今回は下手な塗装や泥でボロボロに見えるトランスミッションをきれいに仕上げる。スクーターのトランスミッションはエンジンと違い、外部から目立つ位置にあり、見た目の印象を大きく左右するパーツだ。

ミッション裏側を地道に磨く。他人からは辛気臭い作業に見えるが、本人は嫌なことを忘れて没頭できる至福の時間

しかも「ジェンマ」は原付スクーターでありながらVベルトではなく、3速オートマチックというぜいたくなメカニズムを採用している。ピカピカに光り輝かせたい。

徹底的に磨くため、カバーを外す

レストア中の「ジェンマ」のトランスミッションは泥だらけで非常に汚れている上に、なぜか黒く塗装されている。現代のスクーターはみんな黒くしてある部分なので、前オーナーが現代風にアレンジしたのかもしれない。しかし、オリジナルのこのパーツはアルミの素材を生かしたクリア塗装。光り輝くその状態に戻したい。

作業手順として、こういう場合に分解するべきかどうかは悩むところだ。理想はすべて分解する「全バラ」だが、理想を追求しすぎるとレストアが終わらず、費用もかさんで嫌気がさしてしまう。レストアを楽しむため、程々にとどめることも必要なのだ。それに、壊れてもいない部分をわざわざ分解して、壊してしまうこともありがちなトラブルだ。

トランスミッションは黒く塗装されているが、よく見ると左上は未塗装。かなりいい加減だ

電動のインパクトドライバーでネジを外していく。この工具は5,000円くらいから購入できる

カバーが貼り付いていたのでマイナスドライバーなどを使い、時間をかけて取り外した。露出したメカが美しい

外したカバーに剥離剤を吹きかけてしばらく放置。手抜きの塗装なので簡単に剥がれる

迷ったが、よりきれいに仕上げるため、カバーだけ外すことにした。新品のガスケットが必要になるが、仕方がない。アルミの無垢でいかにも高そうなこのカバーは、プラスネジで固定されている。すべてのネジが固着していたが、秘密兵器「電動インパクトドライバー」を使い、一瞬で外せた。この道具がなかったら1日がかりの仕事だっただろう。

カバーを外すと、内部の構造が露出した。あまり緻密すぎないギヤやチェーンがノスタルジックな雰囲気で、つい見惚れてしまった。スクーターといえばVベルトの無段変速が普通で、それは30年前も同じ。「ジェンマ」の3速オートマは当時でもかなり珍しいメカニズムだった。乗り味も独特なので、いまからテスト走行が楽しみだ。

果てしなく続く地道な作業こそ、レストアの楽しみ

取り外したカバーの塗装は、塗装剥離剤で剥がす。剥離剤はホームセンターではあまり見かけないが、ネットショップで探せばすぐに見つかるし、価格も安い。純正塗装では苦労する場合もあるが、今回のように手抜きのスプレー塗装であれば簡単に剥がせる。

塗装を剥がしたところ、このカバーには大きな傷があることがわかった。幸い、このカバーはアルミ製でメッキされていないし、肉厚も分厚い。つまり、傷は削って消すことができる。板ヤスリでゴリゴリと削るところから始めて、サンドペーパーの320番・600番で磨き、最後はいわゆる「バフがけ」をしてツヤを出した。

バフがけをていねいにやると、鏡のような「鏡面仕上げ」にできるが、今回はそこまではしない。ある程度ツヤが出たら、クリア塗装で仕上げる。その際に非鉄金属用プライマーで下地処理をすることが重要。アルミは塗料が密着しにくい素材だからだ。

ミッション本体は大量の泥をていねいに落として磨いていく。30年分の泥はオイルと混ざり、堅い粘土状になっているので、洗剤やパーツクリーナーでは落ちない。スクレーパーやワイヤーブラシで削り取るしかない。形状が複雑で、非常に手間がかかる作業だ。

納得できるまで磨き上げたら、新しいガスケットを使ってカバーを取り付け、オイルを規定量入れておく。ガスケットを注文するときには、ネットオークションで見つけて購入しておいたパーツリストを利用した。バイクのレストアを行うなら、パーツリストは必須だと考えておいたほうがいい(ネットでパーツリストを参照できるヤマハ、カワサキは別だが)。

転倒によるものと思われる、いわゆる「ガリ傷」がたくさん付いている

板ヤスリやサンドペーパーで傷を消した。下面の傷は通常見えない位置なので無視。最後はバフがけで仕上げた

メタルプライマーで下塗りしたあと、通常のラッカースプレーのクリアで仕上げた

トランスミッションの裏側は泥汚れがひどい。ひたすら地道に磨く

新品のガスケットを使用して仕上げたカバーを取り付ける。このガスケットが意外と高い

パーツを注文するにはこのようなパーツリストが必須といっていい。30年前のモデルである「ジェンマ」のパーツリストも容易に手に入ったが、価格は高めだった

今回は手間のかかる地道な作業が多かった。しかし、こういう作業を面倒だと思っているようでは、レストアはできない。程度問題だが、今回の程度のドロ落としや磨き作業は、レストアの苦労ではなく、楽しみといえるものだ。嫌なことも心配事も忘れて没頭できる単純作業を楽しみたい。

レストア必須アイテムを紹介!

今回、トランスミッションの裏側のツヤを出す磨き作業に使ったのがスチールウールタワシ。ホームセンターには磨き作業に使う道具が数多く売っているが、どれも高い上に、アルミに使えるものは少ない。ところが、このスチールウールタワシは1袋で108円と信じられないほど安い上に、使い勝手も非常にいい。

「スチールウールタワシ」

アルミだけでなくメッキパーツやスチールパーツの汚れ落とし、サビ落とし、艶出しに幅広く使える、バイクレストアの必需品だ。

ここまでのレストアに費やした金額

本文で紹介したもののほか、センタースタンドとマフラー用ガスケットも購入した。総予算3万円の半分を使ったが、まだ余裕があるといっていいだろう。

品名 金額
車両購入(スズキ「ジェンマ50」) 1万100円
中古マフラー 91円
メインスタンド 34円
中古マフラー、メインスタンドの送料 1,404円
パーツリスト(送料210円込) 1,216円
ミッションカバーガスケット 1,512円
キックレバーシール 140円
マフラーガスケット 378円
ミッションカバーガスケット、キックレバーシール、マフラーガスケットの送料 1,150円
合計 1万6,019円