アイドルオタクの中年サラリーマンと、新宿・歌舞伎町のイケメンホスト……対極な大人同士の友情を描く漫画『リーマンミーツホスト』。イラストレーターとしても活躍するかわいちひろ先生初の漫画連載となる同作品は、現在『モーニング・ツー』で連載中、そして2月22日にはコミックス最新2巻が発売されました。

  • 2月22日に最新2巻が発売された『リーマンミーツホスト』(かわいちひろ著)

恋人ナシ友達ナシ、男性アイドルを眺めることが趣味のサラリーマン・片山秀一は、旬を過ぎたホスト・月城悠を"応援したい"と推すことに。おっかなびっくり歌舞伎町のホストクラブに通い、同担の差しがねで同伴し、ドンペリニヨンのロゼを頼み……着々とホスト沼にハマっていくかと思いきや、"推し"の月城と「ともだち」という関係を築きはじめます。SNSでは「みんな尊い」「冴えないリーマンの推し活が、めっちゃ健気」「大人の友情が苦しいくらい不器用で好き」と毎月の更新を楽しみにするファンからの声も。

また最新2巻では、サラリーマン・秀一の日常をかき回すパワフルな新入社員も登場。新人時代を振り返りたくなったり、部下を指導した時のことを思い出したり、社会人なら共感したくなるエピソードも収録されています。

今回、発売に合わせて著者のかわいちひろ先生に『リーマンミーツホスト』制作の裏側と、2巻の見どころを伺いました。

『リーマンミーツホスト』著者:かわいちひろ先生

イラストレーター・漫画家
子供服ブランド勤務など諸々経て独立。現在『モーニング・ツー』にて『リーマンミーツホスト』連載中。

「大人の友情」難易度は高いけれど…

――『リーマンミーツホスト』コミックス第1巻の帯には「アイドルオタクとイケメンホスト 大人の"友情"物語」とあります。サラリーマン・秀一とホスト・月城の「大人の友情」をテーマにした理由は?

この漫画のシナリオを書いていた時期に、イラストレーターとして個展を開いたギャラリーを通して友達ができたことがきっかけです。その友達もイラストレーターで、互いの絵のどこが好きかという話をするなかで「人間が好き」という共通のテーマを持っていたことに気づいたんです。イラストのテイストは違っていても、同じテーマでアプローチが全然違っていて面白いねと話すうちに距離が縮まりました。

――「子どもや学生時代の友情」と「大人の友情」の大きな違いはどんな点だと考えられますか?

近所の子だったり小学校の同級生だったり、子どもの頃は自然と遊んで友達になりますが、大人は職場が一緒だとしても友達にはなるとは限らないですよね。出身地が同じでも「地元トークを話して、以上」みたいな。大人の友情は難易度がぐっと上がるなあと感じています。

――『リーマンミーツホスト』の主役であるサラリーマンの秀一とホストの月城も、普段の日常では共通点がなさそうです。とはいえサラリーマンをしていて関わらない仕事は沢山ありますが、なぜ「リーマン」と「ホスト」の友情物語なのでしょうか。

登場人物の二人は「絶対に交わらない職業にしよう」と最初から考えていたんです。昼と夜の仕事で時間的にも交わらない職業で、夜を象徴するイメージのお仕事はなんだろう……と考えた結果、ホストを描くことにしました。

  • 歌舞伎町の片隅で落ち込んでいた片山秀一は、ホストの月城悠に声をかけられる『リーマンミーツホスト』(かわいちひろ著) コミックス1巻収録 #1「新宿、歌舞伎町の片隅で」より

――新宿・歌舞伎町でホストクラブを運営する「Smappa!Group」に取材もされたと伺いました。ホストクラブの取材を通して気付いたことや作品に活かした点は?

一番最初の印象は、「お顔がきれいな人が多い!」ですね。ホストクラブの看板に使われている写真は加工されているものだろうと思っていたんですが、写真そのまま、むしろそれ以上にきれいなお顔立ちの方が取材に応じてくださって驚きました。

またホストクラブに通っている方にもお話を聞く機会がありました。確かに様々な問題もある業界だと承知していますが、自分のお金と付き合いながら楽しく通っている人もいらっしゃいます。「Smappa!Group」会長・手塚マキさんの言葉をお借りすると、"ホストはプロフェッショナルサービス"。お客さんのニーズに応える接客の片鱗を取材で感じさせてもらいましたし、そのイメージは漫画の中に落とし込めるよう頑張っています。

  • 人生初のホストクラブ、アイドル趣味を月城に打ち明けると……『リーマンミーツホスト』(かわいちひろ著) コミックス1巻収録 #1「新宿、歌舞伎町の片隅で」より

やる気ありすぎ新人&指導側、どっちに共感したくなる?

――2月22日発売のコミックス2巻には、サラリーマンとして働く秀一と、秀一が指導する新入社員・牧野とのエピソードが収録されています。

  • 新入社員の牧野の対応に、やつれ気味の秀一『リーマンミーツホスト』(かわいちひろ著) コミックス2巻収録 #7「がんばりたい」P19より

――新入社員の牧野は、やる気が溢れすぎて猪突猛進なタイプ。大きなプロジェクトに関わりたい気持ちが先走り、秀一からの仕事を軽んじてトラブルを起こしてしまいます。

  • 牧野のやる気に応えようと、重要なプロジェクトの一部を任せる秀一『リーマンミーツホスト』(かわいちひろ著) コミックス2巻収録 #8「あの人がそう言ったから」P21より

――秀一が牧野に仕事を指導するエピソードは、指導する側・指導される側のどちらかを経験したことがある社会人なら思わず共感したくなりますね。

「牧野、お前……」というウザそうな反応もありましたね。牧野はどのくらいフルスロットルなキャラクターにするか担当編集者さんと悩んだのですが、手に負えない厄介な新入社員の感じが読者の皆さんに伝わっていて狙った通りでした。友達からも「牧野を見ていると胸が痛む」「牧野にはかわいさんが入ってるでしょ」と言われたりして(笑)。私自身の会社勤め経験は4年ほどと短いものの、牧野とのエピソードは勤務先で一緒に働いた方や自分の経験などを織り交ぜています。

――頼まれた仕事をナメていたり「おいおい」と言いたくなる牧野ですが、前向きな姿勢や勢いはなんだか憎めないところも……。

彼女のやる気は育てようによっては原石かもしれません。ホストクラブに行く秀一を諫めたり、秀一と同じサラリーマン側のキャラクターです。

  • 牧野のフォローをするなかで、ホストクラブに通っていると打ち明けるとこんな反応が『リーマンミーツホスト』(かわいちひろ著) コミックス2巻収録 #8「あの人がそう言ったから」P31より

――冴えない中年サラリーマン・秀一も、やつれたり月城に悩みを打ち明けたりしつつ、親身に応えようとします。

会社員として働いていたころ、人を育てるのは上手なのに、会社の評価や自分の手柄には興味のない方がいたんです。でもその人が担当した新人たちはぐんぐん成績を上げていって。会社での秀一は、その方をイメージしつつ、実は"できる人"ですね。また「男性アイドルオタクの冴えないサラリーマン」というキャラクター自体は、最初に決めたところからほぼブレていません。

――"美青年を見ることが好き"だという男性アイドルオタクの秀一、チケットが手に入らなくてもライブ会場の空気吸いたさに現地へ行ったり、推しのTシャツを着ているシーンもありますね。

私自身がK-POPの女性グループを見るのが趣味ということもありますが、男性が男性アイドルを推している世界がこの漫画の中では普通であってほしいという思いから趣味を授けました。もちろん世の中には男性アイドルファンの男性はたくさんいるけれど、憧れのファッションリーダー的に推しているのではなく、ああ、きれいだな、と愛でるタイプ。おじさんがそっと推す姿はかわいいんじゃないかなと。私も楽曲や衣装も含めて愛でたいタイプなので、根本は秀一と似ていますね(笑)。

  • 『リーマンミーツホスト』(かわいちひろ著) コミックス1巻収録 #1「新宿、歌舞伎町の片隅で」より

  • 男性アイドルオタクの秀一は、チケットが取れないものの空気だけでも吸ってみたいとライブ会場へ向かう『リーマンミーツホスト』(かわいちひろ著) コミックス1巻収録 #1「新宿、歌舞伎町の片隅で」より

一方で、月城は最初の設定からだいぶ変わりましたね。当初、秀一と同じ39歳で無精ヒゲの疲れたホストにしようと考えていたのですが、この年齢で売れていないととっくに辞めているし、ある程度の役職についていないとおかしいなと……。取材を通して出会った方々の"ホスト像"から今の月城ができました。

初の漫画連載、気付いたことは?

――かわい先生はイラストレーターとして装画や挿絵の執筆で活躍される一方で、noteでは自主制作漫画『違うクラスの好きな人』も長期で連載されていました。イラストを描く時と漫画を描く時で考え方の違いはありますか?

創作活動、特に個展で飾る絵は一枚に物語性を入れ込んで描くことが多いのですが、一枚の中に物語が入り切らなくてもったいないと思ったときは漫画にすることが多いです。なのでイラストの地続きに漫画がある感じですね。とはいえイラストと全く同じというわけではなく、漫画を描いている時は横にある脳みそにも頭を突っ込んでいるイメージです。

――画中の人物がどんな生活をしているのか、背景を考えるのも楽しくなります。ではイラストと漫画で「変えていないこと」はありますか?

意識して変えていない部分は、線をあえて途中で途切れさせていること。強弱がつけづらいペンを使っていて漫画にしては線が太めなので、抜け感が出るように主線を途切れさせています。それから漫画はモノクロですが、イラストのように塗ってからトーン化することで印象が変わらないようにしています。ただその分塗りに時間がかかってしまうため、アシスタントさんが雇えないんですよね(笑)。

――『リーマンミーツホスト』は初の連載漫画作品です。『違うクラスの好きな人』とは異なる点はたくさんあるかと思います。連載をされるなかで印象的だったことはありますか?

自主連載の時は一人で好きに描いて不定期に掲載していたので息抜きになっていたのですが、毎月確実に〆切があることは大変です。また漫画のプロである担当編集者に見てもらい、ブラッシュアップするなかで毎回学ばせてもらうことがとても多い。盛り上がる場所でこうコマを持って行ったらいいんじゃないかとか、すごく勉強になっています。漫画の描き方をいちから教えてもらっていて、商業連載はそのありがたさを感じますね。

  • 編集者に指摘されて、修正した後の効果音。修正前はもっと細い線だったそう『リーマンミーツホスト』(かわいちひろ著) コミックス1巻収録 #1「新宿、歌舞伎町の片隅で」より

例えば第1話の効果音の描き方。最初は細い字で「くしゃ……」と描いて提出したところ、「効果音がしょぼすぎるので、ちょっと怖い効果音で迫力を出してもらえますか?」と言われまして。「効果音てこんなに種類があるんだ!」と驚きました。今思い返すと細い文字だとギャグマンガっぽくなっちゃいますね(笑)。

――2月には2巻も発売されました。2巻の見どころを教えていただけますか?

2巻では、秀一の後輩である牧野、そして月城の上司にあたるホストクラブのマネージャーという新しいキャラクターが登場します。二人の人間性が深掘りされ、1巻よりも歩み寄っていくなかで、お互いの表情が変わっていく姿をぜひ注目していただきたいですね。

また舞台となる新宿の風景は、実在する場所をもとに描いています。タワレコとかコインランドリーとか焼肉店とか……新宿に数あるお店のひとつなので、ここかな~と探したり、実際に訪れてみてください。


『リーマンミーツホスト』コミックス最新2巻は現在好評発売中、また『コミックDAYS』では1・2話無料、さらに最新話まで配信されています。「タイミングが違っていたら二人は絶対に仲良くならなかったと思いますが、たまたま出会って親交が続いている現象を見守ってほしいなと思います」とかわい先生が語る大人の友情物語、ちょっと不器用だけどどこか羨ましくなる二人の関係から目が離せません。

✅無料試し読みはこちら! コミックDAYS『リーマンミーツホスト』第1話

『リーマンミーツホスト』1巻・2巻は好評発売中!

男性アイドルを愛でることが趣味のサラリーマン・片山秀一。恋人もおらず、友達も少なく、冴えない毎日を送っていた彼は、偶然立ち止まったホストクラブの前で、ホスト・月城悠と出会う。地味なサラリーマンと、30歳を目前に控えたホスト。歌舞伎町での出会いをきっかけに、本来交わるはずのなかった二人は、趣味や人生の悩みを共有しながら、次第に不思議な“大人の友情”を築いていく……!

現在『モーニング・ツー』で連載しており、2月22日発売の最新2巻は好評発売中。

(c)かわいちひろ/講談社