第1回の記事で、仕事をリタイアしてから亡くなるまでの期間が長くなったことが、老後の生活設計に対する不安につながっていることという見解をお伝えしました。加えて、その解消策として、定年後も働くという選択肢を提示しました。
死ぬまで働くのか?
定年後も働くとなると、「死ぬまで働かなくてはいけないのか?」と、うんざりされる方もいると思います。しかし、人類の歴史を見れば、ヒトが死ぬまで働く方が一般的で、定年後に悠々自適な生活を楽しめるというのは例外的な現象でしょう。加えて、戦後、平均寿命が40年延びる間に、定年退職年齢が10年間しか延長されなかったことを考慮するならば、健康なうちは働くという選択肢はアリだと思います。
また、定年後も働くことにうんざりされている方は、現在の働き方に問題があるという可能性もあります。今、無理な働き方をしている人が、それを基準に定年後の働き方を想像し、年を取ってからは、こんな働き方はできないと考えておられることもあるからです。この場合は、現在の働き方を見直すことが先でしょう。
定年後も働く理由
ところで、定年後も働くという方は、どのような理由で働いているのでしょう。生活費や老後の資金が足りないからという理由で働く人が多いことは何となく想像できますが、それ以外の理由もあるのでしょうか?
平成27年に独立行政法人 高齢・障害・求職者支援機構が発表した「高齢者雇用の現状と人事管理の展望」から見てみます。
調査対象は定年後に継続雇用を選択した人に限定されますが、働く理由(複数回答)の第1位は、「現在の生活のため」が78.5%、第2位は「老後の生活に備えて」が47.0%となっていて、ここまでは予想通りです。
以下、「健康のため」が35.4%、「会社や職場から働くことを望まれているから」が32.2%、「自分の経験や能力を活かしたいから」が31.8%、「社会とのつながりを維持したいから」26.6%、「今の仕事が好きだから」25.1%と続きます(図表1)。
この結果を見ると、働く理由のメインは生活のためであるが、決してそれだけとは言えない実態も見えてきます。
第一に、健康のためです。例えば、日本人の通勤時間は長いことが多く、それ自体が問題になることも多いのですが、身体的には、運動が不足していると言われている現代人にとって、貴重な運動時間になっているという見方もできます。私自身も活動量計で計測してみて、「こんなに歩いているのか」と驚いた記憶があります。
また、「働く意味」をテーマに取材・執筆・講演に取り組んでいる楠木新氏は著書『定年後 - 50歳からの生き方、終わり方』(中公新書) で、会社で働くことの利点として以下のように書いています。
「とにかく会社に行けば人に会える。昼食を一緒に食べながらいろいろな情報交換ができる。若い人とも話ができる。……規則正しい生活になる。……スーツを着ればシャキッとする。会社は家以外の居場所になる。……もちろん冗談で言い合っていたのだが、本質を突いているところもある」
楠木新『定年後 - 50歳からの生き方、終わり方』(中公新書) 79ページ
これらのことが脳の活性化につながって、結果的に認知症の予防になっていることもあると思います。
第二に、社会とのつながりのためです。「会社や職場から働くことを望まれているから」「社会とのつながりを維持したいから」という回答が多いことは、働くことでコミュニティの一員でありたいという欲求を満たしているとも考えられます。逆に言えば、会社で働いていないと、社会との接点が失われてしまう可能性があることも示唆しています。
第三に、自己実現のためです。「自分の経験や能力を活かしたいから」「今の仕事が好きだから」という回答が多いことは、働くことで自己実現を図る人が多いことを窺わせます。この場合は、自分が働くことで社会に貢献できるという思いが自己実現につながるのでしょう。
現役世代も働く理由を考えてみましょう
このように、定年後も働くことには生活のためだけとは言えない様々な利点があります。加えて、これら定年後に働く理由が当てはまるのは、継続雇用を選択した高齢者だけに限られた話ではないでしょう。目の前の生活や仕事で手一杯で意識することは少ないかもしれませんが、私たち現役世代の働く理由とも重なっているはずです。
定年後も働くことにうんざりされている方は、働いている理由や利点を一度確認してみてください。ひょっとしたら、定年後も働くということを前向きに捉えて、ライフプランに取り入れることができるかもしれませんよ。
執筆者プロフィール : 山田敬幸
一級ファイナンシャルプランニング技能士。会社員時代に、源泉徴収票の読み方がわからなかったことがきっかけでFPの勉強を始める。その後、金融商品や保険の販売を行わない独立系FPとして起業。人生の満足度を高めるためには、お金だけではなく、健康や人とのつながりも大切であるという理念のもと、現役世代の将来に向けた資産形成や生活設計に対する不安の解消に取り組んでいる。