イケメンとは何なのか? と考えてみたとき、いっしゅん「やっぱり顔がいい人のこと……」と言いたくなる部分はなきにしもあらずです。私なぞは、最初のうち「イケメン? イケてるメン(面)の略か」とばかり思っていました。しかし、イケてるメンズの略でもあると知って、それなら、顔のことだけじゃなく、性格や生き様みたいなこともすべて「イケてる」かどうかを指すことになるわよね~と、個人的には思った次第です。

イケメンということばが使われるようになるまでは、顔のことを「かわいい」「キレイだ」「美人だ」と取り上げて、相手に対する態度をかえたりするのは、男性の専売特許だったような気がします。

もちろん、そんなことはない。自分は面食いじゃないし、容姿のことで相手との接し方をかえたりはしない! とキッパリ断言できる硬派な男子もいらっしゃることでしょう。しかし、男性がどんなに上手に気持ちを隠していたとしても、女性はそれを上回るほど相手の気持ちを察するのが上手です。

ですので、一瞬の目の動きやゆるんだ口元を見て、

「あーあ。やっぱりA子はかわいいから、男子の態度が違うわよね」

と気付いてしまいます。そして、仕事の場面や男同士の間ではポーカーフェイスで通っている人でも、女の子に関してはあからさまに態度が変わってしまう。特に、仕事のときは気合を入れて公平な態度を取っているけれど、そのぶんプライベートでは気がゆるんで、合コンや初対面の場で、かわいい女の子を前にすると、すっかりふにゃふにゃになってしまう。そんな人もけっこう多いものです。

当の本人の男子達は、そんなあからさまな自分を自覚すらしていないようですが、女性から見るとホントにロコツだったりします。正直にいうと、そんなウカツなところも男性のかわいさであったりはするのですが、決してほめられたことではありません。

さて、話が長くなってしまいましたが、女性としては、自分がされてイヤだなと思うことでしたので、容姿の違いであからさまに相手への態度をかえる……ということは、なるべくしないようにしてきた──そういう気持ちの人はとても多かったと思います。

また、そもそも女性の容姿をあらわすことばは「かわいい」「キレイ」「美人」と使いやすく一般的で、タイプ別のバリエーションもあるのに、男性の容姿の美しさを表現する言い方は、

「男前」(関西出身の方でないと上手に使えない)とか「ハンサム」(オバサンなら、ウケ狙いなら、言ってもゆるされるかもしれない)とか、何だか口にするのがむずかしい言い回しばかりでした。

ところが、そこに「イケメン」ということばが出てきた。このことばの普及によって、一気にどの地域のどの年代の女性も、男性の容姿をほめることが可能になったわけなのです。

これまでは男性の容姿を「なんていうか、背も高いし、けっこうカッコいいね」とそんなふうにしか表現できなかったのに、

「イケメン!」のひと言で、バシっと男性の容姿を言い表すことができるようになった。イケメンということばには、そんな力があるような気がします。

とはいえ、イケメンということばは、そんな力を持ってしまったぶん、困った問題ももたらしてしまったような気がしないでもなりません。

これまでは、面と向かって男性に「顔がいいですね」「男前ね」「ハンサムですね」と言う女性はあまりいなかったと思うのですが、イケメンという使いやすいことばでできてしまったために、大っぴらに、

「うわぁ、イケメンじゃない」

と人前でも男性の容姿をほめることができるようになってしまった。それをすることのハードルが低くなってしまった部分もあるはずです。

これって、もし、自分が反対の立場だったら、けっこうつらいし、いいことではないなと思います。

たとえば、男性と女性が5、6人ずつ集まって合コンをしたとします。そのとき、初対面の男性が、ひとりの女の子に、

「うわー、すごい美人ですね」
「ホント、ホント、超キレイ」

というようなことを言ったら……周りにいる女の子はいい気持ちにはなれないですし、ほめてもらった本人だってとても心苦しくなってしまいます。だから、人前で女の子をほめてはいけないのよ……という話は、このコラムの中でも書いてきました。

イケメンということばの普及で、男性も同じようなつらさを味わう場面ができてしまったような気がするのです。

男の人は、恋愛問題、女の子のことに関しては、とってもデリケートです。友だちが「イケメン」とあからさまに女性にほめられて、なんだかうらやましいような、イヤな気分になってしまう。おまけに、友人をねたんだ自分を責めてしまう、なんてこともありそうです。

それから、あからさまに「イケメン」がチヤホヤされるようになってしまったせいで、「やっぱりイケメンじゃないとモテないんだ」「ほら、女の人もけっきょくは外見だけで男を判断しているんだ」と、女性を信用できないような、フクザツな気持ちを抱いてしまう人もいらっしゃるかもしれません。

それでは、本当にイケメンはモテるのか? イケメンでないとモテないのか? というと、決してそんなことはないことをみなさんもご存知だと思います。

イケメンというのは、その女の子にとってのイケメンであって、人それぞれ、女の子それぞれに「好みのタイプ」の顔があります。そして、それが一般的に言われる容姿が整っている人とは限らないですし、たとえ容姿が整っていたとしてもモテない……なんだろう、ムダイケメンみたいな人もいたりするのです。

というわけで、今回は前編。次回は"イケメンでないとモテないのか"編の後編です。

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酒井冬雪です。前後編で間があいてしまうこと、ごめんなさい。モテるかモテないかよりも、モテたいかモテたくないかという、本人の気持ちのありようもだいぶ「モテ」に関係していると思う今日このごろです。では、またね。