さて、こんな感じで、のんびり散策したり、買い物したりというのが、僕オススメのアモイの過ごし方であるが、もう1つ是非とも訪れてほしい場所がある。それが、アモイから車で3~4時間ほど行ったところ、福建省永定県などにある「客家(ハッカ)土楼」である。
中国のみならず、世界中で富を築いているのが「華僑」。もちろん、アモイの繁栄も華僑によるところが大きく、戦後、コロンス島が中国に返還された後にはヨーロッパ調の町並みを別荘地として買い求めているのも、多くは華僑である。その華僑はいくつかの民族に分かれるが、中でも大きな勢力が「客家」と呼ばれる人たちだ。客家は、昔から商売に長けており、そのために他の民族の襲撃を受けることも多かった。そこで、福建省永定を中心とした地域では、客家が民族を守るために独自の防衛施設を兼ねた住宅を建築した。それが、客家土楼と呼ばれる建物である。
客家土楼は、福建省の山間部、永定や南靖などの地域に点在している。福建省永定県内に2,000以上の客家土楼があると言われており、客家土楼を見るには、列車で永定へ行く手段もあるが、中国語の語学力が必要となるし、時間もかなりかかる。そこで僕は少々高価だが、アモイから専用車で回るツアーを利用した。料金は、専用車+日本語ガイド+昼食代込みで約2万円程度。インターネット(日本語対応)から申し込める。
朝7時になると、ガイドさんがホテルまで迎えにきてくれて、いざ永定へ出発。永定までの道のりは3~4時間とかなり長距離を車でひた走る。最初は整備された高速道路を走っていて、「中国も日本も変わらないな~」なんて思っていたが、途中からは舗装もままならない砂利道へと変わる。しかも、どの車も車線は守らず、対向車が来ているのに対向車線をガンガン追い抜いていき、前を見ているだけで怖い。そんなわけで、いくつかの山を越え谷を越え、「まだかな~、まだかな~」なんて言いながら、いい加減疲れた頃にようやく見えてきたのが、客家土楼!
急成長を遂げる中国だが、都市部を少し離れると、こんな感じ。こんな感じの道を対向車が来ているのも、自転車や歩行者がいても気にせず、ガンガン車が走っていく。日本の運転に慣れた目には、怖くて前を見ていることもできない |
舗装されていない道と粗っぽい運転で、乗っているだけで疲れ気味になっていた僕だが、客家土楼が見えてくるとそんなことは忘れて、車窓を見つめていた。すると、次々と大小の客家土楼が田園風景の中に点在している。これはすごい。ツアー料金は安くないし、道中はかなり疲れたが、やはり来た甲斐があった。そして、永定でも最大級の客家土楼「承啓楼」に到着した。
客家土楼は、他民族の襲撃から一族を守るために作られた集合住宅である。唐から宋の時代にかけて建造されたそうで、この「承啓楼」は築400年ほどとのこと。現在、世界遺産に申請中だ。そういうわけで、この連載のタイトルは「私的」世界遺産なのである。まだ世界遺産には指定されていないが、アモイを訪れたら少々無理をしてでも、ここは一見の価値アリ、だ。
入り口を入るとこんな感じ。中は迷路のように入り組んだ構造になっていて、中国! という雰囲気が漂う。昨日までいたコロンス島とはまったく異なる雰囲気だ |
見上げるとこんな感じ。真ん丸い建物の中にいることがわかる。ここは今でも現役の住居。もっとも、若い人たちは都市部へ働きに出ることが多く、住民は年配の方と子どもが多いそうだ |
土楼内に入ると、中国4000年の歴史が漂い(客家土楼は400年だけど)、「中国に来たな~」とこの旅で始めて実感。だが、下から見ていても、いまいち全体像がつかめない。そこで、ガイドさんとともに4階まで階段を上がってみた。やはり上からの眺めは圧巻。客家土楼のすごさを実感できる。
このとおり、見事に丸い円形土楼。4階建ての土楼内に最盛期には約80戸、600人が暮らしていたそうだ。なお、1階と2階は炊事、洗濯などを行う共同スペース、3階から上が住居となっている |
今風にいうと、6畳ほどのワンルームマンションといった感じ。なお、この承啓楼は一泊20元ほどで泊まることもできるそうだ |
4階の窓から外を見るとこんな感じ。上記の外観を見てもわかるが、土楼の1階と2階には窓がない。窓があるのは3階より上の住居スペースのみ。防衛を重視した客家土楼だから、こんな構造になっているようだ |
土楼の中央にあるのは、祭事や集会などを行う祭壇。なお、土楼内の人たちは、みんな同じ名字。客家土楼は一族が暮らす一つの集合体なのである。ちなみに、現在では土楼内の人同士の婚姻は禁止されているそうだ |
というわけで、今回のアモイ&「福建土楼」の旅は終了。特にこれからの時期、寒い日本を逃れて、のんびりするにはアモイはオススメの街だ。中国の中でもアモイは外国人慣れしているので、観光客でも不便は感じないし、食べ物は抜群に美味しい。さらに、ちょっと足を伸ばして、客家土楼を訪ねれば、中国らしさを満喫できる。年末年始の旅行計画に、アモイを入れてみてはいかが?