海外を旅していて、もっとも不満を感じるのがお風呂という人は少なくないだろう。日本の観光旅行なら、夜は温泉宿に泊まることが多いし、温泉がないところでも、サウナや旅館の大浴場などでゆったりとお風呂に浸かって旅の疲れを癒すことができる。一方、海外旅行に出ると、温泉どころか、高級ホテルですらシャワーのみということも少なくない。

前回紹介したニュージーランドは、大自然の中を散策するのが楽しい。自然の中で気軽に体を動かすことができるアクティビティが豊富に用意されているところが、ニュージーランドの一番の魅力といっていいだろう。そうなると、夜はのんびりとお風呂に浸かりたい、と考えるのが、日本人というもの(なのか?)。で、そんな人にオススメなのが、今回紹介する街、ニュージーランド北島北部にあるロトルアである。

ロトルアへは、ニュージーランド最大の都市オークランドから車でも3時間ほど、ニュージーランド航空の国内線を利用すれば、わずか40分ほどで行くことができる。また、首都ウェリントンからでもニュージーランド航空の国内線を利用すれば1時間ちょっとで行くことができる。

ニュージーランドの人口約400万人のうち、120万人が暮らすというニュージーランド最大の経済都市オークランド。ニュージーランドから日本へ飛び立つ飛行機はすべてオークランド発となるため、ニュージーランドを訪れると必ずこの街に行き着く

ニュージーランド国内の移動はニュージーランド航空。スターアライアンスに加盟しているので、ANAなどにマイルを貯めることができる。ニュージーランド航空のチケットはWEBサイトを使えば、日本から日本語で購入することができる

北島第2の面積を誇るロトルア湖のほとりにあるロトルア空港からロトルアの市街地までは、湖のほとりを車で15分ほど走れば到着する。ロトルア湖は、火山の噴火口が沈下してできたカルデラ湖である。このロトルア湖、見る方向によって水面の色が異なっているし、水蒸気で被われた所はあるしで、なんだか不思議な雰囲気。実はこのロトルア湖とそのそばにあるロトルアの町は、地熱活動が活発で、街でも湖でもいたるところから温泉が吹き出ている不思議な街なのである。

建物の周囲や湖の波打ち際に煙が。この日は天気が悪かったからでも、火の始末が悪いからでもない。このあたりは、非常に地熱活動が活発で、いたるところから温泉が噴き出しているのだ

円周10km以上ある大きなロトルア湖。地熱活動の影響で場所によって水温が違うため、水温の高いところではこのように湯気が上がっている

さて、ロトルアでまず向かった先は、テ・プイアである。ここでは、巨大な間欠泉とニュージーランドの先住民マオリに関する展示などを見ることができる。日本でも、また以前紹介したイギリス・バースなどもそうだが、温泉の湧き出るところには古くから文化が発達するようだ。このロトルアはマオリの文化の中心でもあるのだ。

間欠泉などこの地方の地熱活動とマオリ文化を堪能できるテ・プイア。入場料は大人22NZドル、子ども11NZドル

テ・プイアに入って、すぐに見えてくるのが高さ30mにも達するという巨大な間欠泉。温泉といえば日本、と思っていた僕はびっくり

テ・プイアの中は、ロトルアでも特に地熱活動が活発な地域。そこかしこから温泉が湧き出ていて、小川でも湯気が上がっている

(上)間欠泉に近づいてみた。間欠泉は高いときで30m、低いときでも15mに達するそうだ。一日に10~20回は吹き出す(右)間欠泉以外にも、歩いているとそこかしこに温泉が湧き出ている。しかも、ほとんどが90度以上という高温なのでヘタに触るとやけどしそうで、ちょっと怖い

このあたり、岩も結構熱い。ものすごく高温のところは入れないようになっているが、歩けるところでも地面から熱気が伝わってくる

テ・プイアにいると、まるで大分の別府温泉か、箱根の大涌谷でも歩いているような気分になる。そして、温泉とともにここで見られるのがニュージーランドの先住民マオリの文化である。

古いマオリの建物を再現。古くから温泉が湧き出ていたロトルアはマオリの文化の中心ともなっていたようだ

なんだか、縄文時代の遺跡を見ているようなマオリの古い住居跡

マオリは、どうやら日本のアイヌと同じような歴史を辿っているらしい。もともと先住民として独自の文化を築いていたが、1800年代以降、イギリスが入植して土地を追われ、また文化を捨て去ることを強要されて、多くの文化を失いつつあったようだ。ニュージーランドに英語らしくない不思議な地名が多いのは、マオリの呼び名だからである。そういえば、北海道でも日本語としては聞き慣れないアイヌ語の地名が数多く存在する。そうした歴史を乗り越え、現在のニュージーランドではマオリ固有の文化を見直し、後世に伝えようという動きが活発だ。

首都ウェリントンにあるテパパ博物館や国立公文書館にはマオリの貴重な資料などが展示されている。ロトルアを訪れる前にこれらを見ておけば、ロトルアでの観光が一味違ったものになるかも

ウェリントンの国立公文書館に展示されているマオリの象形文字。もともとマオリは文字を持たない文明だったため、文字はほとんど残されていない

さて、話をテ・プイアに戻そう。テ・プイアでは展示物だけでなく、マオリの文化を肌で感じることができるようなアトラクションが用意されている。中でもオススメは、マオリの伝統料理、そして歌や踊りなどのパフォーマンスを楽しめる「マイ・オラの夕べ」である。

(上)「マイ・オラの夕べ」は、マオリの集会所であり神聖な場所である「マラエ」に響くほら貝からスタート(右)マラエから一人の戦士が出てきて、マオリ伝統の踊り「ハカ」で威嚇する。その後、マラエの中に参加者が招待され、参加者はマラエの中に入っていく

(上)マラエの中では、マオリ伝統の歌や踊りなどを小一時間見ることができる(右)「ワイアタ」と呼ばれるマオリ伝統の歌や、紐に付けたボールを回す踊りは、参加者も一緒になって楽しむことができる

(上)舌を出して相手を威嚇するマオリ戦士伝統の踊りがハカ(右)ハカはラグビー最強軍団、ニュージーランドナショナルチームが試合前に踊ることでも有名だ

前回紹介した「WOW(モンタナ・ワールド・オブ・ウェアラブル・アート)」でも、ハカをモチーフにした作品が披露されていた

ワイアタやハカを楽しんだら、マラエの横に設営されたテント小屋の中に入ってディナータイム。ここでは、マオリ伝統の蒸し料理「ハンギ料理」や、それをアレンジした現在のニュージーランド料理をビュッフェ形式で堪能できる。味付けは、日本人でも食べやすい薄味で、とても美味しい。この日は少々寒かったので、シーフードたっぷりのクラムチャウダーが、塩味が効いていて、温かくて、疲れた体を癒してくれた。

テント小屋といっても、ちゃんとパーティができるぐらいのスペース。ここで、薄味でさっぱりしたハンギ料理を楽しめる

そして、ディナーを堪能したら、マイ・オラの夕べもいよいよフィナーレ。最後はライトアップされた間欠泉に向かう。もっとも、真っ暗な夜にそこかしこから熱湯が吹き出ている所へ徒歩で行くのは少々危険なので、参加者全員カートに乗り込んで間欠泉間際まで向かう。

ライトアップされた間欠泉は、非常に幻想的。もちろん夜でも休まず、間欠泉は噴き上がっている。この情景がスローシャッターの写真ではいまいち伝わりにくいところが残念(すみません、未熟なカメラマンでして……)

と、これで、マイ・オラの夕べは終了。なお、テ・プイアはロトルア市街地から車で10分ほどのところにあるので、夜が少々遅くなってもまったく問題ない。せっかくなので、昼間の一大地熱地帯の様子、そして夜のマイ・オラの夕べ、両方を堪能してほしいところだ。

マイ・オラの夕べが終了したら、ライトアップされたテ・プイアの出口から帰路に着く。昼間の開放的な雰囲気もいいが、夜のライトアップされたテ・プイアも幻想的で素敵