こんにちは。産業保健WEBメディア「サンポナビ」編集長の飯塚です。今年は新型コロナの流行もあり、例年よりもストレスを身近に感じることが多かったのではないでしょうか。今回は、メンタルヘルスの専門家にインタビューを行い、「気を付けたい“うつ”のサイン」についてお話を聞きました。

  • 産業保健師 本田和樹さん

    産業保健師 本田和樹さん

〈お話を聞いた方〉
株式会社エムステージ 産業保健事業部 
産業保健師 : 本田 和樹(ほんだ・かずき)
看護師として急性期精神病院で5年間勤務したのち、2020年4月エムステージに入社。産業保健師の業務委託事業立ち上げに携わる。労働と精神衛生についての啓蒙活動、寄稿なども行う。

Q : うつ症状のサインにはどのようなものがありますか?

はじめに、「うつ」という言葉をよく耳にしますが、うつには「うつ状態」と「うつ病」という言葉があり、二つは異なります。「うつ状態」は一時的に憂鬱になり気分が落ち込んだ状態。一方、「うつ病」はうつ状態が長期化し、重症化すると脳と心のエネルギーが低下している病的な状態のことを指します。

仕事でのミスや疲れ、家族関係などの些細な出来事で、気分がなんとなく落ち込んでいる、食欲がない、夜に眠れない、仕事に集中ができない、何をしてもつまらないなど不安定な日々を過ごすことがよくあると思います。ほとんどの人は数日も経つと回復して、また元気に頑張ろうと思える力を持っています。 ところが、いつまでも気持ちが沈んだままで復活しないことがあります。このような状態が黄色信号であり、これが2週間以上も続くような場合は赤信号となります。

Q : うつ症状によって、生活習慣にはどのような変化が起こりますか?

気持ちが落ち込み不安定になり、生活習慣が段々と乱れていきます。まず朝は、起きる力が湧かなく横になってしまう人が多いです。また、仕事に行く気力もなくなり欠勤・遅刻になってしまう方もいます。そして、食欲も湧かなくなり、朝食を抜くことが多くなり、その後も身体は疲れやすく、動かない分だけ食事量が減っていってしまいます。(食事、特に朝食を抜くとうつ病のリスクが高まる研究もあります)。

次に日中は、人に会いたくないという気持ちの高まりから人とのコミュニケーションは消極的になり、家に引きこもってしまいます。最後に夜は、寝つきが悪く、寝ても熟眠感がなく、体はだるいまま朝を迎えてしまいます。一度生活習慣が乱れてしまうと負のループに陥り、抜け出すのが困難になってしまうのがうつ病の怖いところです。

Q:体と心には、どのようなサインが表れますか?

体のサインとしては、睡眠障害や易疲労感(疲れやすさ)、倦怠感、首や肩のこり、頭重感、頭痛などが考えられます。また、心のサインとしては、意欲・興味の減退、食欲低下、集中力の低下、仕事パフォーマンスの低下、不安・悲しみなどネガティブな感情、人と接することへのおっくうさなどが考えられます。

しかし、自分ではあまりこのようなサインに気付きにくいものです。なので、周囲の人はそれらの症状に加え、表情や言動の変化、遅刻や欠勤が多くなったなどに気付いてあげ、励まさず、否定的な言葉を決してかけず、「お疲れ様」「頑張ったね」と声をかける必要があります。

Q : うつ症状のサインが強くなると、次にどのようなことが起こりますか?

身体の不調や気持ちの不安定さが強い場合、「死にたい」や「消えてなくなりたい」といったような言動がみられ、自分の体を自ら傷つける自傷行為に至ることがあります。

また、身の回りの整理を始めたり、飲酒量が急激に増えたりした場合は自殺につながるケースもあります。首つり、リストカット、大量服薬など様々な手段により、実際に自殺を企てることを行います。

ここで注意なのが、自殺はうつ状態ではいつでも起こりうるものですが、特にうつ病から回復する時期に自殺をしてしまう危険性が高くなります。それはうつ状態の回復とともに行動意欲が高まり、自殺への行動につながりやすくなるためです。家族や職場など周囲の人は引き続き注意が必要になっていきます。

新型コロナとは長く付き合うことも予想されますので、自分のストレス状態について知っておくことが大切です。また、うつ症状があり、不安を感じる場合には必ず専門医を受診するようにしてください。