今回の旅は、イギリスの首都ロンドンである。日本と同じ島国でありながら、長く世界の中心であり続けた国だけに、イギリスには世界遺産がたくさんある。今回はそのうち、ロンドン近郊の手軽に行ける見所を紹介しよう。

ロンドンは大きな都市であるが、意外と狭い。広大な土地に建物が点在するアメリカなどと違って、狭いエリアに比較的小さな建物が並んでいるので、歩いても散策するには最適な街だ。特に夏は、日本のように蒸し暑くなく、緑の木々も美しいので、散策していて本当に気持ちが良い。中でも特にオススメなのが、6月の最終週から7月第一週にかけてである。

なぜかというと、この季節のロンドンは、気候が良いうえに、セールの時期なので買い物も楽しいからである。そしてもう1つ忘れてならないのが、テニスの四大大会の1つ、ウィンブルドン選手権が開催されるからだ。これはもう、テニスファンも、そうでない人も必見すべき世界最高峰のテニスの祭典である。今回は、世界遺産を紹介する前に、ウィンブルドン選手権の楽しみ方をお伝えしよう。

ウィンブルドン選手権が開かれるウィンブルドンの街角。ウィンブルドンはロンドン郊外の小さな町。その町に年に一度、2週間だけ世界各国から数十万人の人が押し寄せる

ロンドン市内からウィンブルドン選手権の開かれるウィンブルドンへは、地下鉄が便利だ。ちなみに、ウィンブルドン駅もあるが、テニス観戦には1つ手前のサウスフィールド駅のほうが便利だ。サウスフィールドまでロンドン市内から約30分で到着するので、ウィンブルドンへ行くのはまったく問題ない。ただ、問題も少々ある。チケットの入手である。

ウィンブルドン選手権の前売り券は、半年ほど前に抽選で販売される。それを持っているならまったく問題ないが、僕はそんな先のことまで予定を立てる人間ではない。そもそも僕が「なんとか休みをとれそう! 」とロンドン行きを決めたのは、出発の10日前。だから、当然チケットも持たずに、格安航空券だけを取って、ロンドンまでやってきた。

そんな人がどうやってチケットを入手するのかというと、もちろん「並ぶ」のである。ロンドンの人たちは、よく並ぶ。何でもかんでも長い列を作る。その列を「キュー(Queue)」というらしい。で、ウィンブルドンのチケット入手のためにも、もちろん"キュー"するのである。

とにかくウィンブルドン観戦は早朝から出かけよう。朝7時にサウスフィールド駅に降り立った僕は、多くのテニス観戦らしき人たちの流れに従い、ウィンブルドン方面へとテクテク歩いていった。「朝、7時ならOKだろう」なんて僕の考えは甘かった。サウスフィールドから会場までは歩いて20分弱と聞いていたのだが、5分も歩くとキューの最後尾が見えてきた。どうやら、ここから並ぶらしい。結局チケットを買って会場内に入れたのは、なんと正午過ぎ、5時間も並んでしまった。

5時間並んでようやくチケットをゲット! もし真似するなら、厚手のジャケットを1枚用意しておいたほうがいい。イギリスの夏は、木陰に入ると、ものすごーく寒い

なぜ日本だと5分並ぶのも厭う僕が、5時間も並んでここまで来たかというと、ウィンブルドンが特別だからである。テニスをご存じの方ならおわかりかと思うが、まず、ここは世界最高峰を競うコートである。さらに、ウィンブルドンは、世界的に見ても珍しい「グラス(芝)」コートで行われる大会なのである。僕は(今の姿からは誰も信じないが)高校時代テニス部で、ボリス・ベッカーやステファン・エドバーグ、マルチナ・ナブラチロワ、シュティフィ・グラフらが芝のコートを駆け回る姿に大いに憧れたのである(でも、僕がやっていたのは軟式テニス)。

グラスコートで行われるウィンブルドン選手権。イギリスの爽やかな空気と緑の芝の上で繰り広げられる世界最高峰のテニスは、何時間観ていても飽きない

13番コートでは、日本の杉山愛選手がプレーしていた。写真のとおり、ものすごく間近でプレーを見ることができる

テレビでウィンブルドン選手権を見たことのある人なら、上の写真を見て「あれ? 」と思うかもしれない。僕が入手したのは「グランドチケット」と呼ばれる一番安いチケットである。実はウィンブルドン選手権の会場内には、テレビで写っているセンターコートやNo.1コートだけでなくNo.2、No.3……と20ものコートがあり、スタンドのないコートも多数存在する。センターコートやNo.1コートでプレーできるのはランキング上位の選手のみ。残りの試合は、他のコートで行われており、グランドチケットはそうしたちょっとマイナーなゲームを見るためのチケットなのだ。

ウィンブルドン選手権では20のコートを使って、男女シングルス/ダブルスだけでなく、ジュニアのゲームなども同時に行われており、それらをグルグルと歩きながら見て回ることができる

大きなスタンドのあるコートの脇には、3段ほどの小さなスタンドしかないコートもあり、そこでもゲームは行われている。こんな試合でもさすがに世界最高峰、観ていると結構楽しい

どうしてもセンターコートやNo.1コートのゲームを見たければ、ベスト8までなら当日券も発売されている。たもし、これらの当日券をゲットしたければ、一晩、あるいは二晩はキューするしかないらしい。もっとも、グランドチケットでもウィンブルドンは充分に満喫できる。たった2週間の選手権のために、1年間丹精込めて育てられたグラスコートの感触を自分の肌で感じるためには、ここに来るしかないのである。

実は別の日、偶然に偶然が重なり、No.1コートのチケットを購入することができた。やはり感慨もひとしおである

No.1コートでゲームをしていたモーレシモ選手。まさかこの選手が、数年後のウィンブルドンで優勝するとは、この時思いもしなかった

ちなみに2008年のウィンブルドン大会は6月23日~7月6日。もしロンドンに行かれる方はキューをして、世界のトップレベルの大会を観戦してみてはいかがだろうか。

というわけで、今回はここまで。次回はウェストミンスター宮殿にロンドン塔……とロンドン市内の世界遺産をたっぷりご紹介する。