では、いよいよハロン湾に向かおう。世界遺産に指定されているハロン湾の島々。ハノイから東へ200km弱、中国・桂林のような山々が海に向かって島となって連なる姿は、非常に幻想的らしい。以前、テレビでその光景を見て以来、いつかは訪れたいと思っていた憧れの場所なのである。

ハロン湾へは、ハノイからたくさんのツアーが出ているので、それを利用するのがいいだろう。インターネットであらかじめ予約しておくのが安心だが、前日でもハノイ大教会周辺にある旅行社やホテルのツアーデスクなどで簡単に申し込むことができるはずだ。金額もさまざまで、バスに乗り合う20ドル程度の低価格ツアーから、専用車で往復し、ハロン湾に浮かべた貸し切り船の船上で一泊できる豪華ツアーまで、いろいろと用意されている。値段だけでなく、よく条件を確認して、自分の嗜好に合ったツアーを選ぶようにしよう。

豪華客船で一泊するツアーだと、一人200ドル近い値段になる。だが、それでもハノイのホテル代が浮くことを考えると、充分に納得のいく値段といえる(ハノイはホテル代が高い!)。僕は憧れの場所ということもあり、ちょっと奮発して「専用車+日本語ガイド+ハロン湾での専用船チャーター代日帰り」で一人95ドル(2人以上から催行)というプライベートツアーを、日本からインターネットを通じてハノイの日本語対応してくれる旅行会社に申し込んでおいた。

朝8時過ぎにハノイのホテルまで迎えに来てくれた日本語ガイドさんとともに、専用車に乗った僕たちは、ひたすら東に向かってひた走る。ハロン湾は、観光産業に力を入れているベトナムでも一番人気の景勝地ということもあり、道中の道路も非常に整備されている。まだ自動車が少ないベトナムで、これだけ立派なハイウェイが必要なのかと感じるほど整備された道をひた走り、ハロン湾目指し、車を東へ向けてぶっ飛ばしていった。

ハノイからハロン湾までは3時間少々かかる。ハノイは大都会であるが、市街地を離れるとのんびりとした東南アジアらしい田園風景が広がる。日本人がイメージするベトナムは、こんな感じではないだろうか

道中でトイレ休憩をしたドライブインの回りをぶらぶらしていると、牛を散歩中(?)の地元の少女と出会った。こんなのんびりした風景が経済成長の波にいつか飲みこまれてしまうのかと思うと、ちょっともったいないな~、なんて考えは旅行者のわがままだろうか

トイレ休憩を終えたら、さらに東へ車を走らせる。最初は珍しかった田舎の田園風景であるが、ん~、ちょっと飽きてきたかも。朝、早起きだったことも加え、ウトウトと寝入ってしまったのであるが、「到着ですよ! 」というガイドさんの声で目を覚ますとびっくり。すでに、ハロン湾クルーズへ向かうための港に到着している。あら、気分を盛り上げる間もなく、あっけなく着いてしまったのね……。ま、寝ていた僕が悪いんですけど。

ハロン湾クルーズの拠点となるのが、ここバイチャイの港。ツアーで来ても、バスなどを乗り継いで自力で来ても、ハロン湾観光はここで船をチャーターすることになる。だったら、ツアーを利用したほうが、便利かつ安心というわけだ

ハロン湾クルーズは、この「ジャンク船」と呼ばれる帆掛け船をチャーターして出かける。ちょっと海賊にでもなったような気分。今回は、この船を僕のグループだけで貸し切りにしてハロン湾へと向かう

ガイドさんがあらかじめ手配しておいてくれたジャンク船に乗り込み、いざハロン湾クルーズへ出発だ。この時、時間はちょうどお昼前。朝、ハノイからやってきたツアー客もそれぞれのジャンク船に乗り込み、ハロン湾クルーズに続々と向かっている。その後を追うように、僕のジャンク船も沖合へと進んでいく。そして、船を走らせるとすぐに、たくさん連なるジャンク船の向こうから、夢にまで見た(いや、ホントに)ハロン湾の島々がだんだんと姿を現してきた。

点々と連なるジャンク船の向こうに、ハロン湾の島々が浮かんできた。僕がここを訪れたのは3月。海はもやがかかって遠くがかすんでいる状態だが、もやの向こうには水墨画のような世界が浮かび上がってきた

このハロン湾を作り出したのは、中国南部から続く石灰質の地盤だ。石灰質の侵食が、切り立つ山々を作り出している中国・桂林と同じである。中国南部で、陸の上に山が切り立つ桂林の光景を作り出したのと同じ地盤が、南シナ海に到達し、地殻変動などで海に沈んで出来上がったのが、ハロン湾の島々というわけ。だから、「桂林が海に沈んだような光景」というのは、学術的にも間違っていないのである(少々大ざっぱ過ぎる説明ではあるが)。

船はどんどんと最初の島へと近づいていく。間近で見ると、海からそそり立つ島は、なかなかの迫力。貸し切りのジャンク船の甲板に立っていると、誰にも気を使うことなく、ハロン湾の光景を満喫できる

島の横には、海に浮かぶ家が見えてきた。確かに、断崖絶壁のハロン湾の島に家を建てるのは難しい。そこで、このあたりでは海上に家を浮かべ、水上生活をしている人もたくさんいるそうだ

水上に浮かぶ家にジャンク船を少しだけ停泊。ここで、この日の昼食の魚を購入。ジャンク船内にはキッチンがあり、調理師も同乗しているので、ここで買った魚介類をすぐに調理してもらえる

こんな感じで魚介類を売っている。家の下は海だから、床に穴を空ければ天然のいけすの出来上がりというわけ。それにしても、台風シーズンは、この家、どうするのだろうか? 聞いてくるの、忘れてた……

ハロン湾は、約1,500平米の海上に2,000弱の島が浮かんでいる。1994年にユネスコの自然遺産に指定されている。だから、船をどんどん進ませると、次から次へと奇妙な形をした島々が浮かんでいる。その脇を通り過ぎると、また前方には素晴らしい光景が広がる。さきほど買った魚とツアーであらかじめ付いている料理で、食事をとりながらのクルージングなのだが、ハロン湾の景色に見入ってしまって、せっかくの新鮮なシーフード料理の味なんて全然覚えていない。いや、きっと美味しかったはずなのだが(笑)、素敵な料理もハロン湾の光景の前には圧倒されてしまったわけである。

沖合へどんどん進んでいくと、もやの中から、次々とさまざまな形の島が姿を表す。最初は、もやがかかってなければと思っていたのだが、だんだんと、もやもまたハロン湾の光景を作り出す要素なのではと思えるようになってきた

ハロン湾のガイドブックなどで必ずといっていいほど紹介されているのが、この岩。すみません、名前忘れました……っていうか、景色を見るのと写真を撮るのに夢中で、ガイドさんの話をほとんど聞いてなかった

ハロン湾の景色には、このジャンク船がよく似合う。普通の景勝地だと、せっかくの景色に乗り物が写るのは気に入らないのだが、ハロン湾ではジャンク船も欠かせない光景の1つ

甲板に椅子を置いて、こんな景色を眺めていると、本当にリラックスできる。当初の興奮が冷めてきても、ハロン湾の景色に飽きることはない。いつまでも眺めていたい気分になる

(上)岩場が多いということは、魚なども豊富。従ってこのあたりでは漁業が盛んで、昔も今も変わらず漁業で生計を立てている人も多いそう(右)この島に上陸するには、どう登ればいいんだろう。ちなみに、ハロン湾の約2,000弱の島のうち、1,000弱ぐらいには名前が付けられていて、中には実際に人が住んでいる島もあるそうだ

もうとにかく、船が進むたびに新しい光景が広がり、ハロン湾クルーズはまったく飽きることがない。だが、そうはいっても、どこかの島に上陸してみたい。そんな気分になった頃に到着したのが、結構大きめの島。実は、この日のスケジュールを僕はまったく把握していなかったのだが(ガイドさんは、どうやら僕が寝ていた車中で説明したらしい……)、ガイドさんに連れられてジャンク船を下り、この島に入っていくことになった。

どうやらこの島は、ジャンク船によるハロン湾クルージングの定番コースらしい。多くのジャンク船がこの島の港に船を泊めて、たくさんの観光客が島内へと進んでいった

で、この島に何があるかというと、鍾乳洞である。前述したが、ハロン湾のこの地形は、石灰岩の侵食でできたもの。万国共通、石灰質の地形のところには、鍾乳洞があるのである。このティエンクン鍾乳洞は、比較的大規模な鍾乳洞で、観光客向けに内部が整備されている。ハロン湾の島々には、まだ未開発のものも含めこうした鍾乳洞が多数あるそうだ。

ティエンクン鍾乳洞の中に入ると、鍾乳石でできた自然の彫刻が広がる。内部は考えていた以上に広い。きれいにライトアップされており幻想的な雰囲気

まさかベトナムの田舎で、本格的な鍾乳洞を見ることになるとは夢にも思っておらず、びっくり(事前の勉強不足)。足元は整備されているとはいえデコボコなので、上ばかり見ていると、何度か転びそうになってしまった

自然の造形にライトアップって、わざとらしい気がして、本来なら僕はあまり好きではない。だが、ここはかなり考えてライトアップされているらしく、実際に見た光景は決して不自然に感じなかった

僕は鍾乳洞には詳しくないし、大して行ったこともないのだが、少ない経験のうちでは、この鍾乳洞、かなり大規模な部類の気がする。観光向けに整備しているのは、ほんの触りの部分だけだろう

というわけで、鍾乳洞を出たら、そろそろ日帰りクルージングは終了の時間。ジャンク船でバイチャイの港に戻り、車に乗ってハノイへの帰路に着くことになった。ん~、たった4時間のクルージングじゃ、ちょっと物足りないような。やはり一泊のツアーを選択すべきだったかな。でも、日が暮れてから船の上で、ボーと何して過ごすんだろう。日が沈んだら、景色も見えないだろうし……、なんてことを考えながら、ハロン湾の光景にものすごーく後ろ髪を引かれつつ、ハロン湾を後にした。

さすがに、世界の景勝地、ハロン湾は、世界遺産の名に恥じない素晴らしい場所だった。ハロン湾を見るだけでも、ベトナムに行く価値は充分にある。さて、ハロン湾を見てしまうと、同じ地形が陸にそそり立つ、中国・桂林も見たくなってきた。もっか旅程を検討中です(笑)。

ハノイへの帰りの道中。きれいな夕焼けに出会った。旅先で見る夕焼けってのは、最後のプレゼントをもらったようでうれしいような、旅の終わりを感じてちょっと寂しいような、柄にもなくセンチな気分(死語?)になってしまう