この連載第11・12回で、ベトナム入門編としてホーチミンシティを紹介した。今回はいよいよ、ベトナムの世界遺産に向かう。ベトナムには6つの世界遺産がある。そのうち、1つは首都ハノイの近郊にあるハロン湾、そして残りの5つはベトナム中部地方に集まっている。今回は、ベトナム中部地方の世界遺産3つをまとめてお届けしよう。

ベトナム北部の中心が首都ハノイ。ベトナム第2の人口を誇る都市とはいえ、ホーチミンシティが約800万人に対して、ハノイの人口は350万人ほど。湖が多くてのんびりした町並みは、ホーチミンほど暑くもないので、散策が楽しい

ハノイから150kmほどのところにあるベトナム一の景勝地が、世界遺産のハロン湾。中国・桂林のような切り立つ山が海に沈み、1,900以上の島々を形成している。ハロン湾について詳しくは、また後日紹介したい

ベトナム中部へは、ホーチミンシティやハノイから飛行機を利用するのが手っ取り早い。料金は、片道60ドル程度。航空券は、日本から手配しておいてもいいし、ホリデーシーズンでなければ、前日でも現地の旅行会社でたいてい手配できる。ホーチミンシティ、ハノイ、どちらからでも1時間ほどでベトナム中部の小さな街、フエの空港に到着する。

早朝の飛行機で朝7時にフエ空港に到着した僕は、まずタクシーに乗ってフエ市街地に予約しておいたホテルへと向かった。ベトナム中部にはリゾート向けの大型ホテルがたくさんあるが、一泊100ドル以上と少々値が張る。一方で、ベトナムのちょっと大きな街ならば、部屋数は20~30と小規模ながら、一泊30ドル以下で泊まれる、きれいで快適なミニホテルがたくさんある。こうしたミニホテルのほうが、郊外のリゾートホテルよりも、街歩きするには都合がいいことも多い。そこで僕は、日本からインターネットのホテル予約サイトを使って、市街地にあるミニホテルを予約しておいた。

現在のフエの中心、新市街地はこんな感じ。のどかな田舎町だ。ベトナムでもこのあたりまで来ると、車はほとんど走っておらず、走っているのはバイクだけ。流しのタクシーを拾うのも苦労するので、移動はもっぱらバイクタクシー

フエは、1802年に成立した阮朝の都が置かれた古都である。フエは漢名を「順化」といい、漢名があることでもわかるように、阮朝の古い建造物は、その多くが中国の都を模している。このフエの古い建造物は「フエの建造物群」として世界遺産に指定されている。

さて、ホテルに荷物を置いた僕は、ホテルのレセプションにお願いして、車を夕方までチャーターした。フエの建造物群の中心となるのは、現在の市街地から川を挟んで対岸にある旧市街地の一角だが、その他多くの建造物は郊外に点在している。これらを歩いて見て回るには遠すぎるので、バイクや自転車をレンタルするのが楽しいらしい。だが、ベトナムの交通事情はあまり良くないので、ここは安全を期して、少々高価になるが車をチャーターした。高価といっても料金は、半日間、車と運転手をチャーターして35ドル。やはりエアコン付きの自動車は快適である。

まず向かった先は、フエの市街地から車で15分ほど行ったところにあるトゥドゥック帝廟。肌で感じる熱気、特有の蒸し暑さは東南アジアそのものなのだが、残っている建造物は、まるで中国である。常葉樹林が広がる東南アジアの山の中にひっそりとたたずむトゥドゥック帝廟に入ると、池に浮かぶ別荘風の建物が目に飛び込んでくる。

入り口で入場料(5万5,000ドン)を払い、トゥドゥック帝廟内に入ると、まず見えてくるのが池に浮かぶ別荘風の建物。池には蓮の葉が浮かんでいる。これでも充分趣があるが、蓮の花が咲く季節はさぞ見事なことだろう

池の脇にある階段を上って、トゥドゥック帝廟の奥へと進んでいくと、そこは中国の古都のよう。ベトナムの中部から北部の建物は、中国の建物と本当によく似ている

屋根に施された装飾もやはり中華風。静かな山の中にある古い建物を眺めていると、日本の慌ただしい生活で疲れた心が癒される

さらに奥のほうに入ると、まだ整備が進んでいないところもある。きれいに整備された所を見て回るのもいいが、こうした光景を見ると冒険心がくすぐられる

小1時間トゥドゥック帝廟を散策し、次に向かった先は、カイディエン帝廟だ。名前を見て想像がつくと思うが、これら郊外の帝廟は、すべて阮朝の皇帝を祭る施設である。山間の平地に作られたトゥドゥック帝廟と違い、カイディエン帝廟は山の中腹に立てられており奥へ進むには、階段を上がっていく。入場料はトゥドゥック帝廟と同じ5万5,000ドン。それにしても、どこかへ行くたびに5万5,000ドンを払うと、実は結構な金額になっている。日本でも有名なフォー(ベトナム麺)が一杯1万5,000ドンで食べられるのだから、入場料はかなり高額と言えるだろう。

カイディエン帝廟に到着。カイディエン帝廟は、山の中腹から山上に向かって建物が並んでいる。基本は中華風だが、フランス文化の影響も受けており、一部バロック様式が取り入れられている

中国風に皇帝に仕える兵馬の石像が並んでいる。一方でカイディエン帝はフランスとの親交が厚かったそうで、廟の所々にフランスの影響を見てとれる

中華風といえば中華風だし、ヨーロッパ風といえばそう見えなくもない。廟の上のほうまで上がると、山の上から見下ろす形になり、また風情がある

さて、次に向かった先はミンマン帝廟である。フエの建造物群の中でもっとも美しいとされる帝廟だ。もちろん入場料は5万5,000ドン。内部は、やはり遠く中国の王宮に倣った構造だ。奥に向かってまっすぐに続く通路、その突き当たりには建物があり、またその奥には通路、その奥に建物……と続く。中国の古都や沖縄の首里城などを見たことがある人なら、お馴染みの光景が広がっている。

(左)まだまだ観光客が少ないフエの建造物群は、のんびり散策するのが気持ち良い。ただし、熱帯地方特有の蒸し暑さなので、水分補給をお忘れなく(上)完ぺきに計算しつくされた造園。なお、このあたりの建物、実はベトナム戦争で戦火に遭い、その多くが焼失している。そのため、現在も修復作業が続けられている

この写真だけ見て、ベトナムだとわかる人は少ないと思われる。これだけの立派な建造物を次々と造ったフエの皇帝は、かなりの力があったのだろう

このあたりの池や湖は、熱帯地方だけに濁った水が多いのだが、なぜかここだけは水が澄み切っていた。なんとなく神秘的な雰囲気

さて、最後に王宮である。ここも入場料は5万5,000ドン。これでベトナム人の数週間分の昼食代を払ったことになる。ま、それはさておき、王宮はフエでもっとも有名な建造物だ。北京の故宮を小さくした、ミニ故宮ともいうべき建物。入り口からして故宮そっくりだ。

王宮の入り口の城門。規模は小さいが、形は北京の故宮にそっくり。沖縄の首里城などもそうだが、この時代の支配者がいかに中国文化に憧れていたかがわかる

城門を入ると、故宮そっくりの建物が次々と現れる。ただ、堀や川がある分だけ、なんとなく落ち着いた雰囲気だ

実は奥のほうはまだ未整備。このあたりはベトナム戦争の激戦区だけに、一度は焼け野原になっている。今も復興作業が続けられている

城門には上ることができる。そういえば、北京の故宮正門にあたる天安門も同様だ。建物をよく見ると、そこかしこにベトナム戦争で受けた傷跡が残る

このように、東南アジアの静かな田舎町にたたずむフエの建造物群を散策すると、このあたりで発展した文化の華やかさとともにこのあたりが受けた侵略の歴史に触れることができる。フエの人口は35万人と、ベトナム中部としては大きな街だが、時間の進み方はのんびりとしている。ホーチミンシティやハノイの喧騒から離れて過ごすにはとてもいいところだ。次回は、ベトナム中部最大の都市、ダナンから30kmほどにある世界遺産の街、ホイアンについてお届けする。

フエあたりは、ベトナム南部と北部の文化が入り交じる中間点。ちょうど亜熱帯から熱帯へと気候も変わる地域

新市街地から川の向こうの旧市街地を望む。ちょうど夕暮れ時で空が真っ赤に染まっていた