今回からレストア作業に入っていくのだが、まず最初にやるのはエンジンをかけること。「いきなり!?」と思うかもしれないが、他をきれいに仕上げた後、エンジンが致命的に壊れていることに気がついた……という事態だけは避けたいところ。エンジン音を聞くと俄然やる気がわいてくるから、という理由もある。

自作した木製の台の上にバイクを載せた。このバイクはなぜかメインスタンドがなくなっているので、サイドスタンドと自動車のパンク修理用に積んであるジャッキでリアタイヤを浮かせた

ボロボロなバイクでも、数時間の作業でエンジンはかかる…はず

長期間にわたり放置されたバイクを新車同様に復活させるのはなかなか大変なのだが、エンジンをかけるだけなら意外と簡単。そもそもバイクやクルマのエンジンは非常に丈夫で、10年以上雨ざらしになっていたバイクでも、エンジン内はほとんどダメージがないことが多い。レストアといっても、エンジン本体を分解するようなことはあまり必要ないかもしれない。

では、どこを修理するのかというと、たとえばキャブレター。修理というより分解して掃除するのだが、ほとんどの場合はこれだけで(ガソリンとバッテリーを新品にする必要はあるものの)エンジンがかかるものなのだ。

バッテリーはとりあえず別のバイクのものを流用。サイズが違っても電圧さえ同じならテスト用として問題ない

エンジン部分を覆うカバーを外す。外した部品はすべて、コンテナボックスに入れて整理しておく

左右のカバーを外したところで、右側の塗装が色違いであることが判明。塗装なしで仕上げられないかと思っていたが、無理なようだ

邪魔になるエアクリーナーを外す。フィルターはほぼ新品だった

新品のようにきれいなキャブレター。わりと最近取り外して分解清掃されたのではないだろうか?

そんなわけで、「ジェンマ」の作業を進めていこう。スクーターは整備性が非常に悪いものだが、この「ジェンマ」はカバー類の取外しが簡単にでき、スクーターにしては作業しやすそうだ。左右のカバーを外し、エアクリーナーボックスを外すだけで、キャブレターにアクセスすることができた。

分解作業を始めてからほんの10分ほどで、キャブレターとご対面。当然、オイルまみれ・ガソリンまみれの真っ黒な姿だろうと予想していたのだが、なんと新品のようにきれいだった。タイヤの状態などから、このバイクがごく最近まで稼働していたらしいことはわかっていたものの、それに加えて整備も行き届いていたようだ。続いて2ストエンジンでは劣化しやすい点火プラグも取り外して点検。こちらも新品同様だった。これなら、キャブレターには触らずにエンジン始動にチャレンジできそうなところだろう。

エンジン始動成功! あとは外観を蘇らせるだけ

ガソリンタンク内は空だったので、新しいガソリンを入れる。もし古いガソリンが残っていたら、吸い出すなどして捨てないといけないのだが、ここでも手間が省くことができた。2ストバイクで重要なオイルはタンクにほぼ満タンだったので、問題なしとする。

そしていよいよエンジン始動にチャレンジ。セルを回したものの、セルが回る音がしただけで、エンジンがかかったような音はなかった。ちょっと難しい言葉で、「初爆がない」というのだが、この場合はプラグに火花が飛んでいないか、ガソリンがまったく供給されていない可能性が大だろう。

プラグは点検済みなのでガソリンをチェックすると、キャブレターまで流れてきていなかった。どういうことかと調べていくと、なんとシートの下にガソリンコックがあることが判明。このコックをリザーブの位置にすることで、ガソリンが流れてきた。どうやらガソリンを入れる量が少なすぎたようだ。

もう一度トライすると、見事にエンジンがかかった。2ストの原付なので、聞きほれるような良い音ではないものの、非常に懐かしい音だった。スロットルをひねると、リアタイヤもちゃんと回る。ついでに燈火類やブレーキもチェックし、すべて異常がないことを確認した。念のため、ガソリンを補給してコックを通常の位置に戻し、エンジンが始動できることをもう一度確認した

こんなところに燃料コックを発見。マイナスドライバーがないと回せないので、一般ユーザーはほとんど使わなかったことだろう

写真ではわかりにくいが、エンジン始動成功。この音を聞くと、このバイクを蘇らせてあげたいというモチベーションがわいてくる

結局のところ、このバイクは単にガス欠だっただけで、どこも壊れていなかったようだ。おかげでキャブレターを分解する作業を紹介できなかったが、このバイクが完成した後、次のバイクで紹介したいと思う。

エンジンだけでなく、駆動系や電装系も正常であることがほぼ確認できたので、次回からは外観をきれいに蘇らせる作業に専念したい。……というと、あともう少しで完成しそうなイメージを持たれるかもしれないが、レストアというのは機械部分の修理は意外と簡単で、化粧直しのほうが何倍も大変なのだ。まだまだ作業はこれから。

レストア必須アイテムを紹介! 「ニトリル製グローブ」

ニトリル製グローブ

こういった作業に使う手袋といえば軍手が定番だが、手を汚したくないならディスポーザブル(使い捨て)タイプのグローブがおすすめ。さまざまな素材があるが、ラテックス(天然ゴム)製は高価、ビニール製は細かい作業ができないので、あまり高価でなく、しかもラテックス並みの使い心地を実現したニトリル製グローブを推奨したい。写真のようにていねいに脱げば、ディスポーザブルといっても数回は使えるだろう。

ここまでのレストアに費やした金額

  金額
車両購入(スズキ「ジェンマ50」) 1万100円
合計 1万100円