今回は東京都内にある某オープンカフェに行った時のことをお話しよう。このオープンカフェは、テラス席ならペットの同伴がOKという店。その日は天気もよく暖かい気候だったので、ペット連れでない私もテラス席に座った。しばらくすると、日本人とは思えないようなスタイル抜群の女性がゴールデン・レトリーバーと一緒に来店してきた。
その女性は、カジュアルを装ってはいるが、きれいに磨かれた靴をさりげなく履き、ブランド物のバッグをさりげなく持ち、さりげなくかけているサングラスもブランドものだった。さりげなくメニューをめくるその指先は、シンプルだけどものすごくきれいなネイルアートが施されていた。
隣の席に座ったその女性からは、「私、全然さりげなくてよ? ちょっとそこまでお茶しに来ただけだから」オーラがビシビシ伝わってくる。スタッフがやってくると、「カフェオレ、くださる?」と言っていた。
彼女が注文したカフェオレが届いたころ、新たな客が来店してきた。これまたスタイルのいいモデル風の女性である。撮影帰りかと思うくらいのオシャレな服装で、ラブラドール・レトリーバーを連れていた。以降、ややこしくなるので、先にいた女性客をA、あとから来た客をBとしよう。
Bが来店したその瞬間、AがBのことを"チラッ"とみていたのを私は見逃さなかった。軽く咳ばらいをした後、「明日にはパパが出張先のフランスから帰ってくるからね」とゴールデンに話しかけていた。
なんだろう、この違和感。それ、いま言わないといけないか? これは、明らかにBを意識しているような気がする。すると、Bの携帯の着信。「わかりました。明日の撮影、集合場所は○○ですね。あ、そのあとは○○の撮影でしたよね?」とやたらと大きな声で話していた。気のせいだろうか、「撮影」という部分を強調していたのは……。
AとBとの間にただならぬ緊張感が走っている。Aは金持ちアピールを、Bはモデルアピールをし、一触即発の状態。固唾をのんで見守っているとき、どこからか「ハッハッハッハッ」という間抜けなが聞こえてきた。なんだ、なんだと思っていると、Aが「○○ちゃん、やめなさい!!! 」とヒステリックに叫んでいる。足元を見ると、BのラブラドールをAのゴールデンがガシッと捕まえて、必死に腰を振っているではないか。Bの「きゃー!!! 」という悲鳴でスタッフがあわててやってきて、2匹の犬を必死で引き離していた。
B「ちょっと! どういうしつけしてるのよ!!」
A「そっちが近くに座るからいけないんでしょ! 」
B「すぐに腰を振るような下品な犬を連れてこないでよ! 」
A「うちの○○ちゃんを下品呼ばわりするなんて! 謝りなさいよー!! 」
先ほどの緊張感あふれる水面下での戦いから、大声で怒鳴りあいの喧嘩に突入。呆気にとられてその様子を見ていると、「他のお客様の迷惑になりますので、お帰りください」とスタッフ。2人と一緒に2頭の犬も店を出て行ったが、道端で第2ラウンドが始まったようで、ギャアギャアと罵り合っている。そんな女性2人の間でショボーンとしている犬2頭。なんとも。ちょっと犬に同情してしまった出来事でした。
イラスト: 伊東ぢゅん子