前回は、世界遺産に指定されているフエの建造物群をご紹介した。翌朝、次の目的地へさっそく出発した。まず向かう先はベトナム第3の人口を誇る中部最大の都市、ダナンである。フエからダナンへは、バスやタクシーなどが一般的だが、僕は列車を利用してみた。ベトナムの列車は、南部ホーチミンシティから北部のハノイまでを2泊3日で結んでいる。さすがに、ずーっと列車に乗り続けるのは疲れるので、フエからダナンまで約2時間30分だけ、列車に乗ることにした。

朝、8時30分頃にフエ駅を出た列車は、11時過ぎにダナンに到着。さすがベトナム第3の都市だけあって、フエに比べると車が多い

ホーチミンシティの回でも説明したが、現在のベトナムでアオザイは一般的な服装ではなく、正装を意味する。着ているのは、アオザイが制服に指定された学校の高校生ぐらいだ

さて、ダナンに到着してちょっと早めのお昼ご飯。その後、タクシーに乗り込んで向かった先は……次の町だ。というのも、ダナンにはこれといった観光名所はないのである。だが、空港が近くにあるし、リゾートホテルの数も多い。だから、ダナンを観光拠点にするのも悪くない。ただ、僕は世界遺産の町・ホイアンで1泊したかったので、ダナンは通り過ぎることにした。

ホイアンはダナンから南に30kmほどの所にある古い港町。「ホイアンの古い町並み」として町全体が世界遺産に指定されている。たが、町全体といっても、町を端から端まで早足で歩けば、20分ほどで横断できる小さな小さな所だ。そして、その町並みは、フエ以上に中国風、というか、中国・雲南省あたりの町並みをそのまま移植したような光景が広がる。

古い中国のようなホイアンの町並み。このホイアンの港は、フエの王朝の外港として東南アジア貿易の拠点となった。ホイアンの市町地は、車の通行が禁止されているので、のんびりと町歩きを楽しめる

来遠橋は、日本人が建立した橋として知られる。日本の戦国時代から江戸初期にかけて、朱印船貿易でやってきた日本人によって、ホイアンには日本人町も形成されていた

30分5ドルで船をチャーターして、運河からホイアンの町を眺める。ベトナムの町はどこも、水が豊富で、水とともに生活している。ちなみに30分5ドルは、たぶんぼったくられている(笑)が、楽しかったのでOK

この人たち、この小舟の上で生活しているそうだ。まだまだベトナムの経済発展は、これから。でも、のびのびと生活している人たちを見ると、僕の生活のほうがよほど貧しいような気がする

ホイアンの町中には、こんな刺繍をしている工場がたくさんある。フエに比べて、観光地としての整備が進んでいるので、外国人観光客でも気軽に食事や買い物を楽しめる

夕暮れ時のホイアン。名物の提灯が幻想的な雰囲気を醸し出す。ちなみに、ホイアンは夜遊びには適さない。夜もしっかり遊びたければ(笑)、宿はダナンにとったほうがいいだろう

ホイアンに限らず、ベトナムは食べ物が抜群に美味しい。特にこのあたりは、南部の文化と北部の文化が入り交じっているので、両方の美味しいものを食べられる。ゆっくりと時間が進むホイアンの町を眺めながら、ブンと呼ばれる米から作る麺や春巻き、南国の甘くて美味しいフルーツを楽しみつつ、ホイアンの夜は更けていく。

さて、翌朝は最終目的地のミーソン聖域へ向かう。ミーソン聖域は7~13世紀頃に、この周辺を支配したチャンパ王国の遺跡である。1999年に世界遺産登録がなされている。ホイアンから車で1時間ほどかかるので、ミーソンまで行くには車をチャーターするか、ツアーに参加するのがいいだろう。僕は、あらかじめ日本語ガイドを手配しておいた。専属ガイド+専用車で1人40ドル(2人以上で催行)と少々高めだが、やはり遺跡はガイドを付けて、説明を聞きながら見て回るのが楽しい。

ホイアンから車で1時間ほど、内陸に入ったところにミーソン遺跡がある。この遺跡は13世紀以降、人々の記憶から忘れ去られており、20世紀初頭、フランス統治時代にフランス人の手で発見されるまで、ひっそりと山奥で埋もれていた遺跡だ。

ミーソン遺跡に到着したら、まずは遺跡入り口付近にある博物館でミーソン遺跡の変遷について勉強。ミーソン遺跡を築いたチャンパ王国は、中世インド国家である。だから、ミーソンの遺跡群はサンスクリットの遺跡。そして、ミーソンは、ヒンドゥー教シヴァ派の聖域ということになる(そうだ)。

博物館で展示されているミーソンの文字。サンスクリット文字の流れを汲んでいるそうだ

博物館を出ると、少し車で奥まで進み、そこから先は、この熱帯のジャングルの中を歩いて遺跡まで向かう。道は整備されているが、雨の多い地域なので、歩きやすい服装、靴で訪れよう

こうして10分ほど歩くと、突然視界が開け、遺跡が目の前に現れる。これは、なかなかすごい。ずっと森の中で眠っていた遺跡だけに、なんともいえない雰囲気。自然の中にひっそりとたたずむ遺跡は、さすがに世界遺産! 素晴らしいの一言だ。

姿を現したミーソン遺跡。何百年もの間、人知れず森の中で眠っていた遺跡は、独特の雰囲気を醸し出す

ミーソン遺跡は、現在も発掘、修復作業が続けられている。このあたりも、ベトナム戦争の爆撃で残念ながら、ほとんどが破壊されてしまったそうだ

ミーソン遺跡は、ヒンドゥー教の遺跡。同じ流れを汲む、タイ・ロップリーやスコータイ遺跡と似たところも多い。もちろん遺跡の中心となるのは、シヴァリンガである

熱帯のジャングルにたたずむ遺跡群は、本当に雰囲気がある。なお、形をとどめているのは、ミーソン遺跡のB地区と呼ばれるところのみ。その他は、まだ復興が進んでいない

(左)長い間、人知れず森の中にあったミーソン遺跡は、盗難などに合うこともなく、原型をとどめている。ただし、ベトナム戦争の爆撃を逃れた建物だけ、だが……(上)このとおり、ベトナム戦争で爆撃を受けて破壊されてしまっている。現在、ミーソン遺跡の整備は、日本のODAなどで進められている

2時間ほどミーソン遺跡を堪能した僕は、この後、ダナンまで戻り、ダナン空港からベトナム中部をあとにした。なお、今回は見ることができなかったが、「フエの王朝音楽」とフエから車で3時間ほど行ったところにある「フォンニャ・ケバン国立公園」も世界遺産に指定されている。こうした中部の世界遺産は、僕のように2泊3日か、3泊4日ほどですべてを回ることもできるし、1、2カ所ならば、ホーチミンシティやハノイ、あるいはタイ・バンコクや香港などの近隣諸国から、日帰りでも可能だ。

もっとも、まだ素朴さの残る東南アジアの田舎の雰囲気を満喫するなら、やはり数日かけたほうがいいだろう。ちなみに僕は、こののんびりしたペースにすっかり慣れ切ってしまい、帰国後、いつもペースに戻すのに苦労しているのだが(笑)。