今回はゴールデンウィーク特別企画第2弾。4月29日が「昭和の日」だったことにちなんで、昭和が生んだ通勤電車の基本スタイル「車体長20m片側4ドア」を確立した72系の中から、制御車クハ79の"顔"(前面)を特集したいと思います。
クハ79は製造年度ごとにマイナーチェンジを繰り返しました。そのバラエティーに富んだ"顔"を追っていくと、新性能通勤形電車101系の"顔"へ受け継がれていったデザインの変化が見られます。
同車両は大きく2つのグループに分けることができました。ひとつは戦時中から戦後直後の混乱期にかけて、木造車や無電装のモハ63から改造された「原型グループ」。もうひとつは1952~1957年にかけて、300番台・920番台として新製されたグループです。
クハ79「原型グループ」
「原型グループ」はクモハ73原型車と同じ前面で、いわば「ナナサン」(72系の通称)を代表する顔。「製造工程の短縮」「資材節約」の戦時設計から生まれた、食パンのような切妻顔です。この顔が新製グループに引き継がれ、製造年度ごとにマイナーチェンジを繰り返し、変化を遂げていきます。
新製グループ(1952年度製)
クハ79として初めて新製されたグループ。原型グループの「ナナサン」顔をしっかりと踏襲しつつ、屋根の高さが70mm低くなったので、ちょっとだけすっきりとした印象になっています。
新製グループ(1953年度製)
このグループの特徴は、前面のガラス部分すべてをHゴム支持にしたこと。これにより、かなり印象が変わりました。側面のドアと戸袋窓もHゴム支持となっています。
新製グループ(1954~1955年度製)
101系や103系でもおなじみとなる「傾斜した前面窓」のルーツとなるのがこのグループです。
傾斜窓は、クハ79350とクハ79352(ともに1953年度製)の前面窓上部を内側に5度傾斜させ、窓上部に運転室用の通風口を設置した試作車から始まりました。1954年度製から、傾斜を10度に拡大して本採用。また、前面窓上下の補強帯を廃し、平滑な印象になりました。
1952~1953年度は偶数車のみの新製でしたが、1954年度から新たに奇数車(301~)の新製も加わりました。その結果、クハ79300~352と388~420は、奇数車と偶数車で前面のスタイルが異なるという珍しい例に。クハ79344(写真4)とクハ79345(写真5)にいたっては、ナンバーがひとつしか違わないにもかかわらず、前面はまったく異なっています。
新製グループ(1956年度製)
このグループの特徴は、それまで屋根上にあったライトを妻面に埋め込んだこと。前面傾斜窓に埋め込みヘッドライトという、101系・103系に決定的な影響を与える前面デザインとなりました。
第2次増備車からは屋根を木製から鋼板に変更し、雨どいも鋼製に。屋根カーブの曲率も縮小したため、屋根が浅い印象になっています。ただし、「鋼板屋根車は鋼製雨どい」というルールに当てはまらない「鋼板屋根に木製雨どい」という車両も、クハ79449(写真7)をはじめ複数存在しました。なぜそのような車両が存在したのか……、一筋縄ではいかないところが旧型国電の奥深さです。
新製グループ(1957年度製。一部1956年製造あり)
いよいよ真打ち登場。全金属車920番台です。屋根も床にも鋼板を使用した、文字通りの「全金属」が最大の特徴です。雨どいを車体上部の内側に納めた美しい平滑なボディーと、国鉄通勤電車前面の「三種の神器」前面傾斜窓・埋め込みライト・行先表示器が初めてそろった前面デザインは、後に登場する101系・103系にもコピーされ、受け継がれました。
1957年度に新製されたこの920番台をもって、72系の製造が終了。旧型国電の有終の美を飾るとともに、新性能車101系の製造が始まりました。
今回紹介した「鉄道懐古写真」
撮影時期 | 撮影場所 | 写真の説明 | |
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写真1 | 1977年9月 | 青梅線奥多摩駅 | クハ79176。無電装のモハ63から改造された車両 |
写真2 | 1981年3月18日 | 可部線可部駅 | クハ79004(写真左)とクハ79328(同右)。 クハ79004は木造車の鋼体化改造で生まれた車両で、 前面の裾周りに特徴が。前面がHゴム化された晩年の姿 |
写真3 | 1978年2月26日 | 南武線武蔵溝ノ口駅 | クハ79310 |
写真4 | 1977年5月 | 南武線矢向駅 | クハ79344 |
写真5 | 1976年12月 | 南武線稲城長沼駅 | クハ79345 |
写真6 | 1978年5月4日 | 横浜線新横浜駅 | クハ79432 |
写真7 | 1978年1月15日 | 南武線中原電車区 | クハ79449(写真左)は、1955年製のクハ79353(右)と比べ ライトの位置が変わっただけで垢ぬけた感がある |
写真8 | 1978年4月9日 | 鋼板屋根車クハ79427。雨どいが鋼製になり細くなった | |
写真9 | 1979年11月24日 | 鶴見線鶴見駅 | クハ79932。平滑なボディーが照明に映える |
写真10 | 1978年1月 | 南武線中原電車区 | 101系と並ぶクハ79938。黄色に塗り替えたらほぼ101系 |
※写真は当時の許可を取って撮影されたものです
松尾かずと
1962年東京都生まれ。
1985年大学卒業後、映像関連の仕事に就き現在に至る。東急目蒲線(現在の目黒線)沿線で生まれ育つ。当時走っていた緑色の旧型電車に興味を持ったのが、鉄道趣味の始まり。その後、旧型つながりで、旧型国電や旧型電機を追う"撮り鉄"に。とくに73形が大好きで、南武線や鶴見線の撮影に足しげく通った