初回は「なぜ『ビジネス』と『自転車』なのか」「なぜ『自転車道』なのか」というところからスタートしたいと思います。そう、私が単に自転車を乗っているからだけではありません。

  • ロードバイク乗り経営者のビジネス自転車道

皆さんはApple創業者のスティーブ・ジョブズを知っていますよね? iPhoneを開発し、Appleを時価総額で世界1位の会社まで押し上げた天才経営者です。また、PCでもMacを生み出し、現在もMac Bookシリーズなどを提供しています。「ビジネス×自転車」というテーマは、このMac開発プロジェクトがスタートした1981年まで遡ります。実は当時、Mac開発プロジェクトの名前は「Bicycle」だったそうです。何で? パソコンの開発プロジェクトなのに? と思いますよね。そこには、ジョブズのパソコンに対する「哲学」があるのです。

ここで皆さんに質問です。「PC」って何ですか? そうです、「パーソナルコンピューター」の略(個人用のコンピューター)ですね。では「コンピューター」って何でしょう? 意外にも「あれ、何だっけ? 」と思った方が多いのではないでしょうか。日本語では「電子計算機」と訳されます。「電子計算機」とは、あらかじめ決められた命令に従って演算を行う機械の総称とも言われます。つまりMacは「電子計算機の個人用」ということになりますが、ジョブズは「自転車」と表現しました。ここが発想と着眼点の違いです。

ジョブズの言葉で言うと「Bicycle for the Mind」。「知性の自転車」「知的自転車」と訳すことができます。彼はインタビューでこう語っています。「人間は生き物の中で移動に優れた動物とは言えない。ただし、自転車という道具を使うと人間は自分のエネルギーだけで最も効率的な移動ができる。つまり自転車は人間にとって、その能力を拡張する道具である。そしてコンピューターとはまさに人間の知性にとっての自転車、知性を拡張する道具である」。

もし彼がコンピューターを電子計算機としてみていたら、Macはもっと違った形をし、単なるビジネスユースになっていたかもしれません。しかし彼が、個々人の知性を拡張するための道具(知的自転車)として捉えたからこそMacは音楽、映像などの個々人が創造したいものを拡張するために使ってもらうための道具になったのではないでしょうか。だからこそ、個々人の知的好奇心を刺激するためにプロダクトデザインも重要だったのではないでしょうか。その着眼点や思想は、iPhoneの開発にも通じています。まさに、個々人がいつでも、どこでも使え、インターネットに接続でき、知を拡張するための道具だと言えます。

それだけ、物事をどの視点で「切り取る」のか、「見るのか」はビジネスに置いてとても重要なことになります。なぜなら、あらゆる視点を持つことで、アイデアはどんどん膨らみ、拡張していくからです。これが、論理的思考だけではビジネスは成功させられない所以です。この違いこそが、他者と差別化し、オリジナリティを生み出す原点だからです。

このコラムの「自転車道」も、皆さんにとっての「Bicycle(知的自転車)」となり、ビジネスに必要な「知の拡張」をしていくための"着眼の仕方"や"原理"を伝えていければと思っています。そして「知識の拡張」が、皆さんが望む豊かな人生へと導いてくれることを願っています。

染谷剛史

執筆者プロフィール : 染谷剛史(そめや たけし)

ナレッジ・マーチャントワークス 代表取締役社長
1976年、茨城県生まれ。1998年、リクルートグループ入社。中途・アルバイト・パート領域の求人広告営業に従事。新人賞を受賞。マーケットプロデュース部門に異動し、WEB・モバイル系新商品開発に従事。2001年、株式会社デジットブレーン入社。副編集長、広告局マネジャー。大手ホテルやハウスウェディングのPRコンサルティングに従事。2003年、株式会社リンクアンドモチベーション入社(東証一部上場)。大手小売・外食・ホテルといったサービス業の採用・組織変革コンサルティングに従事。2012年には同社執行役員に就任。

以後も新規事業開発(グローバル事業立ち上げ、健康経営部門の立ち上げ)を経て、サービス業に特化した組織人事コンサルティングカンパニー長を担う。2017年、ナレッジ・マーチャントワークス株式会社を設立し、代表取締役に就任。多店舗展開型企業の経営・組織変革を目的にサービス産業に特化したシフトワーカーマネジメントアプリ「はたLuck」の開発を行う。

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