近くの川の弱い個所を熟知し、大雨が続いて増水すると、近所の人々がその場所に集まり、観察し、危険度を協議し、判断する。転勤族等のよそ者もその中に混じり、勉強していく……子供のころはそうしたことが普通だったように思います。決してお役所任せではなかったのが、今ではどれだけ自分が住む地域のことを把握しているでしょうか。インフラが整備され、昔よりは災害が少なくなっていますが、地域の弱点を知らないのは危険です。

親として、知らなかったでは済まされない地域の弱点

住まいを探す方はどのような基準で、これから住む地域を決めるでしょうか。私は相談業務の際には、必ず災害に関する検証を行うことをアドバイスしています。どこに住まいを定めるかということは、子供にとってどこを故郷とするかということになります。住まい選びは子供の故郷選びなのです。子供は故郷で安全に暮らせなければなりません。場合によっては孫の代まで引き続き住み続けることになるかもしれません。

災害は時として命と財産を失いかねません。子供と財産を守るためには、災害に関するチェックは他の項目以上に大切なはずです。密集地域で火災の不安が多くないか、軟弱地盤で地震に弱くないか、近くに断層が走っていないか、津波や河川の氾濫、下水道の氾濫の危険がないか、がけ崩れや擁壁の崩壊の危険はないか…など、様々な角度からチェックが必要です。

住む地域を決める際に検討していそうな主な項目を列記してみました。今までの経験では、災害に重きを置く方はあまりないのが実情です。

  • 親の住まいの近く
  • 住み慣れた地域
  • 通勤に便利
  • 通学に便利
  • 値段が手ごろ
  • 病院や商業施設等の利用の便が良い
  • 治安が良い
  • 閑静で静か
  • 災害の危険がない

ハザードマップで安心は禁物

地域のハザードマップはネットで閲覧できますし、各家庭に配布もされているのではないかと思います。しかし、どれほどの方がハザードマップをしっかり読みこなしているかは疑問な上、ハザードマップを信頼しすぎるのも問題なのです。

下図は以前にもご紹介しましたが、東日本大震災の津波の到達ラインとハザードマップラインを示したものです。ハザードマップラインよりはるかに奥まで津波が到達しています。残念なことにハザードマップの外側に多くの死者が集中してしまいました。「ハザードマップの外側だから安心」「ハザードマップの外側に避難したから安心」が被害を大きくしたのでしょう。

しかし、その後の研究によると、神社や祠は見事に津波の到達ラインの外側ギリギリに建っていたそうなのです。つまり、過去の津波の際に祠などをその外側に移転したと思われます。ハザードマップは過去の津波の検証の上に成り立っていなかったのです。

大切なことは、災害は常に予想外のものだということです。過去の津波の外側に到達する津波が今後ないという保証はありません。ハザードマップの外側に災害が起きないという保証もないのです。

  • 東日本大震災の津波被害のイメージ図

地域の災害を知る方法

災害を完全に予測することはできません。しかし、弱点を知って対策しておくだけ、リスクは少なくできます。今はネットで簡単に知ることができることが多くあります。最終的には、詳細な調査が必要かもしれませんが、その場で簡単にできることでリスクを少なくしてみませんか。

ハザードマップを確認する

過信は禁物ですが、防災対策の基本ではあります。

過去の地域の災害の記事を探す

ネットで検索すると、意外にいろいろでてくると思います。

グーグルマップのストリートビューでチェックする

「隣の敷地が盛り土をしていて、違法なコンクリートブロックで土留めをしている」「擁壁に水抜き穴が無い」「擁壁が膨らんでいている(=中の鉄筋がさびて膨張)」「谷地である」「崖の上である」などかなりいろいろ分かります。私も土地を買いたい方などから土地の吟味を頼まれることがありますが、まずネットで下調べをします。現地に行くまでもなく、問題点が発見できるケースも少なくありません。

無料のサイトで地盤を検索する

「GEODAS」でその地域の大まかな地盤状況を把握できます。土地の利用状況や等高線もわかるので、土地の起伏を把握できます。「goo地図」では、東京区内であれば、古地図のタグを開くと、戦後間もなくの土地の利用状況を見ることができます。

古老に聞く

現在住んでいる地域の災害を把握するのには、昔からその地域に住まわれている古老に聞いてみるとよいでしょう。以前はセミナーなどの際に受講者の中に高齢者がいらっしゃれば、その地域の過去の災害を必ず聞いてみていました。ほとんどの方がいろいろな災害を経験したり聴いたりしていましたが、しかし最近は高齢者と言っても戦後生まれが多くなり、伝承は途切れがちではないかと思います。

専門家に相談する

何事にも万全はありませんが、要所々々に専門家のアドバイスを受けると失敗の確率を低くできます。

住まいの取得の総額の0.1%をインフォームド・コンセントに! 1.0%をセカンドオピニオンに! 5,000万円の予算であれば、5万円で最初の行動指針などのレクチャーを受け、50万円の範囲内で土地のチェック、見積・設計・工事などの際にセカンドオピニオンを受けるために予算組しておきます。


過去にも防災シリーズを掲載しています。是非合わせて参考にしてください。「忘れたころに……」とならないように、時を置いて再びレポートできて幸いです。

住まいと防災(2)--地域を知る~「釜石の奇跡」は"奇跡"ではなかった~