前回は、「超高齢社会」における経済成長の可能性を紹介し、「超高齢社会」に十分に対応することができれば、経済成長も可能であるし、老後の不安も減らせる可能性があることを述べました。

その際は、経済成長を前提とした考え方を紹介しましたが、もっと大胆な考え方もあります。それは、経済成長に代わる目標を見つけようという試みであり、言い換えれば、戦後の日本が追求してきた経済成長や物質的な豊かさの拡大という目標が、今日においても果たして機能するのかという問いへの回答を探すことです。

経済成長は万能か?

日本では、経済成長は、戦後から現在に至るまでありとあらゆる問題を解決できる万能薬のように考えられているところがあります。確かに、戦後の経済成長は、私たちを豊かにしてくれました。

  • 経済成長は万能か?

しかし、経済成長は、今後も私たちをより豊かにしてくれるのでしょうか。その思いの根底には、「成長」そして「需要拡大」のための景気対策のみを追求していることが、財政赤字の蓄積や将来世代への負担のツケ回しといった病理や社会不安を生んでいるという反省があります(※1)。

現在は、政府が様々な財政支出を通じて消費を刺激し、需要の拡大を通じて経済が不断に拡大していくという基本的な構図そのものが成り立ち難くなっているという意見もあります(※2)。

また、経済成長で全員が勝つことができる社会としては既に限界に達していて、ある個人の取り分の増加は別の個人の取り分を奪うことによってしか達成できないゼロサムゲーム社会になっているのではないかという懸念もあります(※3)。

そこで、経済成長に代わる目標として「定常型社会」といったコンセプトで表される社会を目指すという試みが生まれました。

(※1)広井良典『定常型社会 新しい「豊かさ」の構想』(岩波書店)140ページ
(※2)広井良典『定常型社会 新しい「豊かさ」の構想』(岩波書店)18ページ
(※3)広井良典『定常型社会 新しい「豊かさ」の構想』(岩波書店)163ページ

「定常型社会」とは?

「定常型社会」とは、「経済成長ということを絶対的な目標としなくとも十分な『豊かさ』が実現されていく社会」のことであり、「ゼロ成長」社会ともいえるものです(※4)。その特徴は、以下の3つになります(※5)。

第一の特徴は、資源・エネルギーの消費が一定になる社会であるという点です。これは、環境への負荷を増すことなく、もしくは資源の枯渇を招くことなく、「豊かさ」が拡大してゆくような経済社会を追求していくことです。言い換えれば、将来にわたって持続可能な社会を目指すということです。

第二の特徴は、経済の量的拡大を基本的な価値ないし目標としない社会であるという点です。それは、「量的拡大」よりも「質的変化」に主たる価値が置かれるような社会と言い換えることができるもので、既に「モノ消費からコト消費へ」という形で現れ始めているようにも見えます。

第三の特徴は、変化しないものにも価値を置くことができる社会であるという点です。ここで言う変化しないものとは、例えば自然であるとかコミュニティであるとか、古くから伝わってきた伝統行事や芸能、民芸品等々といった意味です。

(※4)広井良典『持続可能な福祉社会 「もうひとつの日本」の構想』(筑摩書房)136ページ
(※5)広井良典『定常型社会 新しい「豊かさ」の構想』(岩波書店)142-145ページ

「超高齢社会」と「定常型社会」

「定常型社会」の考え方は、今後、私たちが「超高齢社会」に適応する上で参考になると考えます。なぜなら、「成長し続けなければならない」という前提を取り払うことで見えてくる世界があるからです。

今、私たちの多くは「経済成長がすべての問題を解決してくれる」とは信じきれないと思います。それにも関わらず、経済成長のみを追求することは、経済成長によって解決できない問題を放置しているようなものです。その中には、「超高齢社会」における社会保障や格差の問題も含まれていると思います。

今後の「超高齢社会」においては、富をどのように再分配するかという問題は避けて通れないでしょうし、今まで以上に、社会保障制度を安定させることやコミュニティを維持していくことが重要と考えられるようになるでしょう。

また、「超高齢社会」の中で、常に「成長し続けなければならない」というプレッシャーに晒されて生きていくことが、人生が長くなることと相まって、老後不安を増す原因になっている可能性も考えられます。

よって、「定常型社会」の考え方は、老後の不安を減らすライフプランを考える上でも、「超高齢社会」に適応する手段の1つとして一考の価値があるのではないでしょうか。

※画像は本文とは関係ありません。

山田敬幸

山田敬幸

一級ファイナンシャルプランニング技能士。会社員時代に、源泉徴収票の読み方がわからなかったことがきっかけでFPの勉強を始める。その後、金融商品や保険の販売を行わない独立系FPとして起業。人生の満足度を高めるためには、お金だけではなく、健康や人とのつながりも大切であるという理念のもと、現役世代の将来に向けた資産形成や生活設計に対する不安の解消に取り組んでいる。