家族が集まるリビングは、片づけの悩みが尽きない場所ですね。できあがった料理を運びたいのに、ダイニングテーブルに広がった宿題が邪魔だったり、洗濯物を干すためにベランダに出たいのに、床に散らかったおもちゃを踏んづけて悲鳴を上げたり、という二次被害まで起こってしまうのがつらいところ。
こんなふうにカオスに陥りやすいのも、リビングが他の部屋と比べて圧倒的に広くて、しかも区切りのない空間だからです。「部屋をどう使うのか」の自由度が高いのも、なかなか厄介なことです。
整理収納のサポートで訪問して、通されたリビングで「これは……日々の片づけがめんどくさいはずだよ!? 」と感じることはしょっちゅうです。わたしを迎えるために一生懸命片づけてくださったけれど、普段はちょっと油断するとすぐに散らかるだろうなとすぐにわかります。
散らかる原因は決まっていて、「戻すのがめんどくさい」から。
そのような状況で、依頼者さまからは「どうすれば、家族に片づけさせられますか? 」とよく尋ねられますが、たかが3時間訪問しただけのわたしに「家族の片づけ習慣をごろっと変える」チカラはありません。
代わりに、「家族が気づいていない片づけのめんどくささを解消して、使ったモノを自然に戻せるしくみに変える」という提案をしています。今日はそのヒントをみなさんにも共有しますね。
リビングで散らかる筆頭のキッズスペース。ここに大事なポイントがぎゅっと詰まっています。
ヒント1:子どものためのおもちゃコーナーが子どもの居場所になりきれていないかも
小さな子どもたちも、幼稚園/保育園では日常的に「遊んだ後は片づけ」をやっています。だから、本当は家でもできるはず。できないとしたら、それは何かしら能力のキャパを超えた環境のせいです。しかも、その子のためのエリアなのに「ここは自分のための場所だ」と本人が認識できないキッズスペース、結構多いんですよ。
もっと遊びやすくて、大事にしたい場所になるよう修正していきましょう。ポイントは3つです。
■子どもが「今使っているモノ」だけを厳選する
まずは、キッズスペースに出ているおもちゃをこんなふうに分けていきましょう。
[1]使うおもちゃ…今いちばんお気に入りで、夢中になって遊んでいるおもちゃ
[2]使わないおもちゃ…もう要らないので手放すおもちゃ
[3]迷うおもちゃ…手放す前に一定期間の冷却期間をおいておくおもちゃ
[4]バトンタッチ待ちのおもちゃ…下の子のために保存しておくおもちゃ
重要なのは[1]。おもちゃは「量より質」で、たくさんあることより、お気に入りに没頭できる環境が大事です。なので、選び抜いた[1]を残すために分けていきます。
ブロックなど細かいモノは、出しておく量を絞ればOK。楽しく遊べて、片づけられるくらいのちょうどいい量に間引いてください。いくつか種類があるなら、いいモノをちょっとずつ「幕の内弁当」のイメージで。そうすれば、ダイナミックに、カゴをザーッとひっくり返されても笑って見守れますからね。
[3]冷却期間をおくおもちゃ、[4]バトンタッチ待ちのおもちゃは、紙袋や箱にまとめて納戸あたりに逃しておきましょう。
ちなみに、この「分ける」作業は親御さんがやってあげてくださいね。子どもたちは集中力がそこまでありませんし、何のために、何をしようとしているのかの理解も薄いので、一緒にやろうとしても途中で飽きて遊び始める可能性大です。
■遊び場は飛び地を作らない
キッズスペースは「広さよりまとまり感」。おもちゃ置き場、ミニキッチン、ぬいぐるみ入れ、絵本収納などがバラバラに置かれていたり、飛び地になっていたりするなら、1箇所に集めてください。多少狭くても問題なし。自分だけの基地のようなワクワクを感じられる方が喜ばれます。
そして、リビングのどこにまとめるか。場所も重要ですよ。
・遊ぶ場所の近くに固める…すぐに広げられて、遊び終わったらすぐに戻せるのが理想。
・親が見守りやすい場所に固める…お子さんの「見てみて~! 」にすぐ視線を送れるのが理想。
・ごちゃごちゃが見えにくい角度で固める…大人がくつろぎたいときに、おもちゃ置き場が視線の正面に来ないのが理想。
これらを踏まえると、ソファーの脇あたりが“ベスポジ”になるリビングが多いようです。テレビを見るときには大人の視界に入らないけれど、子どもはすぐそばで遊んでいるような位置関係ですね。
■収納は子どもの身体感覚に合わせる
子どもの場所なのだから、子どもが使いやすくするのは当たり前。しかしながら、子ども仕様になっていないキッズスペース、結構いろんなおうちで見かけますよ。一度、お子さんの目線の高さでチェックしてみてください。
<見えない→見えるようにする>
・ケースを棚の半分の高さにすると、出さなくても中身が見え、手も届く
・本人が描いた絵や、お気に入りキャラクターのポスターは子どもの目線の高さに貼り直す
<戻す動作が複雑→シンプルにする>
・シリーズごとに細かく袋詰め/箱詰めするのをやめ、「ごっこ遊び系」「おめかし系」のような粗いまとまりにする
・毎日使うおもちゃのケースはフタをしない
・お気に入りの大型おもちゃは箱にしまわず置くだけでOKにする
モノを厳選して、場所を固めて、本人の身体に合ったしくみにする。これで子どもは「自分のための場所だ! 」と心から思えるようになります。そうすると、大事に使おうという意識が芽生え、素直に片づけてくれるのです。
ヒント2:巻き込みのコミュニケーションで出しっぱなしを回避
自然に片づけられるキッズスペースのしくみづくりは、大人の個人スペースにも当てはまるのですが、リビングの共有スペースとなると、スキルも意識もレベルがバラバラの家族で同じルールを共有するのが大変。ここは、より片づけが苦手なほうにしくみを合わせるのが大事です。
■使う場所と戻す場所を近づける
勉強やテレワークで使ったモノが、ダイニングテーブルに出しっぱなしになりがちなら、テーブルのすぐ脇に書類やPCを戻す棚を設置するのがおすすめ。戻すハードルが下がって、置きっぱなしが減らせます。また、リビングダイニングでメイクをする人の場合、普段使うメイク用品セットをひとまとめにしてダイニングに置いておくのもアリ。棚に個人ボックスを設置して、責任もって管理してもらうのがベストですね。
また、カバンやコートの置きっぱなしは、自室まで戻すのがめんどくさいと起こりがちなので、リビング周辺の壁にフックを増設して、定位置(もしくは中継基地)にするとラクに戻せるようになります。
■決める過程に巻き込む
棚や個人ボックスを設置しても、コート掛けのフックを増設しても、そこにさえ戻してくれない。ボックスがいっぱいになっても、一向に整理しない。家族の協力が得られないというお悩みもよく聞きます。
それはおそらく、しくみが他人事になっているせいです。片づけのしくみを自分事にするのは、本人の自己決定感。決める過程に上手に家族を巻き込むのはかなり重要なポイントと言えます。
「あなたの●●の置き場を作りたいんだけど、そっちとこっち、場所はどっちが戻しやすそう? 」「テレワーク用の個人ボックスを置くとしたら、これとこれ、どっちの大きさがいい? 」こんなふうにこまめに意思確認していくとよいでしょう。
ヒント3:家族を「邪魔」と感じない工夫
そもそもリビングが完璧に片づいていないと即、誰かに不便なことが起こるのだとしたら、それは窮屈な話。家族の居場所と生活の通り道が重なっていないか確認して、問題があれば家具の位置を変えましょう。間取り図のコピーに書き込んでみると問題が見えてきます。
<居場所…間取り図に大まかな範囲を書き込む>
・くつろぐ場所
・食事する場所:
・遊ぶ場所:
・勉強する場所:
・仕事する場所:
・その他:
<通り道…間取り図に矢印を書き込む>
・隣の部屋に移動する
・必要なモノを取りに移動する
・家事動線
居場所(囲み)と通り道(矢印)がぶつかっていると、道をふさがれた人は、そこにいる家族やモノを「邪魔だ」と感じます。特にぶつかりやすいのは、「くつろぐ場所/遊ぶ場所」と「家事動線」です。洗濯物を干したり取り込んだり、食事の配膳や後片づけをしたりするときに、ゴロンと寝転がってテレビを見ているパートナーや、広がったおもちゃにイラっとしてしまうアレですね。
矢印と囲みが住み分けられるように、家具の場所を変えてみてください。それだけで不思議と、リビングで過ごしているだけの家族にイラっとしにくくなるはず。
さて、今回は「居心地の良さが続くリビング」について解説しました。いかがでしたか?
収納用品の導入や家具配置の変更だけでうまくいくものではなく、その過程で家族の「自分の居場所、という感覚」「自分で決めた、という感覚」を尊重してあげられるかどうかがカギと言えます。なかなかエネルギーのいる作業ですが、うまく行った時の喜びもひとしおなので、ぜひチャレンジしてみてください。
次回はクローゼット収納について解説します。
新刊『家じゅうの「めんどくさい」をなくす。いちばんシンプルな「片づけ」の方法』
(ダイヤモンド社刊/1,430円)散らかる原因の9割は、「めんどくさい」が放置された結果! 必要なのは、努力ではなくて「正しいしくみ」です。6000軒を片づけた“予約の取れない家政婦”が、「めんどくさい」の一番簡単ななくし方を教えます! いままで何度もリバウンドしていた人、ズボラな人にこそ向いている、一生、家事がラクになる本です。
家族の片づけコンサルタント:sea(しー)
大学卒業後に始めた家事代行サービスの仕事にどっぷりはまり、20年以上にわたって個人宅の片づけや掃除を行ってきた。いままでに片づけた家は6000軒以上。家事代行マッチングサービス 「タスカジ」では「seaさんが片づけてくれると、なぜか家族の仲までよくなる」と口コミで評判になり、「予約の取れない家政婦」と呼ばれるようになった。メディア出演や執筆、片づけ講座の企画・開発など幅広く活動を行う。