ホーチミンから日帰りで行ける郊外の観光ポイント
さて、ホーチミンから日帰りで行ける郊外の観光ポイント、1つ目の行き先はメコンデルタである。はるか中国に源流を持ち、5カ国を流れる大河、メコン川。ホーチミンから車で2時間ほど走ったところにメコン川のデルタ(三角州)地帯がある。そこがメコンデルタだ。河川と水路が複雑に入り組んでいるこの湿地帯は、昔も今も穀倉地帯として知られている。そして、メコンデルタの入り口とも言うべき街、ミトーからボートに乗ってメコン川の中にある島へ行くことができる。こういったクルーズは、ホーチミンから日帰りが可能なうえ、ホーチミンとは違った南ベトナムの大自然を楽しめるとあって人気がある。
(上)小さな島の中を歩いて移動する。島内は観光客用に整備されており、土産物屋以外、取り立てて見るものもないが、ジャングルの中を歩いているような雰囲気で結構楽しい(右)土産物店で、ハチミツのお茶やフルーツを試食。この日は35度を超える暑さだったが、暑いハチミツ茶が疲れをいやしてくれる |
島内の小さな川を小さな手漕ぎボートで移動。奥の女性がかぶっている傘を、乗客にも貸してくれた |
植物がうっそうと生い茂る小川をさっそうと小舟で突き進む。ゆったり優雅に、と思っていたら、これがかなり速い。しかも狭いところで他の舟とガンガンぶつかりながら進むので、結構怖い |
(上)メコン川でとれるエレファントフィッシュ。薄っぺらい魚をフライにして、生春巻きの具にして食べる。素朴な料理だが、味はなかなかのもの(左)ベトナムの人はカメラを向けると、なぜか必ずカメラ目線で応えてくれる |
こんな感じでメコンデルタは、雄大な自然を楽しむことができる。そして、メコン川の恵みを活かして生活していた南ベトナムの人々の生活を垣間見ることもできるのである。だがもう1カ所、ホーチミンに来たら是非とも訪れてほしいところがある。それが「クチ」である。
クチは、ホーチミンから西北70kmほどにあり、ベトナム戦争当時、「鉄の三角地帯」といわれた解放戦線の根拠地である。ここには、ベトコンやクチの住民が掘ったトンネルがあり、現在も保存されている。トンネルは、小さなクワやザルなどを使って掘られたもので、その多くは人一人が這いつくばってやっと通れるくらいの広さしかない。総面積4,200平方メートルの土地に何層にもわたって掘られたトンネルは、総延長250kmにも及ぶ。この小さなトンネルを使って、神出鬼没のベトコンゲリラが、戦力で圧倒的に勝る米軍を退けた土地として知られている。
クチトンネルにはベトナム戦争当時の住居などが再現されており、戦時中の生活の一部が伝わってくる |
ベトコンゲリラなどが利用したサンダルをここでは再現している。ジャングルを走り回れるように、タイヤの廃材を利用して丈夫なサンダルを作ったそうだ |
(上)当時も今も、このクチ近辺の名物がベトナムの「ライスペーパー」。川や海の産物と野菜をライスペーパーで包んだ生春巻きはとても美味しい。もっとも現地の生ものは少々刺激的なので、観光客向けの安全そうなお店で食べたほうが無難(右)クチトンネルは軍が管理している。写真はクチトンネルの受け付けの女性。ここでもカメラ目線(笑) |
現在、クチあたりはゴムの木やランなどの栽培地になっている。建物の奥に見えるのは、すべてゴムの木だ。ホーチミンとはまったく雰囲気の異なるのどかな田園風景。30数年前にここで激戦が繰り広げられていたとは思えない |
ベトナム戦争の終結は1975年。僕はまだ2歳である。クチトンネル内で聞いたベトナム戦争の解説は、少々ベトナム寄り過ぎるきらいはあった。だが、ベトナム人にとってベトナム戦争はまだまだ決して過去の出来事ではなく、多くの人々の心にキズを残す最近の出来事である。ホーチミンの街中で出会ったおじさんがこんなことを言っていた。
「ベトナム戦争の時、私は子どもでしたが、多くの人が死んでいったことは今でも覚えています。そしてベトナム戦争の以前、私の両親が生まれた頃、ベトナムに侵略した国は日本です。ベトナムはまだまだこうした戦争の歴史が、人々の心に残っています。でも、それはあなたたち若い人とは無関係の過去のことです。また、ベトナムに来てください。ベトナムを好きになってください」
というわけで、今回のホーチミンの旅はお終い。発展途上でまだまだ不便を感じることもあるが、成長している国ならではの活気に満ちあふれ、また日本が無関係でないアジアの歴史にも触れられて、とても意義深い旅だった。ホーチミン近郊には世界遺産はない。だが、世界遺産と同様に残さなければいけないものが世界にはいろいろあるんだなと感じたので、ホーチミンとその近郊を僕の「私的世界遺産」に指定した次第である。