リモートワーク環境で、部下が成果をあげるためにはどうすればいいか? をテーマにコラム連載をしてきました。
第一回では、「遊び」というコンセプトを提示し、面白く仕事をさせることの重要性を説明しました。第二回では、「遊び」を生み出すための基盤である部下のリソースへの配慮と、部下がオーナーシップを持つことの重要性を提示しました。
今回は、部下の仕事に対するオーナーシップを、どのように育てていくのか? に注目します。「自分の」仕事という感覚を醸成するために、刺激すべきポイントについて解説をしていきます。
失敗するリスクが「自分ごと化」を促す。
オーナーシップを育てるために大切なポイントは「挑戦させること」です。
「自分の能力レベルでは、この仕事は失敗するかもしれない」
このような挑戦をするとき、人は多くの学習を必要とします。失敗のリスクを知覚することで、自分に足りないものを意識し、それを補うために労力を注ぐはずです。不足している情報を積極的に集めたり、新たなアプローチを検討したりするかもしれません。さらに、なんとかして、成功率を高めようと探索や実験を繰り返すことも。
このような試行錯誤のプロセスによって、その仕事は本人の意向や考えが強く反映されたものになるでしょう。自分で準備を進めていくことで「すべてを分かっているのは自分」という感覚が刺激され、自然とその仕事に対するこだわりが生まれます。「これは自分の仕事だ」という意識が高まっていくのです。
上司が持ちかける「挑戦」は逆効果
では、部下に挑戦させればオーナーシップは育つのか? というと、それほど単純な話ではありません。
上司が「挑戦に値する仕事」だと思って部下に促しても、本人がそれを「成功させたい」と思わなければ試行錯誤は生まれず、オーナーシップは醸成されないでしょう。
「今期の目標はちょっと高めに設定した。ぜひ挑戦してほしい」
「今回の案件は大変だと思う。でも、いまは成長するときだ。ぜひ挑戦してみてくれ」
このように、上司から「挑戦」を指示するときは要注意。部下がその目標達成に関心を持っていないと、いくらその仕事の負荷を高めたところで、挑戦しようという気持ちは生まれないでしょう。
場合によっては、上司の持ちかける「挑戦」を指示・命令として認識してしまうかもしれません。そうなってはオーナーシップが醸成されないばかりか、「上司に従う姿勢」を促し、フォロワーシップが強化されてしまう可能性もあります。
「わがまま」な部下を育てる
では、挑戦的な意欲を高めるためにはどうすれば良いでしょうか。このような質問を投げかけると、管理職の方からよく返ってくるのが次のような回答です。
「部下のやりたいことをヒアリングする」
「部下に成長目標を聞く」
部下の興味や関心にフィットするような挑戦を提示しようとすることはとても大切です。部下が「成功させたい」と願うものが分かれば、部下が主体的に仕事を進める機会を提供できるかもしれません。
ところが、これがなかなか難しいのも事実。「何をやりたいか?」と聞いても「とくに無い」と答える部下も多いでしょう。そもそも、自分のやりたいことがハッキリしている部下は、上司が言わずとも日常的に挑戦を進めるし、仕事に対するオーナーシップも醸成しているはずです。
そこでお勧めするのが、切り口を変えて、部下の「わがまま」を聞いてみること。ここで言う「わがまま」とは、部下が自己中心的に無理・無謀な主張を展開することではありません。仕事を進めるうえでの「わがまま」です。
本人の役割や会社からの期待などを共有したうえで、部下は自分の仕事をどうしたいと考えているのかを丁寧にヒアリングしてください。そのなかで、「現状を変えたい」という声が出てくるなら、積極的に支援をしていきましょう。そういった部下主導の小さな改善や変化は、やがて挑戦的な仕事を生み出していくからです。
「わがまま」を育てて、さまざまな挑戦を支援し、本人のオーナーシップを醸成していく。このような流れで部下と向き合っていくことが求められます。
執筆者プロフィール:神谷俊(かみや・しゅん)
株式会社エスノグラファー代表取締役
大手企業を中心にオンライン環境における組織開発を支援する。2021年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。経営学修士。