コロナ禍を背景に半ば強制的に企業が導入し、試行錯誤を繰り返してなお十分な成果を得られていないのがリモートワークに関する問題です。
「リモートワークの定着を進めたいがうまくいかない」
「リモートワークになって部下がやる気を失った」
「必要なこと以外、まったくやらなくなってしまった」
経営者や人事担当者、現場の管理職からはこのような声をたびたび耳にします。本連載では、管理職を悩ませるテレワーク下でのマネジメントに注目。
テレワーク環境で部下が意欲的に取り組むために改めて押さえておきたいポイントを、拙著『遊ばせる技術~チームの成果をワンランクあげる仕組み~』(日本経済新聞出版)から抜粋して解説していきます。
「負のループ」から抜け出せないリモートワーク・マネジメント
「リモートワークで部下のパフォーマンスが上がった」という企業は、実は少ないようです。多くの企業はいまだ試行錯誤のなかにあり、「リモートワークに適応できた!」とは言えない状況なのかもしれません。
特に現状よく相談されるのは、次のような問題です。
(1)権限委譲したら部下がサボる
部下を自律させようと、権限を付与して仕事の進め方などを任せたにもかかわらず、部下がその期待に応えることなく仕事の手を抜いてしまったという悩み。「部下になるべく干渉しない」ように配慮した結果、明らかに手を抜き始めてしまったようです。
(2)テクノロジーで細かく管理すると部下がやる気を失う
管理をしすぎて問題が生れるケースもあります。仕事の進捗確認のためテクノロジーを積極的に導入したら管理が効きすぎたというケースです。いわゆるマイクロマネジメントは部下の「主体的に仕事を進める姿勢」を弱めてしまいます。中には、PC画面の「アラート」「リマインド」が部下の焦燥感や危機感、ストレスを高めた、という報告もありました。
さらに、この2つが交互に発生している職場も意外と多いようです。つまり、
(1)自律性を尊重して「放置」をしていたら部下のパフォーマンスが停滞→(2)テクノロジーを導入してしっかり管理を進める→それが過剰管理をまねき、部下のパフォーマンスが停滞→また(1)に戻り権限委譲をしていく……
という「負のループ」です。そこで、この問題から抜け出すための「意識すべきポイント」を紹介します。
キーワードは「遊び」
大切なことは、部下の仕事内容に「遊び」があるのかという点です。
ここでいう「遊び」とは、怠けたり、サボったりという意味ではありません。「部下がまるで遊びに興じているかのように、夢中になって取り組める要素が仕事の中にあるのか?」という意味です。
仕事が面白く、楽しいものであれば、部下はサボらないでしょう。むしろ自分のポテンシャルを十分に発揮して取り組んでくれるはずです。
ワークエンゲージメント研究の権威である心理学者のウィルマ―・シャウフェリ教授によれば、面白がって仕事をしている状態がパフォーマンスの向上につながったり、社員の心身の健康状態をより良いものしたりすることを提示しています。
本来、人間は放っておいても「遊び」を求める生き物です。自らの能力を試したいという欲求を持っており、より挑戦的で刺激的なものを「面白い」と感じる性質を持っています。
きっと部下のなかにも、仕事を面白くしたいという本能や、より新しいものに挑戦してみたいという好奇心が眠っているはずです。それを、どこまで引き出せるかが上司の腕の見せどころではないでしょうか。
仕事がルーティン業務だと「やる気」は失せる
もし、部下が毎日忙しそうに単調なルーティン業務を繰り返していたり、既に何度も手がけた事例をひたすらこなしていたりするならば、テコ入れが必要です。そのままでは、いくら管理を厳しくしても、たとえ権限を委譲しても彼らのポテンシャルは発揮されないかもしれません。
「簡単にクリアできるゲーム」を繰り返すことほど退屈で、やる気を失わせるものはありません。退屈な忙しさに振り回されているならば、上司が面白さを生み出すような「刺激」を送り込んであげることが大切なのです。
義務感や責任感だけで走っている部下の足を止めて、より仕事が面白くなる方法をともに考える姿勢が求められます。では、具体的にどうすればいいのでしょうか。実践的なポイントは、また次回以降のコラムで紹介していきます。
執筆者プロフィール:神谷俊(かみや・しゅん)
株式会社エスノグラファー代表取締役
大手企業を中心にオンライン環境における組織開発を支援する。2021年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。経営学修士。