皆さん、はじめまして。リカレント教育コンサルタントの津田恵子と申します。

私は、「一人ひとりの能力が活きる社会を実現する」というミッションを実現するためリカレント教育の普及や採用コンサルティングを通じて、人々の幸せな働き方を支援する会社を経営しています。

このたび、「若手ビジネスパーソンのリスキリング」をテーマにコラムを担当させていただくことになりました。

■リスキリングとは何か

2022年10月、岸田首相が所信表明演説で、個人のリスキリング(学び直し)の支援に5年で1兆円を投じると表明し、大きな話題となりました。また更に、岸田内閣『骨太の方針』2023でも言及された「リスキリング」。その意味は、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」です。

デジタル化をはじめとする、急激なビジネス環境の変化に対応するため、ビジネスパーソンは自分の持っているスキルを新たな領域に、スピード感を持って学び直していくことが求められています。リカレント教育(学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すこと)との違いを聞かれることもありますが、仕事に活きるリカレント教育は、スキルにフォーカスされるべきであり、広義の学び直しという意味では同じだと考えています。

■骨太の方針から見えてきた、リスキリング3つのポイント

「リスキリングだなんてわざわざ言われなくても、業務に必要なことは学んでいるし、会社からの研修で資格も取得したし……」などとお考えになる方もいらっしゃるでしょう。いま、国の出している方針を読み解いていくと、リスキリングに関して下記のような意図があることが分かります。

ポイント【1】リスキリングにより賃金が上がる

日本は長い間(特に失われた20年以降)、賃金上昇率が低く、グローバルに見ても、給与が上がらない国でした。今後は、【個人】の能力開発支援、【企業】がスキルで人材の価値を図るための仕組み、【市場】で労働力が移動するという三位一体で雇用システムを転換していく。海外のように、人材流動化を推進することで、人材マーケットが機能し、市場価値のあるスキルを持った人は高い報酬が望めるというわけです。

ポイント【2】リスキリングへの支援は企業から個人へ

現在、リスキリングは企業から提供されるプログラムに対して、従業員がそれを受講し、一定の基準を満たすと、企業が補助金や助成金を受け取ることができる仕組みになっています。具体的には、DXリスキリング助成金(東京都)や人材開発支援助成金などが該当します。一方で、個人が直接受け取ることができる支援は、教育訓練給付金が代表的ですが、まだ多くの選択肢があるとは言えません。

今後はより個人に直接給付ができるように、財源などを検討するということです。会社に制度がない、学びたい内容がないなど、自費でリスキリングを考えている方には朗報ですね。ぜひこのタイミングで情報収集をすべきかと思います。

ポイント【3】自己都合の失業給付、今より早く受け取り可能に

離職期間のない転職をされている方には、馴染みが薄いかもしれませんが、「労働者が失業した場合及び雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に、必要な給付を行うとともに、その生活及び雇用の安定を図るための給付」が失業給付です。現在、その給付を受けるためには、離職理由が会社都合か、自己都合かによって、支給開始期間が異なっています。キャリアアップや給与アップを目的に転職する人は、「自己都合退職」であり、現行制度では、失業給付の受給まで2ヶ月+7日間を要します。

これを、失業給付申請前に、リスキリングに取り組んでいた場合、会社都合退職と同様に扱い、7日間の待期期間を経てすぐに受け取れるようにする方向で進んでいます。したがって、今後は、前もってリスキリングに取り組んでおくことで、自己都合退職をした場合でも早めに給付を受け取れる可能性が高くなると言えるでしょう。

■リスキリングの始め方

リスキリングの重要性が分かったところで、じゃあ何を学ぼうか? と具体的な講座を探したくなるところですよね。そこはぐっと我慢して、より効果的なプロセスで進めていきましょう。

<Why>なぜ学ぶのか

これがリスキリングをする上で一番重要な視点です。国の施策でも言われている通り、給与アップを自身の目的とするとよいでしょう。本業と違う領域でリスキリングをする場合は、副業で収入を上げることを目的にしても良いと思います。また、同じ業界の処遇を知るために、転職サイトに登録してみるのも参考になるはずです。

<What>何を学ぶのか

ここにたどり着くために、必ずやっていただきたいのが、「キャリアの棚卸し」です。入社してから今に至るまで、どのような職種を経験し、どのようなスキルを身につけたのかを、可視化して下さい。更に、私自身もやってみて効果があったと思うのは、「学びの棚卸し」でした。学生時代から遡って学びについてだけ振り返っていきます。プログラミングや統計学などデジタル領域スキルの習得には、数学の概念が必要となります。高校で数学から逃げていたという方は、最初は少し苦労するかもしれません。しかし、その分リスキリングでぐっと違う仕事の筋力がアップする可能性が高いです。学びの棚卸しについては使えるシートをプロフィール欄に掲載しています。ぜひご活用下さい。

現在のスキル評価については、自分一人では分かりづらいはずです。職場で1on1をされている方も多いと思いますが、「リスキリング」をテーマに一度上司と話してみることもお勧めです。給与を上げるためには、その会社でより必要とされているスキルを習得する必要があり、上司は多くの情報を持っている可能性があります。何を学ぶかはプログラミング講座ありきではなく、自身の目指すキャリアから選ぶべきだと思います。

<How>どうやって学ぶのか

コロナによりオンラインで仕事をすることが一般化してから、学びについてもよりオンライン化が進むようになりました。また、グループワークが多く、output中心の学び方もあります。ライフイベントが重なっている方もいらっしゃるでしょう。一人ひとりのライフスタイルに合わせて、学びの方法を組み合わせていくことがおすすめです。こちらについては、第3回で詳しく触れたいと思います。

また、つい学ぶ前に見落としがちですが、学んだ仲間とのコミュニティも大きな財産となります。切磋琢磨して一緒に学んだ仲間同士で、情報交換や交流など、有益なコミュニティがあるかどうかも、チェックしてみて下さい。

<Review>学んでどうだったか

最後に、学びが終わったら、その振り返りを行います。予定通りに学ぶことができた人、途中で挫折してしまった人もいるかもしれません。思い通りに進まなかった場合は、学ぶ内容、難易度、学び方のどこで問題があったかをレビューしましょう。そして、狙い通りに学ぶことができた人は、収入アップに繋がっているかどうかを、レビューして下さい。 習得できた新しいスキルは、上司やチームメンバーへ積極的に報告してみるとよいでしょう。また、転職サイトに登録している場合は、自身の職務経歴書をアップデートし、スカウトメールの反応に変化が出ているかどうか、チェックするとよいと思います。その上で、新たなリスキリング目標を設定し、PDCAを回していきましょう。

次回は、給与アップに繋がるリスキリング領域の探し方、についてご説明します。