どうしよう、どうしよう。声をかけようか、いや、でも、やっぱり恥ずかしいし……ここは自分が出て行かなくてもいいのではないか、と悩んで思いとどまって、けっきょく何もできなかった。

気になる女性と話せそうだったとき、困っているところを手助けできそうだったとき、何かお手伝いできそうだったとき、

「どうしよう」

と考えている間にチャンスを逃して、気が付けば他の男子に機会を持っていかれてしまっている、というようなことはよくあるものです。

マジメすぎる、慎重すぎる、考えすぎる、仕事ではけっこう役に立つし、美徳とされる性格が、恋愛ではどうもマイナス方向に出てしまう。そんな不器用な男性はきっと多いとのではないかと思います。

*  *  *

某医薬品メーカーで働くEくん(30才)のトナリの席には、同期のSちゃん(30才)が座っていました。

この春、Sちゃんは異動が決定しました。今いるフロアから、別の階に引越しするため、Sちゃんは仕事の後、あわただしくデスクの整理をしていました。

同期で入社したときから、Sちゃんのことを「いい人だなぁ」と思っていたEくんでしたので、彼女が異動してしまうことをとても残念に思っていました。

ふだんから、身の回りの整理整頓がキチンとしているSちゃんでしたので、片付けはあっという間に終わってしまい、後はデータを削除したPCを総務に返却し、3個のダンボールを異動先に運ぶばかりとなっていました。

総務部宛てのに返却用書類を記入し、ノートPCを持ってフロアを出ていったSちゃんを横目で見ながら、Eくんは考えていました。

(Sちゃんはこの後、あのダンボール箱をエレベーターホールまで運んで、異動先まで持っていくんだよな……。ファイルに書類がぎっしり入っていそうだし、やっぱりあの箱は重いよな。ここは、手伝いを買って出るべきなんだろうか。

しかし、ダンボールを持って彼女の異動先まで行ったら、あそこの部署の人たちから「なんだ、こいつ。彼女に気があるのか」と思われやしないだろうか。百歩譲って好意がバレなかったとしても、同期の女子のパシリみたいに思われるかもしれない。

でも、ここで重い荷物を運ぶのを手伝わないのも、男としてどうかと思うし。どうしよう、どうしよう)

と、Eくんが悩んでいるうちに、Sちゃんが総務部から戻ってきてしまいました。

そして、いかにも重たそうなダンボール箱のうちのひとつを両手に抱えようとしたそのとき、向かいの席に座っていた後輩のUくん(27才)が、

「あ、Sさん、手伝いますよ」

とさりげなく声をかけて、彼女の腕からダンボールを受け取って運びはじめたのです。

「ありがとう」
「いえ、ぜんぜん大丈夫っすよ。全部運びますんで、そのまま置いといてください」
「でも、タイヘンじゃない?」
「それじゃ、Sさんもこのまま一緒に行って、向こうでこの箱の中身を整理し始めちゃってください。そのほうが、時間かかりませんよね」
「ごめんね、ホントにありがとう」

と言いながら、ふたりはエレベーターホールへときえていってしまったのでした。

それから、Uくんは2往復して箱を運び終えると、またデスクに戻り、何事もなかったかのようにもくもくと仕事をしていました。小1時間ほどすると、SちゃんがEくんたちのフロアに戻ってきて、

「さっきはありがとう。おかげで片づけが早く済んで助かっちゃった。ねぇ、おなかすかない? もし、仕事が終わりそうだったら、このままもうごはんでも食べに行かない? お礼に私がおごるから」

とUくんに声をかけています。Uくんが気を遣うように先輩のEくんをチラッと見ると、察しのいいSちゃんは、

「よかったら、Eくんも一緒に行かない?」と声をかけてくれました。しかし、Eくんはわずかの時間、またあれこれ考えてしまいました。

(ああ、あのとき「手伝おうか?」と声をかけていたのが自分だったら……。「ごはんをおごるよ」と言われていたのはオレだったかもしれないのに。手伝いもせず、食事だけ一緒に行くなんて、これじゃまるでオレはただの気がきかない男ではないか)

自分でも無意識に、Eくんは、

「あ、悪いんだけど、まだ仕事終わりそうにないから、気を遣わないで、先に行っちゃって」

と返事をしていたのでした。

「お疲れ様です」

と職場を出て行く二人の背中を見ながら、Eくんはハタと思いました。

(そうか、さっきは手伝えなかったけど、異動のお祝いにここは、オレがおごるよ、とか言って彼女に食事をごちそうしてあげればよかったのかもしれない)

*  *  *

こんなふうに、タイミングを逸して、せっかくのチャンスを逃してしまった経験のある人はきっと多いはずです。

マジメで、慎重で、あれこれ考えてから結論を出す男性ほど、そういったことは多いのではないかとも思います。

しかし、こと女の子問題や恋愛に関しては、考えすぎないほうがいいものです。人からどう思われるか、相手に自分の気持ちがバレるんじゃないか、とあれこれ考える前に、まずはチャンスに向かって飛び込んでみることも必要です。

チャンスに飛び込んでから、これからどうしようと考えても遅くないですし、後からフォローや言い訳(したいのなら)はいくらだってできます。

どうしよう、と迷ったときは、まず飛び込んでみる。それでもし間違ってしまったら次の経験に生かす。女の子問題には、これくらいの勢いと勇気を持って取り組んでみてほしいなと思います。

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酒井冬雪です。もうすぐGWです。インドア派の私は、もちろん、混雑しているときは家にいる or 本屋に行く目的で近所をお散歩……が基本です。みなさま、ぜひ楽しい休日をお過ごしください。。