朝時代には第2の首都として独自のロッブリー文化を生み出すなど、スコータイともアユタヤとも異なる魅力のある街だ。ところで、ロッブリーはぜひ12月に訪れてほしい。その理由の1つは、タイとしては涼しい季節であること(涼しいといっても30度近くになるのだが)。そしてもう1つの理由が、"ひまわり"である。
12月のロッブリーは"ひまわり"の一大産地としても有名。一面に広がるひまわり畑は壮観。このひまわり、観賞用ではなく、ひまわりの種から油をとるために植えられているが、シーズンになると観光向けに開放される。ただ、ひまわり畑を管理しているのは、なぜか軍 |
ひまわりの花盛りは長くない。訪れた時に盛りのひまわり畑がどのあたりにあるかを、あらかじめロッブリー駅の近くにある観光局で確認しておこう |
ひまわり畑の横には露店が並び、ハチミツやひまわりの種なんかを売っている。ハチミツは驚くほど甘くて美味しい。ひまわりの種を買って、帰りの道中のおつまみというのも悪くない。ひまわり柄のシャツもたくさん売っているが、僕は遠慮しておきました |
こうしてロッブリー観光を楽しんでバンコクへと戻る帰路、ちょうど夕暮れ時にアユタヤ付近を通ったので、少しだけアユタヤに寄り道した。バンコクまで帰るには、少し遠回りになるのだが、せっかくだからとガイドさんが連れて行ってくれたのだ。こういった配慮が個人の手配旅行ではうれしい。行き着いた先は、アユタヤのチャオプラヤー川沿いにある遺跡、ワット・チャイワタナラムである。
タイはビルマ(現ミャンマー) やクメール(現カンボジア)、さらには中国などからたびたび侵攻を受けてきた国だけに、アジアのさまざまな文化に触れることができる。僕はスコータイ、アユタヤ、ロッブリーとそれぞれ別の時に行ったが、これなら出張やツアー旅行の空き時間でも充分訪れることができる。時間がとれるならば、チェンマイからスコータイ、ロッブリー、アユタヤといった古都を巡り、ASEAN最大の経済都市バンコクへと進んでみよう。アジア史の移り変わりを肌で感じながら、買い物にグルメにと東南アジアの楽しみを満喫できるに違いない。