戸建て住宅は主として2・3階建ての小規模の建物で、構造も鉄筋コンクリートよりは木造や鉄骨造のものが多いのに対して、マンションは鉄筋コンクリート造で堅牢というイメージです。しかしマンションと戸建住宅の防災対策にはさほど大きな違いはなく、自然災害に関しては、地域の特性、その敷地の特性の方が大きく関与するかもしれません。

  • マンションと戸建で防犯対策は違う?

    マンションと戸建で防犯対策は違う?

それでもあえてそれぞれの防災対策について考えてみます。イメージに惑わされずに戸建て住宅でも工夫によってはリスクを低減することは可能で、一方マンションであっても対策が不要ということはない点を把握し、住むべき場所を選び、状況に応じた対策を怠りなく準備しておくことが大切だからです。

共通の対策

住まいの災害補強対策は、その住まいの立地や構造によって大きく異なります。手始めに最も簡単な防災用品や避難用品の整備から取り掛かりましょう。防災グッズ等の売り場に足を運ぶだけで、防災用品や避難用品以外にも、いろいろな商品がありますので、我が家の弱点にも理解がしやすくなります。住まい全体の防災対策の第1歩にしてください。

防災用品、食料の備蓄等

防災用品や食料は比較的いろいろ情報に溢れていますので詳細は割愛しますが、阪神淡路大震災の経験者によると、自動車のタイヤ交換等に使うジャッキが2つあれば、目の前の多くの命が救えたそうで、その経験を生かして、必ず常備しているそうです。

電気やガスが長期にわたって止まってしまうことも想定して、カセットコンロや電源確保の方法も考えておきましょう。最近は防災用品コーナーにソーラーパネル、ソーラー式照明、蓄電池なども並べられています。またキャンプや車中泊が人気ですので、災害時にも活用できるいろいろなギアも商品化されています。車がある場合は最低限の車中泊ができる用具を積み込んでおくとよいかもしれません。

避難用具の整備

衣服

ヘルメット・厚底スニーカー・ジーンズ等の上下(ケガを少なくするための長袖)・防寒コートなど、普段使いと兼用でも大丈夫なので、玄関脇の靴箱やクローゼットに家族分それぞれ一式常備しておきましょう。ゴルフバックや普段使わない靴よりも避難用ウェア一式が玄関脇に瞬時に取り出せる状態にあることが重要です。間髪を入れずに脱出する必要がある場合は別ですが、1分程度の猶予があるのであれば、身支度をしっかりしたほうがその後のケガ等のリスクを少なくできます。上着や防寒コートは、工事作業員等が着るしっかりした生地でポケットがいろいろあるものが便利です。

非常持ち出し用リュック・ポーチ

非常持ち出しリュック等は市販のものがいろいろあります。中身を吟味し、必要なモノを追加し、不要と思われるものを外すなど、自分に合ったものに工夫します。自分の体力に応じた重量内に収めることが大切です。

ポーチ

防炎加工してあるリュックの方が身も守れて移動しやすいのですが、体を動かせない状態になればリュックのものを取り出すのは大変です。ポーチの方が切羽詰まったときには有効なので、私は身を守る最低限のものはポーチに入れています。多少の現金・小銭、使用中の薬(常に最新のものに入れ替えています)、水、飴、笛、防災ライト、タオル、軍手、雨具、防寒シートなどです。健康保険書のコピーや銀行の口座名や連絡先なども採譜に入れています。防炎加工したナップザックを入れていて、状況に応じてポーチを入れてリュックとして使えるようにしています。

リュック

その次のステップのものを入れています。給水パック、水、非常用食料、レジャーシート、下着、電池、手回し充電ライト・ラジオなどを入れています。

その他持ち出しメモ

スマホ、充電器、眼鏡、手帳、USBなど日常使っているもので、避難の時間の余裕があれば持ち出すもののメモを張っておきます。

戸建て住宅の防災対策

低層なために水害に弱い、コンクリート造のマンションと比較して火に弱い、多くは密集していて類焼の被害も考えられるなど、一般的な問題点はいろいろあります。地域や敷地の状況を把握し、それに応じた災害の被害を受けにくい、または最小限にする建物を建てることを心掛けることが大切です。今ある建物の場合は耐震補強をするなど専門家の意見を聞いてみましょう。敷地や建物を補強するのがベストですが、時間も費用も掛かります。同時並行してすぐにできる簡単な準備をすることも重要なのです。

家具を固定する、避難用具にライフジャケットを用意する、土嚢を準備しておく、近くに避難場所を確保する(公的施設がなければ、近隣マンションなどの上層階の知人住戸)などの簡単な対策は直ちに行うことができます。

自然災害対策は先人に学ぶのが一番です。各地にはそれぞれの地域の災害に対する言い伝えが残されています。前回のレポートでもご紹介した通り、神社や祠の位置は過去の災害をギリギリ避ける位置に建てられていましたし、「つなみでんでんこ」(=津波が来たら家族等を迎えに行かずに、てんでんばらばらに逃げろ。それが家族それぞれの命を守る最適手段である)などの言い伝えは、まさに東日本大震災の際に多くの子供たちの命を救いました。

下記の写真は、昔は普通の庶民の家も、それなりに防災対策を当たり前に考えていた事例です。

旧大塚家住宅(千葉県指定有形文化財)

漁師の家で、茅葺きの木造平屋建てとなっており、江戸時代末期に建てられたものと推定されています。度重なる水害から避難したり、家財道具をしまうなどしたりして、被害を最小限にする工夫がされており、屋根裏二階を設けているのが特徴です。

  • 旧大塚家住宅(千葉県指定有形文化財)

    旧大塚家住宅(千葉県指定有形文化財)

普通の家でも立地に応じた対策をしていた事例です。すぐ近くに明治初頭の建築である旧宇田川家住宅があります。一部2階建てですが、やはり平屋の屋根裏部屋は使用人の寝室や納戸として利用されています。

マンションの防災対策

マンションは戸建て住宅に比較して防災面では有利な面が多いですが、問題がないわけでもありません。築年数の古い旧耐震基準のマンションは耐震性の不安面があります。また低層階、高層階それぞれの問題点もあります。

低層階の住戸

東日本大震災では、4階まで津波が襲いました。津波の危険のある地域のマンションの低層階の住人は、あらかじめ避難場所を確保しておく必要があります。川が氾濫するケースもあります。また下図のように下水溝が溢れるケース(内水氾濫)は川から遠くても起きえます。低層階は水害の際の対処を考えておきましょう。

高層階の住戸

地震で電気系統が損傷したら、エレベーターは動かなくなります。高層階の住戸であれば、階段での移動は大変です。また地域が停電を免れても、マンションの電気設備が水害に合えば電気は停止します。2019年の武蔵小杉のタワーマンションの電気設備は地階にありました。超高層階ともなれば、重い水や食料を持っての移動は事実上無理です。排水管が破損していれば排水も可能とは限りません。トイレの問題も解決しなければなりません。より多くの備蓄は必要ですが、電気が不通のまま生活するのは高層になるほど難しいと思われます。

また、新耐震のマンションであっても絶対に安全ということはありません。絶対はないのです。安全に避難できる猶予があるという基準なのです。避難が必要となれば超高層階からの避難は相当の時間がかかります。大勢が階段に殺到したら、お年寄りだったら、赤ん坊を抱いていたら……予想より多くの時間がかかることを想定しておきましょう。


どのような住まいであっても「自分の身は自分で守る」ことが基本です。リスクはゼロにはなりませんが、工夫で少なくすることはできます。生命と財産を守れる明暗の境目がどこにあるかは誰もわかりません。ほんの些細な工夫がその境目であるかもしれないのです。