ベトナム一の経済都市、ホーチミン

ベトナムには北部のハロン湾や中部の遺跡群など、いくつかの世界遺産がある。そのベトナムは、これまで本連載で紹介したタイ、中国と比べても、まだまだ経済的には発展途上にある国だ。だが近年、急成長するベトナム経済は新たなビジネス相手として注目され、ベトナムまで証券取引の口座を開設するツアーといったものも組まれるほど関心を集めている。そこで今回は、ベトナム一の経済都市、ホーチミンシティをベトナム入門編としてお伝えしよう。

ベトナムの首都は北部にあるハノイだ。だが、ベトナム経済の拠点となるのは、南部のホーチミンである。都市の人口もハノイよりホーチミンの方が圧倒的に多い。それを反映してか、日本からの直行便も首都ハノイよりも、ホーチミンシティ行きのほうが多く、人日本から直行便なら4~6時間程度、香港のちょっと先、バンコクの手前といった位置関係になる。

ベトナムは東南アジアの国であるが、タイなどの他の東南アジア諸国を思い浮かべてホーチミンへ行くと、想像とずいぶん違うことに驚くだろう。ベトナムは長く中国の支配下にあり、19世紀にはフランスが統治、太平洋戦争では日本に占領され、さらにベトナム戦争ではアメリカ軍の統治下に置かれるという、複雑な歴史を持つ国だ。中でもホーチミンシティ、旧名サイゴンは、ベトナム戦争当時、南ベトナムの首都として米軍の本隊が置かれた街である。

ホーチミン観光の中心にもなる人民委員会。こうした風景を見ていると、東南アジアにいることを忘れてしまいそう

ホーチミンの中心あたりは、フランス統治時代のコロニアル様式の建物が多く残っており、ホテルなどに利用されている

ホーチミンでの宿泊先は、上の写真にある人民委員会とサイゴン川を挟んだ地域がいいだろう。ここには、外国人買い物客に人気のドンコイ通りがあり、両替所などもあるので観光でもビジネスでも、外国人には非常に便利なところ。ホーチミン行きのツアーの多くも、このあたりのホテルが指定されている。

ドンコイ通りは、雑貨屋さんなどが立ち並び、買い物には非常に便利。僕はここで、食器や小物など普段使わないものまで(笑)、山ほど買ってしまった

ベトナム女性といえばアオザイ。もっとも、現在、アオザイを着ているのは土産物屋やレストランの従業員と高校生ぐらい。高校生の制服はアオザイらしい。普通の人にとっては、特別な時に着る正装というから、日本の着物と同じようなイメージだろう

さて、ホーチミン観光である。ツアーなどに参加するならいいが、自分の足でと考えるとなかなか骨が折れる。距離的には頑張れば歩いて回れる所に観光ポイントは集まっているが、ここは東南アジアである。強烈に暑い。それなら電車かバスを、と考えてもホーチミン市内を回る電車はない。バスもたまに見かけるが、ほとんど走っていない。というのも、ホーチミンではほとんどの人がバイクを持っている。一家に1台どころか、1人に1台バイクを持っているので、公共交通機関はほとんど発達していないのである。

とにかく道路いっぱいにバイクが走っている。車よりも歩行者よりも、ここではバイク優先である。日本の感覚で歩いていると、大けがをしそうだ。実際、僕はバイクに引っかけて、デジカメを壊してしまった……。だから、今回の写真は一部フィルムで撮っている

ホーチミン市内では、ヘルメットは義務づけられていない。僕が聞いたときは、法律上、大人2人、子ども3人の計5人までは1台のバイクに乗ってもいいとのことだった。というわけで、このグループも決して交通法規に違反しているわけではないらしい。ちなみに、郊外に行くとヘルメットの着用が義務づけられている

というわけで、フリーの旅行者にとって、もっとも頼りになるのがタクシーである。ホーチミンは歴史的背景からか、観光客が多いからか、かなり片言ではあるものの英語のわかる運転手が多い。なので、ガイドブック片手にタクシーに乗れば、3回に2回ぐらいはちゃんと目的地に着くことができる。ただし、かなり"ぼったくり"が多い。もともとの料金が安いので、僕は途中から「ぼったくられても、この程度」と諦めることにしたが、神経質な方は、かなりいらいらすることだろう。

ぼったくりについて言うと、ベトナムといえば「ぼったくり」だ。いや、これは正確ではない。実際には、ベトナム人は「無類の交渉好き」なのだ(かなり独断と偏見であるが)。だから、どんな物やサービスでも言い値で買った際には「ぼったくり」だといえる(ものすごく独断と偏見であるが)。その交渉をややこしくするのが、ベトナムの通貨だ。

ホーチミン市内では、ベトナム通貨「ドン」に加えて、米ドルも広く流通している。そのため、旅行者なら米ドルを持っていけば、ホーチミン市内で困ることはない。なお、海外旅行に慣れている人の中には、外貨を持たず現地のATMで引き出している人も多いだろうが、これはオススメできない。というのも、ホーチミン市内のATMでひき出せるのは、ほとんどベトナムドンのみ。これが困るのである。

1ドンは約0.007円、1円は約150ドンである。ということは、100円は約1万5,000ドンで、1万円は約150万ドンである。で、ホーチミン市内のタクシーの初乗りは3万ドン程度。ここまでなら、まだ何とか理解できる。だが、ホテルなどは、米ドルのほうが便利なので米ドルも財布に混在することになる。こうなると、タクシーで3万ドンかかった時に、米ドルしか持ち合わせていなければ何ドル払えばいいのか。もうこの計算は、30度を軽く超えるベトナムで考えられる限界を超えている(笑)。で、ついつい5ドルぐらい払ってしまうのである。まあ、5ドルなら600円ぐらい。あんなに走って東京の初乗りより安い、とか思っていると、実は2倍近くぼったくられている計算だ。

と、否定的なことばかり書いているが、こんなやり取りが実は楽しいのである。ベトナムの人は、同じ東南アジアでもタイと違って(笑)朝から働いているので、涼しいうちにホーチミン観光に繰り出そう。ドンコイ通りあたりのホテルからまずは人民委員会のほうに向かい、人民委員会の脇の道を歩いていくと、見えてくるのが聖母マリア教会(サイゴン大教会)と中央郵便局である。

どーんとそびえ立つ聖母マリア教会。ちなみに、ホーチミン市内にはいくつかの教会があるが、ベトナム人のほとんどは仏教徒。教会はフランス統治時代の名残だろう

ミサなど特別な式典がなければ、教会内を見学することもできる。荘厳な見た目とは裏腹に、東南アジアらしいアットホームな雰囲気。牧師(らしき人)が気さくに話しかけてくれた

聖母マリア教会の横にある中央郵便局。フランス統治時代、19世紀の末頃の建築で文化財として保護されているが、現役の郵便局として利用されている

中央郵便局の内部はアーチ状になっていてとても美しい。お土産など買い過ぎて、日本に国際郵便で送るなら、ここから送ることになる。郵便局に用事がなくても、中は結構涼しいのでちょっと休憩するのに便利なところ

聖母マリア教会を後にした僕は、歴史博物館へと向かった。タクシーで約10分。1万5,000ドンぐらいで、歴史博物館に到着した。歴史博物館の入場料は3万ドンである。タクシーで持っていたドンを使い切っていたので、2ドル払って博物館の入場券を購入。窓口では、親切なおばさんがチケットを買うために色々と世話を焼いてくれ、なんとミネラルウォーターまでいただいた。料金は1ドル……。おいおい、なぜチケットを買うためにおばさんにまでお金を払う。「無償のやさしさ」なんてこの国で期待してはいけないのだろう。さて、ここで問題です。いったい僕は、この時点でいったいいくら払う必要のないお金をぼったくられたのでしょう(笑)。

ベトナムの歴史、少数民族の文化などが紹介されている歴史博物館。親切(?)なおばさんの手を借りなくてもチケットぐらい買えるし、ミネラルウォーター(500ml)も自分で売店で買えば、5,000ドンぐらいで買える

歴史博物館ではベトナムの歴史に加えて、モン族などベトナム少数民族の文化を垣間見ることができる。ベトナムが初めてならとりあえず見ておけば、その後の旅が楽しくなることウケアイ

ここで注意事項を1つ。ベトナムは社会主義国ということで、博物館など多くの施設は国営だ。日本でもベトナムでもお役所はしっかりお昼休みをとる。というわけで、11時から13時ぐらいまでは入場できない施設が多い。僕は見事に歴史博物館でお昼休みに当たってしまったので、ちょっと歴史博物館の近辺を散策した。

歴史博物館の向かいには、ベトナム戦争で実際に使われた戦車や戦闘機などが展示されている

歴史博物館は動物園の中にある。時間を潰すために動物園をうろうろしてみたが、思いのほか楽しい。現地の人たちがのんびり休息しているので、ホーチミンの生活の一端を見ることができる

このように、ホーチミン市内は、タクシーで移動するのがもっとも便利なのである。少々遠回りしたり、料金が高かったりしてもご愛嬌。あまり細かいことは気にしないほうが精神衛生上いいだろう(笑)。ただし、ものすごーくぼったくられそうになった時は、大声を出してお巡りさんを呼ぼう。ホーチミン市内は、そこかしこにお巡りさんがいるので、探すのは難しくない。ちなみに、ホーチミン市内はスリが非常に多い。カバンはしっかり自分で持つようにしないと、一瞬で持ち去られる。

南ベトナム政権時代の大統領官邸が「統一会堂」から見たレユアン通り。1975年4月30日に解放軍がこの通りを戦車で行進して大統領官邸へ無血入城を果たし、事実上ベトナム戦争が終結した

街中の公園は、地元の人々が集う憩いの場。ベトナムでは未婚の男女が夜間同じ建物にいることを禁じているので、夜にはカップルがたくさんバイクに乗って公園に集まる

ディンティエンホアン通りの94番地にある「Thuy94」というローカルなカニ料理専門店。ここのメニューはカニずくし。特に、ソフトシェルクラブのフライが絶品。しかも、驚くほど安い。なお、付け合わせの生野菜は食べないほうが無難

ベトナムで買い物といえば、ここ「ベンタン市場」。約1,500もの店が軒を連ねている。雑貨から小物、洋服に食料品となんでも揃う

とりあえず言い値の3分の1から交渉開始。米ドルでもドンでも買い物できる。「それ15万ドン」「ドルで買いたいんだけど」「ドルなら12ドル」「それは計算おかしいだろう?」「だったら2つで20ドル」「あ、それなら得かも」。そんなやり取りが続くうちに、金銭感覚が麻痺する

このように、ベトナム最大の経済都市とはいえ、ホーチミンはまだまだ発展途上だけに、ほのぼのとした中にも活気があり、ちょっと日本では味わえない雰囲気を楽しめる。だが、せっかくのベトナムなので、買い物と博物館以外の楽しみも欲しいところだ。そこで次回は、日帰りで行ける郊外の観光ポイント2つほどを紹介しよう。なお、両者とも、バイクやタクシーを雇って自力で行くことも可能だが、低価格の現地ツアーがたくさんあるので、日本から手配してもいいし、ホテルなどでもツアーをすぐに手配できる。これらを利用したほうが楽だし、価格もそう高くない。その2つとはどこか……。次回のコラムにてたっぷりとお伝えする。