リモートワークにおける社員の自律をテーマに連載をしてきました。遠隔で部下のパフォーマンスを高めるためには、部下のオーナーシップを育てることが求められます。上司には、いつもと違う刺激を提供することや、「遊び」を仕事に引き入れることが大切であるということです。
最終回のテーマは「遊び場」の構築。周囲からの批判や指摘を回避し、部下の「遊び」を継続させための場づくりに必要なポイントを提示します。
外野からの「冷や水」に備える
例えば、部下が自分の興味のある仕事に取り組んでいるときに、会社の上層部から「それで成果は上がるの?」といった横やりが入ることはよくあります。
また、同僚から冷ややかな眼差しを向けられたり、同じチーム内からも、批判的な態度を示されたりするかもしれません。部下が関心を示す内容が、効果的・効率的・一般的な「正しい」内容でなければ、会社やチームメンバーは共感しにくいでしょう。
しかし、オーナーシップを強化するような「遊び」とは、大抵そういったビジネス上の「正しさ」から逸脱した取り組みになることが多いものです。一見すると、成果にもつながらない、生産性を高めることも期待できない。外野から見れば、「無駄」な取り組みに見えるでしょう。
さらに部下の楽しそうな様子や、「仕事っぽくない態度」が周囲の反感を買うこともあると思います。このような場合に備えて、上司は部下の「遊び」を守るために環境を整える必要があるのです。
「遊び場」をつくるマネジメント
外野からの「冷や水」をどのように回避すれば良いでしょうか。このようなときに上司として支援できることは、次の3つです。
「秘密基地」をつくる(境界のマネジメント)
まずは「秘密基地」をつくることです。相談者である自分と部下の接点や、周囲の利害関係者との接点を調整し、部下の不用意な露出や、周囲からの介入を減らすための対応が求められます。
特に公式的な場と距離をとることが大切です。例えば、課内の集合ミーティングや社内の会議、上層部との対話機会などで、「部下の遊び」について言及しない方が良いでしょう。
場の公式性が強いほど、活動の効果性・生産性を問われたり、批判や指摘を受けてしまったりするためです。部下の遊びについて相談にのる場合は、周囲からの干渉を受けにくい非公式な場で進めるのが良いでしょう。
「大義名分」を考える(意味のマネジメント)
また、必要に応じて周囲に部下の活動を説明することも必要かもしれません。なぜそこに時間や労力を注いでいるのか、周囲が納得する「大義名分」を提示し、その行為の妥当性を主張する必要があります。
大義名分を考えるときは、組織が認めやすい文脈を意識することが大切です。
「部下個人の自律やモチベーションのためと力説しても理解されなかった」
「モチベーションより業績を伸ばせと言われた」
大義名分では批判を回避できなかった、という管理職はよくいます。部下・上司それぞれの都合を説明しても、周囲は納得してくれないことが多いようです。
大義名分を語る際には、職場で重視される価値判断を意識して、部下の活動を正当化することが大切です。「営業効率を上げるため」「顧客からの依頼に対応するため」など、業績や顧客満足につながる文脈を踏まえることが求められます。
「遊び仲間」の確保(ネットワークのマネジメント)
部下が利害関係のなかで動きにくさを感じている場合は、職場の外にネットワークを拡げてあげるのも良いかもしれません。部下の関心に見合った「遊び仲間」を紹介してあげるのです。
取引先の社員やパートナー企業、自社のOBOGなどと部下の関係をつなぎ、本人が仕事を進めるうえで必要な知識や経験を手に入れやすくしてあげると良いでしょう。
パラドクス・マネジメントのすすめ
このように、部下のオーナーシップを高めるためには、多様な利害を調整しながら、その芽を育てていくことが求められます。
多様化が進み、仕事や働き方に対する向き合い方は実にさまざまです。また、市場の変化が著しいなかでは、仕事におけるアプローチも常に変化していくことが求められます。
そのなかで、部下の興味関心や仕事の進め方が会社の求めるものとズレていくのは当然の帰結と言えるでしょう。そのズレを会社側の主張で埋めようとすれば、部下のオーナーシップは育ちません。
このような時代のなかで、部下を育てていくならば、上司は部下と会社の考え方の違いに板挟みになるのは必然です。部下の主体性を育成するということは、会社の「従」業員である部下のなかに、本人の独自性を見出し、育てていくという行為です。
その意味で、常にある種の矛盾を抱える行為といえます。
そのようなときこそ、互いにとって良い関係を結べるかが問われるでしょう。一方のパワフルな正論ばかりを主張するのではなく、双方の「正しさ」を見据え、両立するための手段を講じることがミドルマネージャーの役割です。
状況に応じて、それぞれの利害を調整しながら、すべてのプレイヤーにとって価値が生まれる方法を検討する姿勢が求められています。
執筆者プロフィール:神谷俊(かみや・しゅん)
株式会社エスノグラファー代表取締役
大手企業を中心にオンライン環境における組織開発を支援する。2021年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。経営学修士。